スティーブン・フィッシュ教授はアメリカのコーネル大学を卒業、イタリア・ボローニャのジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院で修士号、スタンフォード大学で博士号を修めました。彼はカリフォルニア大学バークレー校、ペンシルベニア大学で教鞭をとっています。また、中国の南京大学、インドネシアのアイルランガ大学、カザフスタンの大学で客員教授を務めました。10冊の本を上梓し、約40の論文を執筆しました。彼はアルジャジーラ、CCTV、CNN、CNBC、BBC、オークランドTVなどのテレビ局でレビュアーを務めており、民主主義について研究をしています。ロシア語、インドネシア語、イタリア語、フランス語を習得しています。

J(ジャルガルサイハン): あなたが初めてモンゴルに来た時のことを聞かせて下さい。

フィッシュ: 私が初めてモンゴルを訪れたのは1997年12月です。2度目はその15年後の2012年2月に訪問しました。今回は3度目ですが、嬉しいことに-30℃の極寒の世界ではなく、暖かい時期に来ることができました。

J: あなたは20年前と現在の両方のモンゴルを見ています。そして政治学者です。ロシアや中国にも行ったことがあります。そういう意味であなたは、社会主義体制が崩壊した後のロシア、中国、モンゴル三カ国について詳しいと思います。20年前と比べてモンゴルはどのように変化したと感じますか?

フィッシュ: 言うまでもなく20年前とは全く異なる国となっています。私は20年前に初めて訪蒙した時、モンゴルは民主主義世界に船出をするという大きな希望をもっていました。当時は旧ソ連との貿易関係が崩れたため、モンゴルは経済的に困難な時代でした。なぜならモンゴル経済はそれまで全面的に旧ソ連に依存していたので、ソ連崩壊がモンゴル経済に深刻な打撃を与えました。当時のモンゴルは社会主義体制に支配された形だったので国としてはあまり良くありませんでした。しかし、今日のモンゴルは民主主義へ完全に移行した国となっています。経済的にも当時と比べると遥かに改善されています。さらに、人口統計学的な変化は高水準に達していることが明らかに見て取れます。私は1997年に初めてウランバートルを訪れた際、人口の40%がウランバートルに住んでいました。しかし私が理解している限りでは、現在は全体の過半数がウランバートルに住んでいます。だから、過去数年間で多くの人々が都市へ移住したことが分かります。

J: 民主主義、特に選挙おいては、モンゴルはロシアや中国に比べて国民の選挙権が維持されています。しかし同時に批判すべき事も多くあります。深刻な腐敗などです。あなたは民主主義と市民社会の関係性をどのように考えていますか?

フィッシュ: 市民社会は民主主義の重要な要素です。具体的に言えば、市民社会を民主主義に必要不可欠な条件としてみることができます。例えば、ロシアなどの国々では強い市民社会が成り立っていません。それは民主主義が確立されていないことを意味します。私は1990年代初頭、論文を書くためにロシアに行きました。当時のロシアでの民主化の過程、民主主義運動、政治家への反対運動について調査しました。その時の調査で分かったことは、それらの運動が強くなかったということです。また規模も大きくありませんでした。しかし、モンゴルの場合は国民の大半が政治を変えるための、政府が国民への責任を持つ体制を作るという願望が強かったと思います。ロシアの場合は、エリツィン政権下では最悪な状況でしたが、国民は政府に対してそれほど強く反発していない時代でした。

J: ロシアは国民の教育レベルが高く、知的かつ読書好きで常に学ぶことを重視しているなど、社会的な指数が非常に高い国です。その様な国でどうして市民社会が強くないのですか?

フィッシュ: その通りです。しかしそこには重要な秘密があります。要因としてロシア人は団結力が弱く、政府に集団で圧力をかけないことにあります。民主主義社会・経済の近代化論的には、ロシアにおける市民社会は強くなる必要がありました。しかしそうならなかった。さらに言えば、市民の権利を確立できる時代となっても市民社会を強化できませんでした。加えてロシアでは社会主義時代から市民が消極的でした。

J: モンゴルも含めポスト社会主義の多くの国では選挙で選ばれたエリートたち、言い換えれば政党の活動が不透明です。政党は資金に関する公表をしない、市民も政党に対して資金活動の透明性を求めません。これは民主主義の強化に関係しますか?

フィッシュ: その可能性はあります。政党が資金をどこから調達しているか、国民が知っていることが大切です。これはアメリカでも大きな問題となっています。しかし、民主主義の初期段階において、人々が透明性についてあまり理解していないことが多々あります。人々が透明性について考えることが重要です。政党をどのように指導しているか、どこから資金を調達しているかを公表するように国民が要求しなければなりません。アメリカでは過去20年の間に大きな改革をしてきました。私たちは民主主義の原則を確固たるものにしていくために取り組んでいます。今日のロシアは権威主義体制へ移行しています。この動きは今現在、進行中です。モンゴルなどの新興の民主主義国では腐敗が多いことを誰もが見ています。政党はお互いの腐敗をマスコミに暴露しています。しかしこれは権威主義体制の国では腐敗が少ないということでありません。ロシアではモンゴルより腐敗がはるかに多いのです。問題は国民がそれを知らないことです。情報は秘密にされています。一つの政党が全てを管理し、議会が行政を監視できなくなった場合、腐敗を完全にコントロールできなくなります。それが今のロシアで起きています。人は誰しも過ちを犯すと思います。モンゴルでもしばしば見られることですが、腐敗があまりにも多いと国民は強い政府、強い指導者、独裁者がいれば問題を解決してくれると考えるようになります。しかしこれは部分的に問題を軽くするだけで、解決にはなりません。逆に悪化させます。

J: あなたが言ったように、モンゴルでは選挙の度に政党の腐敗問題が取り上げられます。要するに、定期選挙の度に腐敗はこれから改善されるという期待を国民に植え付けています。その一方で私たちは日々腐敗についてのニュースを耳にするので、この国に腐敗が多いことを良く知っています。しかし、腐敗について何も語られない国では、全く腐敗がないように見えます。例えば、中国では腐敗防止のために習近平国家主席が積極的に取り組んでいると見られています。あなたは中国政府による腐敗防止の活動をどう思いますか。中国の腐敗防止のための取り組みは実際に効果がありますか?或いは限定的だと思いますか?

フィッシュ: 基本的に習近平は、自分の側にいる政治関係者に腐敗防止のための取り締まりを全く行っていません。彼の反腐敗運動の犠牲となっている人たちは、彼に反対する者、彼の政敵、或いは彼と対立する可能性がある人たちです。これは本当の腐敗防止運動ではありません。これは彼が自身に権力を集中させるための活動だと見ています。また、習近平の反腐敗運動の目的は、国民に腐敗を無くそうとしているように見せ、そのような印象を与えることです。なぜならば、中国の共産党は最も腐敗に溺れている党であり、中国の政治体制がロシアのプーチン体制に近づいていると中国国民が知っていることを習近平は良く理解しているからです。だから、彼は自分の政治権力を強化するために反腐敗政策を実施しています。これは中国の腐敗が減少することを表すものではありません。

J: 中国の発展、一党独裁の政治体制、中国の特徴的な共産主義などから見て、今の体制が今後どのくらい長く維持されると思いますか?

フィッシュ: 中国共産党が革新的とも言えるくらいに権威主義体制を強化していることが非常に興味深いことではあります。鄧小平の時代、政権継承に関する規則を党内で確立させ、権力を平和的に継承するようになりました。非公式に定められた規定では、中国のどの指導者も5〜10年間国家を指導できるようになっています。この間に指導者の政治活動を長老が評価します。そして10年後に指導権を次に継承します。体制的にはとても効率的です。この体制は、指導者が権力を次の人に継承する時、例えば死亡した時などに国家を誰が指導していくかという問題を解決してくれます。だから共産党を強化させるために体制を1人から切り離すのです。これは将来何が起きるか、権力を誰が継承するのかを予測できるようにしてくれます。今の習近平と権威主義体制は、毛沢東の時代と同じく全ての権力を1人に集中させ強化しています。中国共産党の体制は強力ですが、1人に権力が集中しない仕組みでした。しかし今の習近平政権は、スターリンの旧ソ連時代に起きたことと同じ道をたどっています。

J: 1人だけに過度に依存することは、その1人だけを尊重するようにしてしまいます。しかし、遅かれ早かれいつか必ず終わりを告げます。

フィッシュ: 権力が1人に集中するということは、いつかは不安定な状況を生み出すということです。今の体制では、国家主席である習近平が亡くなった時に何が起きるかを人々は予測できない状態になっています。例えば、今日プーチン大統領が亡くなれば、明日何が起きるか誰にも分かりません。これは事前に予測することを不可能にしています。今日ではプーチンが全てを統一して管理し、財閥を監視し、政策を指導しています。もし、彼がいなくなったら、ロシアは崩壊する可能性があります。しかしこれこそが、彼が国民に抱かせたいイメージです。だから誰もが彼を取り囲んでいます。しかし、これはロシアの大きな欠陥になっています。

J: プーチン大統領が政権に就く期間はスターリンと同じ長さになります。モンゴルと隣接するロシアと中国という二カ国では、権力が1人に集中するようになりました。これはロシアと中国が不安定な状況になる原因とみていますか?

フィッシュ:  今後、この二カ国には不安定な状況が発生することは明らかです。私はこれに関して全く疑いをもっていません。スターリン死後、旧ソ連では権力闘争のためフルシチョフの過激な行動が起きました。これと同じように今のロシアにも権力争いが起きると思います。しかし、スターリン死後の旧ソ連には共産党がありました。自分たちの理念、遵守する規則、体制をもった党がありました。しかし、今のプーチン大統領のロシアにはこれらがありません。全くないと言っても過言ではありません。政党というものはなく、人々を忠実に従わせるための監視カメラがあります。何らかの理念或いは原則はありません。今日、人々が何をするかを教えるプーチンがいるだけです。彼が政治の舞台からいなくなった時、ロシアはとても不安定な状況に直面すると思います。これがロシアのアキレス腱となっています。

フィッシュ * ジャルガルサイハン