今から30年前、モンゴルは政治的には民主主義体制へ、経済的には自由市場経済への道を選び、不可逆的な目的として憲法に定めた。その理由は、民主主義が根付き、自由市場経済を構築した国の生活水準は短期間で劇的に向上してきたという歴史を鑑みてのことからだ。しかし、私たちは自ら選んだこの道を進むことなくさまよっている。

政府は寡頭制になり、経済が停滞し、国民の生活水準は向上するどころか、低下している。人々は為す術もなく地方から都市へ、都市から海外へ流出し、その流れは止まらない。国民全体の半数は首都ウランバートルに、6%が海外に居住している。

民主主義体制が確立されない原因は、民主制度の礎となる三権(立法、行政、司法)それぞれの機関が組織的に強化されてないことに直接関係している。なぜ三権分立が機能しないかというと、これらの機関の組織構造が常に変わり、人材は能力ではなく政党の党首により近い人物あること、政党への寄付金の多寡で選ばれているからだ。政党は行政機関のポストを売却し、公共事業入札で便宜を図るなどして資金を調達している。こういったことに党員たちは慣れてしまった。だから、政府の腐敗はあらゆる階層に侵食している。

政府による企業の国有化の拡大、食糧やエネルギー、住宅の価格統制、非公開で行われる土地売買取引が常態化するにつれ自由市場経済の道から遠く離れていく。さらに政府によるソフトローンの交付、根拠なき税率の引き下げ、国民への現金給付があればあるほど自由競争は消えていく。

政府の干渉が増えるほどに腐敗は拡大し、民間企業が縮小している。これが経済の自然な発展を行き詰まらせ、失業と貧困を生み出している。

国有企業はなぜ赤字になるのか?

今日、モンゴルでは101社の国有企業が事業活動を行っている。このうち12社はエルデネスモンゴル社が、5社は財務省が、84社は国有財産政策・調整庁が運営している。2016年上半期には、これら国有企業の70%が赤字に陥っている。

国有企業の赤字を国家予算、つまり私たちの税金で補っている。納税者である民間企業と競合する税金を投入された国有企業の予算書や会計報告書は非公開かつ不透明である。彼らには企業業績を一般に公開するという意志がない。失策や過誤が起きた時でさえ、誰も何も責任を負わない。政府権力者に取り入った社長が代わるのみである。国有企業の管理職は県や郡に“寄付金”を贈り、自分たちの所有者にとって有利になるよう選挙活動の準備をする。

最近では、Ts.ニャム-オソル国有財産政策・調整庁長官は、自身が所有するホスエルヘス社を通じて中小企業開発基金から5億トゥグルグの低金利融資を得たことが判明し、長官職を解かれるということがあった。

政府は商業銀行も所有するようになった。全国に500の支店を持ち、資本金が約3兆トゥグルグの政府が100%所有するステート銀行だ。この銀行には70人もの高給取りの役員がいる。

また、政府は鉄道会社や航空会社も所有している。これら全てが赤字企業である。すべての国有企業の負債合計は、2012年には3兆トゥグルグだった。この数字は2016年に10兆5千億トゥグルグ、3.3倍にも膨れ上がった。しかしこの間も国有企業の役員たちは高級車42台を190億トゥグルグで購入している。

政府は国有企業の民営化についての話をするが、実際の民営化は遅々として進まない。その理由は、国有企業が多ければ多いほど、腐敗に溺れる者にとって有益だからだ。モンゴルは2017年の天然資源ガバナンス指数調査で、100点満点中64点を獲得した。そのうちの40点が国有企業のガバナンスが占め、足を引っ張った。国有企業であるエルデネスモンゴル社の取締役会は政府から独立していない。監査や会計報告書は不十分で不透明である。そして同社は、モンゴルの戦略的鉱山で操業している10社の持株会社となっている。

政治的決定と経済的決定の違い

民主主義国家では、政治的な決定は多数派(マジョリティー)の意思によって決まる。しかし、自由市場における決定は比例的である。これを具体的な例で見てみよう。例えば、国会議員76人が一緒に昼食をとったとする。料金をどうのように支払うかを話し合い、多数決(政治的決定)で割り勘にすることになった。何を食べても飲食代を均等に割るので、ある人が他の人の注文よりも高価なステーキ、デザート、ワインを頼んだとしても、各々が支払う金額に違いはない。何を頼んでもすべての代金を76人で割った金額を支払うことになるからだ。

もし、76人がそれぞれ自分で頼んだものは自分で支払うと決めた場合(市場決定)、各自注文をする際にまず費用対効果を考える。昼食の合計支払金額は、最初の多数決の場合は、各自で支払う場合より高くなる傾向が強い。これと同じように国家予算は政治的、つまり多数決の原則で配分される。だから、歳入がどれだけ多くても歳出は歳入を超え、国の会計は常に赤字となる。

財政赤字になると政府は税率を引き上げる。税率の引き上げを受け、企業は商品の価格を引き上げる。つまり引き上げた税金分を企業ではなく、消費者が支払っている。消費者は本来の価値よりも高い料金を支払っているということだ。

政府に資金や権力が集中すればするほど、公共財産を横領する機会が増える。これに気付いて仕組みを作り、最も公共財産を横領している機関は政党である。こういったことを防ぐために、政府の権力を憲法で規制し、憲法改正には国会議員の4分の3以上の賛成が必要という規定がある。

今日、政党は政治と国民を繋ぐ「架け橋」となる義務を放棄し、公共財産と個人的な利害関係をもつ者を繋ぐ橋となっている。腐敗は全ての組織のガバナンスを崩壊させる。

腐敗を無くすためには、まず政党の資金調達に透明性をもたせ、それを監査する組織を設立する必要がある。また、赤字を出している国有企業の株式の大半を市場に公開し、民営化しなければならない。

そもそも、政府が持つべき国有企業は、民間企業にはできない公共の事業を展開し、民間企業の商いを保護し、インフラ敷設などの公共性の高い事業を担うことが適切である。 また政府は、学校や病院など公共サービスの一部を民間企業と協力して行うことができる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン