1ヵ月後に迫ったモンゴルの第7回国政選挙には、政党15党、連立4つ、無所属での立候補者208人、合わせて670人が立候補の届け出を提出したと国家監査庁が発表した。前回の選挙以降、新たに8つの政党が登記され、政党数は36になった。2016年の選挙では、無所属で69人が立候補し1人だけが当選(歌手S.ジャブハラン)した。しかし、今回の選挙では無所属での立候補者の数が3倍に増えているが、果たして何人が当選するだろうか?

モンゴルではなぜ政党と無所属での立候補者の数が選挙を重ねるたびに増加し、選挙費用が膨らんでいるのか。その原因と国の未来に及ぼされる影響について認識し、理解することが有権者に求められている。政党数が増え、無所属の立候補者数が以前にも増して増加傾向にある主な原因は、政権を交互に、時には連立して握ってきた二大政党が組織として構築できていないことにある。人民党民主党、両党の理念が強固なものとして確立できていない。そのため政権を取り目先の改革を行う他に、この2党を区別できるものはなくなっている。モンゴルの政党が成熟した組織とならないことには3つの原因がある。それは、

  1. 選挙制度
  2. 2.政党のリーダーシップ
  3. 政党に対する国民の失望感

である。

選挙制度

民主主義の最も重要な柱は、透明性のある直接選挙である。モンゴルにこの選挙形態は未だ確立されていない。その原因は、モンゴルの歴代国会が選挙法を政権与党にとって有利に働くように常に改正するという、歪んだ習慣が定着したことにある。

民主主義による選挙は、多数代表制(Multiple)、比例代表制(Proportional)、もしくは小選挙区比例代表並立制の3つの形態がある。民主化以降行われたモンゴルの7回の選挙のうち、6回が多数代表制、1回が小選挙区比例代表並立制で行われた。

2012年の小選挙区比例代表並立(48議席を多数代表制、28議席を比例代表性)選挙は、憲法に違反していたと4年後に“立証”された。各政党は候補者の氏名を公表せずに国民に投票させたことが、個人の参政権の原則を失わせたと憲法裁判所が判断したのだ。しかし、多数代表制で行われたその他の6回の選挙も、選挙区規模のみ(大選挙区29もしくは小選挙区76)で分けられているだけである。

大選挙区は、1つの選挙区に複数の議席を設けることは3つの問題を伴っている。第1に、選挙区が大きいためすべての有権者に対しての広告宣伝費用が増加する。第2に、政党内の不健全な競争を助長する。第3に、少数の得票差で当落が決定する可能性が高くなる。(2008年の国政選挙では当落結果の争いにより5人が命を落とすという混乱が起きた)。

特に同じ政党の立候補者同士の争いが政党を分断し、派閥の対立を激化させ、政党の成熟に影響を及ぼした。選挙費用は高くなり、腐敗を増大させ、資金競争が政治体制をクライエンテリズムへと突き進ませた。

政党のリーダーシップ

政党は社会のリーダーとして選ばれ、政権を民主主義選挙により手に入れたならば、社会と政府を繋ぐ架け橋とならなければならない。社会を民主化させるために、政党自体が民主的な組織としてあり、また政党の規則を有し、党員は規律と責任を持っていなければならない。

しかし、モンゴルの政権に就いてきた二大政党はどうなのか?数日前、各政党は2020年の国政選挙に出馬する公認の候補者を公表した。選挙は政党内部の民主主義の基準となる党則に則って行われる重要な行事である。しかしこの日、二大政党はその党則を踏みにじり、誰が金と権力を持っているかを示すような殴り合いが起きた。

与党人民党の幹部は、中小企業開発基金事件に関与した者は誰であろうと選挙に立候補させないと言っていた。しかしこの厳格であるべき約束を履行することができなかった。野党民主党の現職議員は1人だ。その彼は自身の選挙区で4年間国会議員を勤め、1億トゥグルグの上納金を政党に納めたが、「エレベーター」に乗って突然現れた1人の「権力者」に選挙区を奪われたと愚痴をこぼしていた。こうして二大政党は資金のみの規則を持つようになった。

政党のリーダーシップに関して注目を集めるもう1つの現象は、二大政党の議席配分に関する“陰謀”である。誰を当選させて誰を落選させるかを党幹部が決めているように見える。実際に選挙では有権者が望むような学歴と道徳のある若者、女性を立候補させてはいるが、最終的にはあの“やり手”たちが残っている。

人民党は中小企業開発基金事件に関与した者たちを、民主党は刑事裁判の被告人になった者たちを候補者として公認している。これは裏で何か大きな交渉が行われてきたことを表している。このような政治勢力の陰謀を「政党のカルテル化」という。これは公正な競争を制限し、選挙の本来もつ意味を失わせ、政治を巧みにできた演劇にしてしまう恐れがある。

しかし、2020年の国政選挙にこの二大政党は相対的に新人を数多く擁立している。これは私たちにモンゴルの民主主義を、たとえ小さくとも一歩前進させるかもしれないと言う期待を抱かせている。

失墜した信頼

前回の選挙と比較して今回より明らかに見られる現象は、国民は政党ではなく、無所属の候補者に期待する傾向にあることである。これは、国民、有権者の政党に対する信頼が地に落ちたことと関係している。国民の多くは政党の選挙公約が政府の政策となることを期待する。だが現実は政府に属する少数の集団のために政策が打ち出されるようになった。そして政権与党が変わってもこれは変わらない。国民を欺く政党については以前に書いた記事「崩壊する橋」に詳しい。

各選挙区で無所属の立候補者が勝利したとしても政権を握ることはできない。政権は組織、つまり個人に左右されない“組織”に与えられる。政党は間接民主主義の、他に代用できない重要な役割のある“主体”である。古典的自由主義の父であるジョン・スチュアート・ミルは、「代議制民主主義は、政治のあらゆるすべての体制の中で最も優れている形態」だと主張した。間接民主主義にこそ政治的危機を止める具体的な仕組みと組織があるため、直接民主主義よりも効率的な制度であることを彼は立証した。

例えば、成熟した政党が政権に就けば、相対的に直ちに内閣を編成し、立ちふさがる問題を解決し始める。モンゴルの国会に無所属の候補者60人が当選したとすれば、彼らはいずれかの政党に入党する他に選択肢はない。無所属議員が圧倒的多数を占める国会では、内閣を発足させるまで2年でも足りないくらいだろう。過半数が無所属議員で構成された内閣には責任を追及する意義も低いだろう。なぜならば、彼らが目的を明確化し、政策プログラムを練って実行するまでに時間が掛かるからだ。

検疫体制時の選挙

今回の選挙はCOVID-19の検疫体制の真只中で行われる。多くの国では選挙を延期している。先週の時点で、56ヵ国で97の選挙(地方選挙、大統領選挙、国政選挙、補欠選挙、国民投票など)が延期されている(国際選挙制度財団の詳細リスト)。

そのような中でも予定通り選挙を実施した国々は、有権者に次のような勧告を遵守させている(3、4月に行われた選挙の詳細リスト)。これには、人と人の距離を維持する、マスクや手袋を着用する、手を消毒液や石鹸を使用して消毒する、投票所の職員は特別防護服を着用するなどである。

大勢を対象とする集会やイベントを禁止したため、選挙運動は主にマスコミ、SNSで行われている。また、ホーンスピーカーを積んだ街宣車を使用している。例えば、ニュージーランドの選挙委員会は、公式ウェブサイトに「COVID-19と2020年の選挙」と題したページを作成し、国民が選挙時に守るべき規則やその説明、勧告を掲載し、随時更新して迅速な情報提供をしている(ニュージーランド選挙委員会)。

また、韓国は国民に投票日前に郵便による投票の機会を提供した。さらに投票所では一定の距離を保ち、体温測定も行われた。隔離生活をしている人たちのためには専用の投票所や投票時間が設けられ、投票の機会が提供された。こういった世界の事例をモンゴルの選挙委員会は自分たちの活動に反映させることを期待する。

最後に、現状のモンゴルの民主主義のレベルでは、公開的にデモができる環境を整えた上で並立制の選挙形態が政党の成熟に大きな後押しとなる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン

※ 中小企業開発基金事件
中小企業開発基金とは、モンゴル政府による中小企業向け融資を目的として設けられた基金である。預金金利と並び貸出金利も10%以上となっているモンゴルで、中小企業の成長のために低金利融資を行うことを目的に創設された。しかし実際には与党の政治家など、一部の権力者たちが身内の企業ばかりに融資していたことが発覚した。更にその低金利で借りた金をノンバンクなどを通じて高い金利で、本来この基金を受け取るはずの中小企業に貸し付けて利ざやを稼いでいたため、国民から大きな批判を受けた。(中山拓)