ロムボ・エルヘムバヤル氏はモンゴル農業大学、モンゴル国立大学法学校を卒業しました。エルヘムバヤル氏はモンゴル大統領の顧問、内閣府の事務職員、アルハンガイ県知事、ベート社社長、アルハンガイ県畜産業研究所の研究者を歴任しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。Tumen Shuvuut社がモンゴル証券取引所に新規上場(IPO)するとの発表も記憶に新しいところです。なぜIPOすることにしたのですか?

エルヘムバヤル: 企業がIPOをする主な理由は資金調達です。我が社もIPOによる資金調達で世界と競争できる生産体制を構築し、そしてモンゴルの農牧業分野に貢献したいと考えています。私は30年間、モンゴルの農牧業分野に携ってきました。この30年を振り返ってみると、モンゴルの農牧業分野において、残念に思うことや他国を羨ましく思うことは数多くあります。しかし、下を向いてばかりいられません。私たちがこの状況を変えなければ、他に変える人はいません。ですから、モンゴルの農牧業の発展のために自分たちにできることをしていきたいという想いが、今回のIPOに繋がったのだと思います。

J: あなたは農牧業分野で長く活動してきました。広範な農牧業分野でなぜ養鶏業を選んだのですか?きっかけは何ですか?

エルヘムバヤル: 私がモンゴル農業大学の学生だった時、養鶏を専門とするソドノムツェレン教授に出会いました。教授は、農産業において最も効率的で利益をもたらす畜産は養鶏だと言っていました。その次にウサギ、ブタなどがあります。例えば、年間で排卵鶏1羽は300個の卵を産みます。卵300個でおよそ15〜16㎏のタンパク質になります。大変高タンパクな食材です。

J: 鶏卵1個当たりのタンパク質含有量はどのくらいですか?

エルヘムバヤル: 鶏卵1個当たりのタンパク質含有量は非常に高いです。海外では「鶏卵は神から人に与えられた貴重な食材」と言われるほどです。規模の大きな養鶏場では、この言葉が掲げてあります。なぜならば、この言葉は科学的根拠に基づく言葉だからです。鶏卵は、母乳より人間の身体に吸収されやすい食材です。新鮮な卵1個の93%が栄養として体内に吸収され、排泄されるのはたったの7%です。

J: 外国ではたくさんの鶏卵を消費していると思います。基本的に人間が摂取すべき卵の量は決まっていますか?

エルヘムバヤル: ヨーロッパ諸国では、1人当たりの卵の摂取量は年間270個です。ロシアでは260個です。世界全体でみれば平均して220個です。モンゴルの場合、2000年の統計では1人当たりの卵の摂取量は年間17個でしたが、この数字は2017年に90個に増えました。世界保健機関の勧告に従い、一部の国では毎朝卵1個を食べる習慣を作っています。鶏卵は人間の身体に必要なタンパク質、ミネラル、炭水化物をバランスよく摂ることができるのです。朝、卵1個を食べれば、昼12時までお腹が空くことはありません。アメリカなどの国では、児童生徒に朝学校へ行くときに卵を持たせることが習慣となっています。

J: 学校には給食というものがあります。モンゴルの学校給食で消費される卵は何個ですか?

エルヘムバヤル: モンゴルでは、学校給食に卵は一切使われていません。

J: それはなぜですか?

エルヘムバヤル: まず、モンゴルには卵を食べるという習慣が根付いていません。またモンゴルの養鶏場では、長らく国際基準で卵の生産ができていませんでした。そのため、人々は卵に対する不衛生な先入観がありました。しかし、現在のモンゴルでは国際基準を満たした卵が生産されています。卵の生産から出荷まで、すべてのプロセスが国際的な生産規定に沿って行われています。

J: あなたはモンゴルの鶏卵の生産技術は世界標準に達したと言いました。どうしてそう思いますか?

エルヘムバヤル: 私たちが養鶏場の施設設備を国際基準に適合するように整備したことが主な要因です。

J: 全国で養鶏産業における排卵鶏の飼育数はどのくらいですか?そして採卵規模はどのくらいですか?さらにここであなたの会社が市場で占める割合を教えて下さい。

エルヘムバヤル: モンゴルの鶏卵の消費量は年々増えています。2000年の統計では、全国における鶏卵の年間消費量は4,000万個でしたが、現在は2億個です。そのうちの約50%を輸入しており、50%をモンゴル国内で生産しています。

J: 消費の50%が輸入されているということですが、100%にはなりませんか?

エルヘムバヤル: 私たちの生産力は国内の消費量を十分にまかなえる規模になっていません。国内の消費量を満たすようになるまで、もう少し時間が必要です。来年は国内の鶏卵の生産量は1億5,000万個になるでしょう。

J: 鶏卵はどこから輸入されますか?

エルヘムバヤル: 主にロシアです。

J: 中国から輸入していますか?

エルヘムバヤル: 中国からの鶏卵の輸入は10年前に中止されました。中国で様々な病気が発生していたことや、それに対する保証などの問題があり中止されました。モンゴル政府や養鶏企業、それぞれが具体的な政策をもって連携すれば、モンゴル企業は3〜5年で国内の鶏卵需要を100%賄うことができるようになります。

J: あなたの会社は鶏卵の国内生産で、1億個の鶏卵の何割を生産していますか?

エルヘムバヤル: 2018年の数字はまだ出ていませんが、2017年実績で我社は国内生産の52%を占めていました。

J: あなたの会社に次ぐ会社はどこですか?

エルヘムバヤル: バヤン養鶏場です。

J: あなたの会社は国内の鶏卵生産で最大です。ここまで来るのにどのくらいの投資を行いましたか?

エルヘムバヤル: 約200億トゥグルグです。

J: あなたの会社の排卵鶏の飼育数は何羽ですか?会社について簡単に説明して下さい。

エルヘムバヤル: 我が社は2004年に設立されました。現在、160人の社員がいます。そして飼育している排卵鶏は31万羽です。

J: 養鶏場はいくつありますか?

エルヘムバヤル: 現在、養鶏場は国内7ヵ所にあります。8ヵ所目の養鶏場をIPOで調達した資金で建設し、鶏卵生産量を18%引き上げることを目標としています。

J: 私はその養鶏場を視察させてもらいました。鶏はガラスの向こうで飼育され、鶏のフンの臭いは全くしませんでした。その理由は何ですか?

エルヘムバヤル: 2,000年から世界的に養鶏設備の再構築が行われました。鶏のフンの処理、水やり、餌配り、換気などすべての管理が完全自動化となりました。言い換えれば、養鶏産業において鶏卵の生産から出荷まで、すべての工程に技術革新が起きたということです。モンゴルではこの革新が2006年から始まりました。従来の生産方法では排卵鶏18,000羽に対して10人が必要でした。技術革新により自動化が進み、今では排卵鶏40,000羽に4人で対応しています。

J: 自動化によって生産性が高まり、利益も増えます。あなたはIPOで調達した資金でもう1つ養鶏場を建設し、鶏卵生産量を上げると話しました。その他に技術的なことも行いますか?例えば、鶏のフンの再利用など。

エルヘムバヤル: はい、色々と計画しています。まず、私たちは世界標準で生産ができるようになりました。鶏卵の生産量を増やすだけではなく、その品質向上を図ります。さらに鶏卵だけではなく、他の原料をビジネスにする可能性を探ります。例えば、私たちは今まで鶏のフンを再利用することなく捨てていました。しかし、先進国では鶏のフンで肥料を作っています。そこで私たちは鶏のフンを肥料にする技術について2年間調査をしました。世界で鶏のフンから肥料を作る技術は日本が最先端だということが分かりました。そのため、今回のIPOで調達した資金でこの技術も導入する予定です。

J: 鶏のフンで実際に何を作り出しますか?

エルヘムバヤル: 鶏のフンを乾燥させ、発酵工程を経てエコロジーな肥料を作ります。鶏のフンはそのままでは肥料になりません。なぜならば、鶏のフンは土壌のアルカリ性環境を変えてしまう可能性があるからです。もっと言えば、土壌を焼いてしまう可能性があります。さらに細菌が数多く含まれています。そのため、微生物学的な工程を行い、衛生条件を満たす加工によって環境に優しい肥料ができます。

J: 何の肥料になりますか?

エルヘムバヤル: 野菜の有機肥料となります。有機肥料は農業分野で広く使われます。モンゴルでは年間20万トンの肥料の需要があります。そのうちの13万トンを輸入しています。もし、私たちが鶏のフンを肥料にできれば、2,000トンの肥料を生産できます。

J: あなたの鶏糞工場では、自社の鶏のフンだけを使いますか?それとも他社からも受け入れますか?

エルヘムバヤル: まず自社の鶏のフンを使います。我が社の鶏舎からは年間6,000〜7,000トンの鶏のフンが出ます。そのうち25%が乾燥された湿度12%の肥料となります。

J: 次に、鶏卵を入れる容器はどこから仕入れていますか?

エルヘムバヤル: とても重要な質問をしてくれました。6年前まで私たちは中国やロシアから容器を輸入していました。鶏卵の容器は貨物列車1輌で5〜6トンになります。輸送コストよりも安いものを輸入していました。我が社は6年前に鶏卵の容器を製造する自社工場を立ち上げました。これにより自社だけではなく、モンゴルにある他の養鶏場に容器を供給できるようになりました。

J: 容器の原料は何ですか?

エルヘムバヤル: 古紙から作られています。

J: 古紙を使ってどのように作りますか?

エルヘムバヤル: まず古紙を水に入れて混ぜ、その後、容器の型に入れて400℃の熱い蒸気で成形し乾燥させます。その工程で殺菌もします。

J: 他にもう1つ気になることで、鶏は何を食べますか?それをどこから仕入れるものですか?

エルヘムバヤル: モンゴルの畜産業で最も高価な餌を食べる動物は鶏です。鶏の餌は工場出荷時の価格は1㎏1,250トゥグルグです。タンパク質の王様とも言われる大豆は1㎏2,300トゥグルグです。そしてサラダ油は1リットル2,500トゥグルグです。我が社の鶏の1日の餌には約600リットルのサラダ油が使われています。このように鶏は栄養価の高いものを食べ、人間の身体に必要なタンパク質、ミネラル、炭水化物などを補うことができる卵を生み出すことができるのです。

J: あなたの会社はモンゴルの養鶏産業で、鶏卵の生産から出荷まで一連の事業を担っています。この分野にとても貢献していると思います。最後に1つだけ聞きたいことがあります。あなたのことを政治家と見る人が多くいます。あなたは民主党の秘書官を長年やってきました。あなたの会社がIPOをした後、あなた自身が政治活動を続けることで人々はどう思うでしょうか? 

エルヘムバヤル: 確かに長年政治活動をしてきました。民主主義はモンゴルに自由競争市場や言論の自由をもたらしてくれました。しかし、私たちは歪んだ民主主義を作ってきたようにも思います。民主主義の発展のため、私は民主党に忠実に勤めてきました。しかし、今年からは政治と距離を置くことを考えています。いきなり離党することはありませんが、政治を遠くから眺めたいと思います。だから、2020年の国政選挙には参加しないつもりです。それよりも自分ができることで社会に貢献したいと思います。

J: 今日はインタビューに出演して頂き、本当にありがとうございました。あなたの今後のご活躍をお祈ります。ありがとうございました。

エルヘムバヤル: ありがとうございました。

エルヘムバヤル * ジャルガルサイハン