モンゴルでは現在、憲法の改正に向けて政府、民間企業、市民社会の間で多角的に協議が繰り広げられている。国会で過半数の議席をもつ人民党が提案する憲法改正案と、大統領が提案する憲法改正案の2つの案をすり合わせるために、協議ワーキングチームが結成された。憲法改正案に盛り込まれる、土地及び天然資源の所有権が誰に帰属するのかについて話され、これが憲法改正よりも大きな社会的関心を集めるようになった。これは非常に重要な問題である。この問題は、明確に示さえることなく今日まで至った。ようやく今、この問題が表面化し、国民の間でも議論する初の機会となった。このように問題が表面化した以上、モンゴルは不明確だった所有権と政府の理解を整理し、明示すべきだ。

原理の違い

現行憲法第6条1項に「モンゴルの土地、その地下や森林、水、動物、植物及び天然資源は唯一国民の財産、国家の保護下にある。」、同6条2項には「モンゴル国民が保有する以外のその他の土地、その地下や地下資源、森林、水源、動物は政府に所有権がある」と定められている。

上記の条項に関して:

  • 国会は6条2項に「政府が資源を利用する際は、平等、正義、国の安定、持続可能な発展を促進する原理を堅守する」という条文を追加する提案をしている。
  • 大統領は「モンゴル国民が保有する以外のその他の土地、その地下資源、森林、水源、動物は公共が保有するものである。資源を利用する際は、平等、正義、国の安定、持続可能な発展を促進する原理を堅守する」という条文を追加している。

国会が資源は政府が保有するものだと言い、大統領は公共が保有するものだという異なる提案である。これは原理的な違いであり、これをどのように決定するかによって憲法だけではなくその他の法律も改正する必要が出てきている。

間違った理解

モンゴルでは、「民主主義国家」と「ガバナンス」という言葉を正しく理解することなく、憲法に誤った理解で記述され、使用してきた。国家(State)とは、変わることのない政治単位である。そして政府(Government)は民主的な選挙によって選ばれる。国家は、選ばれた政府によって統治される。政府は相互抑制関係を保つため三権によってバランスが取られている。これは立法、行政、司法の三権である。

歴史的に見ると、モンゴルでは王国の時代から立法権を持つものだけを「政府」としてきた。現行憲法では、政府を「国権の最高機関」と正しく定義しているが、名称が間違っている。政府は「閣僚委員会」、もしくは「内閣(Cabinet)」と名付けることが適切である。

また、民主主義国の政府は、国民の過半数の投票で選ばれるため、大勢の人の意思に基づく国の政府である。モンゴル語では、国は大勢の人を意味する。そして「公共の財産」とは、「すべての人のもの」という理解である。そのため、土地やその地下の資源は、政府のものではなく、国家のものだと明示することが適切である。国家つまり全国民が保有するものを法律や規定に従って管理する権限が政府にある。

国民一人一人の意見を聞くことは不可能なので、国民の過半数の票を獲得し、成立した民主主義政府にその権限を委ねる他に選択肢がない。これが民主主義と他の制度との違いである。

所有形態

国が所有するものを国家と政府はどのように管理し、利用するかに関する法律が必要である。世界中の多くの国でも、土地およびその資源の所有を正義の下で調整する機会がなかった。例えば、今日イギリスの国土の半分を人口の1%が所有しているとガーディアン紙が報じた。

アメリカのほとんどの州で土地を所有するのは連邦政府である。多くの国で政府は何も創造、生産しないため、政府が所有することに国民は強く反対する。そのため、天然資源はPublic(people’s)つまり国民が所有するものだと定義し、資源の利用には政府が課税・徴収し、国のニーズに合わせて効率的に運用し、次世代に財産を残すことを目指す。

天然資源の所有権について、中国、カザフスタン、韓国、カタール、サウジアラビアなどの国では政府の所有物と憲法に定められている。これとは対照的に、アメリカ、オーストラリア、カナダ、スイス、フィンランド、ニュージーランド、オーストリア、フランス、インド、シンガポール、日本などの国々では、誰が所有するとは全く規定されていない。

このため、私たちは憲法に「国民および公共が所有する」という代わりに、「民間(個人、法人)の、共同(ある特定の場所に定住している人々)の、国(国民全員)の所有する」と定めれば国際基準に適したものになるだろう。

今回の憲法改正は、今日多く見られる政治家同士の権力闘争の手段にされるべきではない。憲法改正案でのこれらの条項は、経済発展の礎となるすべての資産の所有形態を明確に示すことを目指すべきである。

もし政府が民主国家の構造を正しく理解し、天然資源は政府ではなく国家が所有するものであり、これを政府は法律に則って管理する義務があると憲法に具体的に定めることができれば、今回の憲法改正は正しいものとなり、今まで不十分だった部分を補完できるものになるだろう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン