ジャムスラン・オユーマー氏は、モンゴル国立大学理学部を植生物学専攻で卒業しました。また、モンゴル国立大学で「フブスグル湖周辺の希少植物、希少化した植物の分布、資源評価」をテーマに生物学修士号を、「フブスグル湖の南部地域における植物群落移動」をテーマに博士号をそれぞれ取得しました。またオユーマー氏は、フブスグル県のグリーン運動の幹事、ハタン・ダライ自然環境コンサルティング社の社長、フブスグル湖保護担当局の地球植物学者、生態教育・研修・研究担当者、環境保護検査官、ダライ・ワン大学の地理・観光学部の学部長などを歴任しました。オユーマー氏は、アメリカ合衆国のスミソニアン博物館の鹿石の研究、モンタナ大学の放牧地保護研究、カナダのアリソン大学の民族植物学研究プロジェクト、フランスの遊牧民文化と薬用植物学の研究にそれぞれ研究者として参加していました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたが会長を務めている「フブスグル・ダライ・エージ協会」は、フブスグル湖に関する長年の調査を基に分析評価を行った報告書をいくつか公表しています。それらの報告書には、フブスグル湖の利用や現状について具体的に記述されていました。ですから、今日はフブスグル湖の現状について話したいと思います。

J.オユーマー: ありがとうございます。私は1986年に大学を卒業し、最初の職場がフブスグル湖の保護担当局でした。それから約30年に渡ってフブスグル湖に関係する仕事をしています。

当時、フブスグル湖はモンゴル経済の主なリソースでした。ロシアからの石油などの貿易には、フブスグル湖を通じて行われていました。冬の間フブスグル湖は凍結するので、氷上をトラックで石油を運んでいました。フブスグル湖は1990年に国の特別保護地になりました。これを受け、フブスグル湖保護担当局の活動が本格的に始まりました。それまでフブスグル湖は石油を運んでいたことから、湖は汚染されていました。私たちはロシアの研究者や専門家などの調査に基づき、まずフブスグル湖を清浄する活動から始めました。湖が国の特別保護地になり、ロシアからの石油などの製品の輸送が行われなくなりましたが、その反面、住民の生活は経済的に厳しくなりました。しかし、1990年代にモンゴルは市場経済へ移行したこともあり、観光という新しいビジネスチャンスが生まれました。これを受け、湖の周辺に2つのツーリストキャンプが設立され、観光客を受け入れるようになりました。そして2000年に入り、人々の考え方も変わりました。また、地価が上がり始め、人々は競って湖周辺の土地を買い始めました。2000年までは土地の利用許可は法律に則って計画的に行われていました。しかし、2000年以降は法律が守られなくなり、ツーリストキャンプの数も増加しました。

J: 私はあなたの調査報告書を拝見しました。その中に湖畔から50m以内におけるツーリストキャンプの数は32、100m以内に22あるという記述されていました。さらに湖周辺に新たに40社が土地を買って所有していますが、正確な位置が不明です。これらのツーリストキャンプのうち、56がキャンプ用地として買っています。また、個人が土地を2〜3箇所も所有し、高値で売却しているとありました。現地の住民は冬季の放牧地まで売るようになっています。その中に中古車と土地を交換したというケースさえもあると記述されていました。その報告書の他にも、重大な数字や問題が記述されていました。これらの問題をどのように解決すべきだと思いますか?

J.オユーマー: まず、フブスグル湖は淡水資源であり、世界の水源でもあります。そういった意味で特別保護地としてのステータスや保護を強化する必要があると思います。最近、ユネスコの人間と生物圏計画による世界遺産に登録する話もあり、世界気象機関による調査が行われています。しかし、世界遺産として登録されるかどうかは難しいところがあります。なぜならば、人間と生物圏計画の条件は、本当に自然が汚染されていないことが必須になるからです。そして世界遺産に登録すれば、自然とその関わりをもつ人間と共に保護計画がなされるというものです。数年前のフブスグル湖だったら世界遺産に登録されていたかもしれません。しかし、今の状況では難しいと思います。

J: あなたの報告書には、湖周辺のツーリストキャンプは地面に穴を掘っただけの簡易トイレがあるため、湖が汚染されているとありました。これについて話して頂けますか?

J.オユーマー: 昔、フブスグル湖は、夏は湖岸に草が生え、花が咲いてとても美しいところでした。しかし、今は観光地になったことで、人や車がたくさん行き来するようになり、その美しい草や花が咲かなくなってしまいました。また、雨量も少なくなり、乾燥しています。さらに土で舗装された道路ができ、夏の時期には3日間で90万人が湖を訪れています。たくさんの人が行き交うことによって、車が走ると土埃が舞い上がり、目の前が見えなくなるまでになります。その土埃が風に流されて湖に落ち沈殿しています。フブスグル湖の水が透明である特徴の1つは、湖の底が石であるからです。その湖底に土が入ってしまうと、そこに藻類が発生し、汚染によって多種多様な菌が着床します。特に湖の周辺に人が多く住んでいる部分では、藻類が多く発生し、湖は本来の姿を失いつつあります。

J: この問題に耳を傾け、解決しようとする人はいますか?どこが担当していますか?

J.オユーマー: 自然環境問題を担当する「自然環境・観光省」という大きな組織があります。その他に40人が勤めるフブスグルの特別保護局、10人が勤めるフブスグル湖とエギーン河流域保護局という機関があります。さらにフブスグル観光局もあります。自然保護を目的とする組織の数は少なくありません。しかし、このように保護する機関があっても、関係者は問題を専門的だと考え、問題そのものを重視していません。

この他に、湖の周辺にトイレの設置が禁止されている場所があります。しかし、この禁止区域に担当大臣が許可を出しています。無効にするように要求しても聞き入れてもらえません。これは政治的な利害関係があるからです。フブスグル湖には特別地帯があり、そこを特別保護区域、制限区域と分けています。本来、特別保護区域には何も入れることはできません。制限区域では、ツーリストキャンプなどが許可を得て設立できるようになっています。しかし、残念ながら、この特別地帯の区分さえ守られなくなっています。

J: 湖岸からどのくらいを特別地帯と言っていますか?

J.オユーマー: 湖岸から200mの区域を特別地帯としています。基本的に、湖に直接影響を与える地帯を特別地帯としています。しかし、これは全く守られていません。守るどころか、特別保護局の元局長が湖の上にツーリストキャンプを作っている始末です。

他方、フブスグル湖の汚染には政治家の影響もあります。国会議員は住民に良く思われたいがために、色々なことをしています。その一例は、2012年当時の国会がフブスグル県のハトガル郡とハンフ郡の住民の権利を保護する目的として、郡の居住地を特別保護地から除外したことです。これを受け、地方行政機関が土地の所有許可を出すようになり、住民がツーリストキャンプを幾つも作ってしまいました。ハンフ郡はフブスグル湖に面しており、ハトガル郡はフブスグル県の交通・通信の中心地です。このハトガル郡とハンフ郡は、フブスグル湖の出入口であります。

J: モンゴルで最も美しいと言われる場所、その中で私たちが今話しているフブスグル湖を政府の権力者は地域住民の無知を利用し、腐敗のツールにしています。省、県、郡といった各行政機関の役人は、モンゴルを売って財を成しています。これをどうすれば食い止める事ができるのかが問題になっています。フブスグル以外の湖も同じような状況に追い込まれています。あなたが会長を務めている「フブスグル・ダライ・エージ協会」が出している調査報告書を、一般の人々はどのように閲覧できますか?ウェブサイトはありますか?

J.オユーマー: 私たちは調査報告書を記者に提供し、ニュースサイトに掲載してもらっています。また、各関係機関やフブスグル県で実施されるあらゆるプロジェクト、フブスグル県の各政府行政機関、自然環境・観光省の各課、国家安全保障委員会にも提出しています。

J: それにも関わらず、政府や担当省庁は問題を解決しようとしていないのですか?

J.オユーマー: 自然環境・観光省は、県や郡が交付した土地の許可を無効にしていますが、自然環境・観光省自体が交付した許可を取り消していません。

J: 自然観光・観光省は自然環境を保護しなければならない立場なのに、逆に私たちが自然環境・観光省から自然環境を守らなければならない状況になっているのですね。あなたの活動をフブスグル県の住民は応援し、協力していますか?

J.オユーマー: 住民はとても協力的です。例えば、特定の場所の調査や協議などは、県の住民代表議会で話し合い、公文書を発行して担当省に送っていますが、自然環境・観光省は無視しています。また、政治権力の影響もあり、県住民代表議会は自然環境・観光省と争論できないということもあります。

私は自然環境・観光省の設立に関わった一人です。今では、この省は私にとって最も嫌なところになってしまいました。挙句の果てに、私は新たに特別保護地に指定することを怖くなりました。なぜならば、もし、ある場所を特別保護地に推薦し、国の保護地にすれば、住民のものではなくなってしまうからです。それは保護される場所じゃなくなることを意味しています。

J: 結果的に、私たちは特別に保護するという名目で特別腐敗地帯を作っています。そこを通じて権力を持つ者が財を成し、自然が破壊されています。人間のこのような行為によって、自然だけではなく、動物も影響を受けています。これについて話を聞かせて下さい。

J.オユーマー: モンゴルには自然保護関連の法律や規定があります。水に関する法律があります。そこには特別保護地に関する規定が盛り込まれています。また、観光スタンダードというものもあります。こういった法律やルールを守りさえすれば、自然保護は機能するはずなのです。例えば、土地を交付する際には、必ず当該住民の参加の下で協議しなければならないという法律規定があります。しかし、全て守られていません。例えば、観光スタンダードには、遊牧民の冬季の放牧場から500m以内の土地を交付してならない。あるツーリストキャンプと別のツーリストキャンプの距離は1㎞離さなければならないというスタンダードがあります。地理研究所が実施した調査によれば、フブスグル湖の周辺におけるツーリストキャンプのキャパシティは50軒が妥当という数字があります。しかし、私が2016年に実施した調査では、ツーリストキャンプの数は168軒、ゲルホテルは約100軒あります。ここにはハトガル郡とハンフ郡のツーリストキャンプの数は入っていません。

特別保護地の現状調査という名目で、自然環境・観光省からワーキングチームが毎年フブスグルに来ています。そのワーキングチームには県庁の関係者も入っています。ワーキングチームは、鉱業・重工業省や建設・都市計画省、道路・輸送開発省などの専門家で構成されています。ワーキングチームは特別保護地を視察する中で、空いている土地を探しているのです。つまり、保護地を視察するのではなく、利用できる土地を調べているということです。さらに私が出している報告書を県庁や政府担当者は全員持っています。面白いことに、担当大臣や専門家が来て、彼らが持っている報告書を貰ってもいいかと尋ねているみたいです。彼らに「この報告書を書いた人物がいるから会いますか」と聞くと、「会わない」と答えるそうです。彼らは私を避けているのです。一方、県住民の環境への悪影響について知識がない、専門ではない人が責任者に任命されていることも、問題が解決されない要因でもあります。

J: これは本当に貪欲と無知による害ですね。その結果、フブスグル湖が汚染され、美しい姿を失っています。数年前、フブスグル湖の汚染についてジャーナリストのバルドルジ氏が記事を書いていました。当時、その記事は国民の注目を浴び、問題視されていました。しかし、あれから何も改善されていない状況ですね。

J.オユーマー: そうですね。彼の記事はフブスグル湖が汚染される可能性について取り上げていました。しかし、今はその可能性が現実のものとなっています。私は夏のナーダム祭の時に、お客をフブスグル湖に連れて行くのも恥ずかしいほどの状況になっています。

 また、ここで話すべきかどうか分かりませんが、一つ話したいことがあります。アジア開発銀行の融資でフブスグル湖周辺に投資プロジェクトが実施されます。プロジェクトの名前は直ぐには思い出せませんが、ガンボルド議員がまるで自分がやっているかのように「私がフブスグル県に多額な投資している」と喧伝しています。このプロジェクトでフブスグル湖の西部湖岸に沿って総延長40㎞の道路が建設されると言われています。

J: その道路を湖岸から何メートルの距離に建設するとか、具体的な図面が作成され、紹介されましたか?

J.オユーマー: いいえ、何も紹介されていません。私たちはその道路建設に関して、湖のどの辺りから建設するのか、そして工事期間などを具体的に確認し、自分たちの意見を表明する形で参加したいと思っています。

J: このことをエンフ-アムガラン議員は注意しなければならないですね。短期間で完成させなければ、工事が長期化し、湖への汚染の影響は大きくなります。

J.オユーマー: その通りです。できることなら専門家や政府関係者に集まってもらい、フブスグル湖の地図を見ながら、どこに何を設置するとか、どの部分に土地を交付するとか、なぜあらゆることを具体的に計画できないのかといつも思っています。

J: 今日は非常に重要な問題について話しました。もっと他にも聞きたいことがありますが、番組の時間が短いため本当に残念です。しかし、あなたはフブスグル湖の汚染問題を長年調査し、エビデンスを持って報告書を書き、指摘しています。あなたの報告書を読み、ぜひこの番組で話してもらいたいと思っていました。私たちの番組出演の依頼を受けて頂き、本当にありがとうございました。これからのあなたの活躍を祈ります。ありがとうございました。

J.オユーマー: ありがとうございました。

J.オユーマー * ジャルガルサイハン