シルネン・ボヤンジャルガル氏は、ウブス県ウラーンゴム郡に生まれ、ウラーンゴム郡第1番小中高一貫学校を卒業しました。情報システム、機械電子工学、自動制御システム設計を専門としています。モンゴル科学技術大学、イリノイ大学、千葉大学で学び、日本語と英語が堪能です。2011年〜2014年に株式会社東芝でハードウェア開発者、2014年〜2019年にUSP研究所で研究エンジニア、2014年〜2019年に新モンゴル高専の創設者兼校長を務めました。2019年からは株式会社USP Mongoliaの社長を務めています。2019年に著書『ゲームルール』を執筆しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。まずは簡単に自己紹介をして下さい。

Sh.ボヤンジャルガル: こんにちは。私はボヤンジャルガルです。ウブス県ウラーンゴム郡の出身です。モンゴル科学技術大学コンピュータ科学・経営学部で1年間勉強した後、日本政府の奨学金を受けて工学を勉強するために日本に留学しました。私の専攻分野はオートメーションです。日本に留学していた間に、アメリカにも研究生として留学しました。その後、2011年〜2014年に東芝でハードウェア開発者として勤めました。そして日本の高専型の工業高等専門学校をモンゴルに作りました。2014年〜2019年の5年間、新モンゴル工業高等専門学校の校長を務め、1年生を迎えてから5年間で初の卒業生を輩出しました。2019年から現在まで、株式会社USP Mongoliaで社長を務めています。

J: USP Mongoliaとは何をする会社ですか?

Sh.ボヤンジャルガル: USP Mongoliaは、親会社がUSP研究所という日本の東京に本社を持つ会社です。ヨーロッパ、カナダ、モンゴルに海外支店があります。日本では名古屋市、四国に支店があります。主にIT、システム開発をしています。

J: モンゴルでは何をしていますか?

Sh.ボヤンジャルガル: モンゴルでは、日本からのアウトソーシングを受けて、製品を製造・輸出をしています。

J: 社員は何人いますか?

Sh.ボヤンジャルガル: 今は15人のエンジニアがいます。

J: 東芝ではどのような仕事をしていましたか?

Sh.ボヤンジャルガル: 東芝では新製品を開発する部門で、開発エンジニアを務めました。そこでは、生産、建設など電気関連の全ての工場、事業者などの自動化するシステムを開発していました。

J: なぜ高専をモンゴルで作りたかったのですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 私が13歳の時、1995年、1996年は食料が不足し、困難な時代でした。その時、親は私にこう言いました。「国の状況は良くない。お前の将来、国のためになること1つだけしなさい。1つだけ良いことをしなさい。そのためにはしっかり勉強すること」。父は運送ドライバー、母は会計士でした。2人の姉、1人の妹がいます。このことはあまり普段話さないのですが、後から考えても、親の言った言葉が13歳の私にとても影響したと思います。

学校は私にとってとても面白い場所でした。夏は父の運送の仕事に付き添ったので、遊ぶ時間がありませんでした。学校は遊ぶこともできるし、また色々なことが学べるとても楽しい場所でした。私は社交的ではない子どもでした。両親に言われた通り、ちゃんと勉強して、一つ良いことをしなければなりませんでした。大学生になってウランバートルに来ました。第1ホローロルの裏にある丘にゲルを立てて、2人の姉と一緒に暮らしました。1年半経った頃に日本政府の奨学金を受けて日本に留学しました。留学中にずっと一つの質問の答えを探していました。国はどうやって発展するのかということです。日本やアメリカなど、先進国はどのようにして発展してきたのかという質問の答えを探しました。その結果分かったことは、まず、国は経済的に独立しなければなりません。そのためには工業化しなければなりません。近代の工業は自動化していなければなりません。自動化した工業を発展させるべきだということです。

留学中、そして日本で働いていた間も、時折モンゴルに戻っていました。火力発電所や大学などの現状を見て回りました。外部の援助を受けて自動化システムを導入したり、大学でも海外からの援助で必要な機器、設備が届いたりしていましたが、実際使われていませんでした。使える人材が少ないということに気がつきました。

次に、モンゴルは工業化した歴史があまりありません。工業とはどういうものかを子どもがみて育つ機会も少ないく、そのような機会もなく18歳で大学生となり、20歳で技術に出会うとすると、遅すぎてしまいます。そのため、技術者の人材を多く育てなければなりません。そこで、日本に留学したことのある仲間たちと一緒に、日本の高専をモンゴルで開くという結論に至りました。つまり、15歳から5年間で高等教育を受けたエンジニアを育成するシステムをモンゴルに導入し、まずは工業の人材を増やします。その後、工業を発展させ、経済的に独立した国になるという夢を実現させようと考え、今日に至りました。国内に設置された3つの高専は今も順調に運営されています。ただし、嬉しいことでも、悲しいことでもありますが、モンゴルで高専を卒業した学生の4割が日本でエンジニアとして就職しています。これを変えるためには生産性の高い雇用を創出しなければなりません。その一環として行っているのがUSP Mongoliaの設立でもあります。生産性の高い雇用機会を増やすためです。

J: あなたが作った高専ですが、中学校を卒業して15歳で入学し、5年間でエンジニアとして卒業するということですね。今までの卒業生は合計何人ですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 1年に120人くらい卒業します。4期の卒業生がおり、合わせて560人くいです。

J: 560人の4割が日本に行ってしまうわけです。その裏には、教育は重要ですが、実践できる機会が無く、その機会を自ら作れないために、既存の機会を探して外に出てしまうという経緯があります。あなたはこれを防ぐためには、国内で工業を発展させなければならないと言いました。誰が発展させるのですか。官庁ですか、民間ですか。R&Dというのがあります。あなたはこれをどう見ていますか?

Sh.ボヤンジャルガル: 卒業生の4割が日本に就職していますが、国内では3割がエンジニアとして即採用されています。例えば、22歳、23歳の若者が自立して、自分のアパートで彼女と一緒に生活しているというケースがあります。このような成功例はモンゴルでも稀です。200万〜300万トゥグルグの給料をもらって働いています。そんなチャンスがあるわけです。先程の質問に関しては、官民連帯で工業を発展させるべきです。日本も韓国もそうしています。官庁が民間に対して公平に競争できる環境を提供しなければなりません。革新的なものが必要なのではないと思います。近年、モンゴルの政府がこのことに関して前向きな姿勢であることには感謝しています。

J: 教育の分野ではどの部分に公的部門が多く、どの部分に民間部門が多いのか、日本を例に教えて下さい。

Sh.ボヤンジャルガル: 高専を作るときに詳しく調べました。私自身、教師の資格を持っておらず、教育の分野が国際的にどうなっているのか、モンゴルはどうかなどを研究してみました。そもそも教師とは何か、学校とは何かという基礎研究をした結果、それを元に5年間のカリキュラムを作成し、高専で実施しました。その結果をまとめたものを2019年にモンゴル教育科学省に提出しました。

J: 2019年のいつですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 2019年の6月です。

J: 今の内閣に対してなのですね。

Sh.ボヤンジャルガル: そうです。日本ではどうか、国際的にどうなっているかを調べてみると、例えば、日本では幼児教育は基本的に民間部門に任せています。学習の4本柱というのがあります。他者と共に生きることを学ぶ、人間として生きることを学ぶ、為すことを学ぶ、知ることを学ぶ。この4つです。そのうち、他者と共に生きることを学ぶことが就学前教育に属され、これは民間部門に任されます。その後、小中高では日本人を育てます。人間として生きることを学ぶに当たって、自分の国の言葉、文化、歴史などの知識を、誰もが同じ基準で修得しなければなりません。ちょうどその重要な教育課程では、民間部門の関与が非常に少なく、わずか2%〜3%です。高校は2割〜3割が私立学校です。日本人を育てる小中学校は公立で運営しています。

J: 小さい時は日本語、日本文学、日本の歴史を主に学習するわけですね。外国語はいつから勉強し始めますか?

Sh.ボヤンジャルガル: 今現在は小学校でも教えようという声が挙げられ、実行されているのもありますが、その前は中学校から始めていました。

J: 大学はどうですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 大学は自由です。私立大学の数も多いです。小中学校で日本人を育成しているからだというのもあります。日本の教育システムは、人的資源政策なのだと感じました。人的資源をどう準備するかです。そしてランキングの高い国立大学などでは日本の優れた研究者、公務員などを育成するわけです。

J: あなたは「ゲームルール」という本を上梓しました。とても面白い本でした。あなた自身の体験を踏まえながら、他の人の教えも含めて、各章に子どもに伝えたいことが明確に書かれていました。なぜこの本を書こうと思ったのですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 2014年〜2019年に一つ良いことができるように、モンゴルで仕事をした時、私個人の人生について、国についての考え方、思想が整理されてきました。これを私が18歳や20歳の時、もう少し若かい頃に誰かが教えてくれればもっと時間を節約できたのではないかと思ったことをまとめたのがこの一冊です。本の内容は自己啓発、教育、これからどうすれば良いかなどに触れ、文章も難しくない日常的な言葉で書かれています。

J: 私からすると、あなたの本は田舎で生まれた、労働者の息子が自分をどのように成長させているか、日本に留学し、そこで就職し、またアメリカにも留学した興味深い経緯を経て書かれた一冊でした。そしてあなたの許可を得て、jargaldefactoホームページ、アプリのLifeという項目に「ゲームルール」という項目を追加して、入れているので、興味のある人はそこを参照すると良いと思います。続けて、日本の政府の構成についてあなたが翻訳して出した研究があったのをみました。なぜこれを出されたのか、そこから得られる重要な教訓は何ですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 日本の行政機構図をみると、科学技術のトップが直接、内閣総理大臣の指導の元に置かれていることが分かります。これはつまり政治の意思決定が科学技術に基づいていることを物語っています。

J: 科学技術の主要な機関が大臣とは別に内閣総理大臣の管轄下にあるということですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 日本学術会議、総合科学技術・イノベーション会議など、科学技術分野の特別な機関があります。

J: 首相が意思決定に際して、そういった組織の意見を聞くということですね。

Sh.ボヤンジャルガル: そうです。宇宙政策委員会もあります。

J: 経団連もそうですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 日本経済団体連合会ですね。日本の代表的な企業から構成されており、日本経済の自律的な発展と国民生活の向上のために運営されています。

J: 私は1997年からモンゴル外国投資・対外貿易局局長を務めていました。1997年から毎年日本に対してモンゴルのビジネスを紹介してきました。経団連に行ってプレゼンをしたこともあります。しかし、それでもなお日本の大手企業は、モンゴルの市場に参入しませんでした。今もそうです。なぜでしょうか。日本政府はJICA等を通してずっとモンゴルを援助してきました。真冬に停電し、セントラルヒーティングのボイラーが止まったときに第4火力発電所への援助を受けました。公共交通機関がない時代に無償資金によってバス100台を受け取りました。これは決して忘れてはなりません。いつも援助してくれています。しかし、今も日本の大手企業はモンゴル市場に参入していません。どうしてだと思いますか?

Sh.ボヤンジャルガル: その前に言って置かなければならないことがありますが、ソサエティー5.0という日本が提唱する未来社会のコンセプトがあります。今から2年前に日本の政府はこれを発表しました。誰でも見られます。日本はこれからこんな国になるということをとても分かりやすくアニメーションにしています。これを見て経団連、民間企業がこのソサエティー5.0を作るために、私たちはどうすれば良いのか、働き方、今後の方向性をどうするかを決めます。これと同じように教育もソサエティー5.0を目指して政策を考え、実施します。

J: 第5世代の社会という意味ですね。

Sh.ボヤンジャルガル: そうです。第5世代移動通信システム「5G」にも関連しています。5Gが導入されることで多くの変化をもたらします。つまり、こうして社会のあらゆる分野全て一律にソサエティー5.0を目指しているわけです。しかもこれは長期的なもので、安定しています。先程のあなたの質問にお答えすると、モンゴルはこうした長期にわたって安定した、目指すべき目標がほぼありません。

J: 政策も政治も変わっていますね。しかし、モンゴル政府は「長期ビジョン2050」を発表しました。少し方向性を教えてくれていますね。

Sh.ボヤンジャルガル: そうです。その意味では評価できます。全部読みました。そのうち普通の個人に分かりやすかったのが1つ、GDPを上げることにより、国民の収入が今の4倍になるということでした。それ以外のことについては批判の余地があります。もっとシンプルに、誰でも分かるような、キャッチできるコンテクストにした方が良いと思います。カフェでもよく見聞きするような話になって、みんながその実現を信じるべきです。どのような政府、どのような政治家でも、同じくそのことに向かって政をすべきです。これを長期間にわたって実行すると、日本はモンゴルのこの政策実行の真剣さを理解し、協働することを検討します。日本人はモンゴル人の能力をとても高く評価しています。地政学的に近い国であるのもありますが、基本的にはモンゴル人を十分に評価しています。批判するところもあります。その一つが安定せず、変わりやすいところです。それが原因で日本の大手企業は、モンゴルの市場に参入しづらくなっています。もちろん内陸国だということもあるでしょう。しかし、私としては、今が最も重要な時期だと見ています。例えば、飛行機で渡航できる6時間の範囲を経済的にアクティブなゾーンだと言います。モンゴルを出発地として飛行機で渡航できる6時間の範囲をみると、世界人口の55%、世界経済の35%を覆っています。その範囲には経済5大国、2つの人口の多い大国が入っています。モンゴルに世界一の頭脳が集まる、次のシリコンバレーをつくれたら、新製品、イノベーション、開発、研究ができる環境が整います。時期的には、中国は自分たちでほとんどのものを作れるようになったため、ヨーロッパ、アメリカの企業を国内市場から追払い、そして彼らは東南アジアにいき、東南アジアが自立する頃にモンゴルに招くことは可能だと思います。

J: その話は何年間も前からありますね。技術的にも可能でしょう。ただし、長期ビジョンが無く、実行に移せません。

Sh.ボヤンジャルガル: 日本の政府の構成、行政機構図をみると、各省庁に全ての政策、プロジェクトに対して査定をし、その経緯と結果をチェックする部門が必ず置かれています。モンゴルでは開会式は壮大にやるが、その後の行方が分からない、評価が行われないというのが、物事の一貫性を欠く原因の一つかもしれません。

J: W・エドワーズ・デミングのPDCAサイクルというのがあります。モンゴルではこのCheck(評価)がほぼ無く、これをやるのがモンゴル国家専門検査庁(The State Specialized Inspection Agency)だとされますが、全ての分野、専門に対して検査を行うということは不可能です。これが私たちの採用してきた制度の弊害でもあると、今になって思われます。私たちは世界中が、以前経験したことのない速度で変化している改革の中を生きています。特に、新型コロナウイルス感染症拡大は、私たちの労働生産性に根本的な変化をもたらすデジタル革命を引き起こしています。これに伴い、ビッグ・データ、AIなどの概念が誕生しました。これらは今まで発展途上国が先進国の後を追って発展してきた歴史を変え、違う道を選んで先に進むチャンスを与えているのでしょうか。もしそうであれば、私たちはこれから何に気を使わなければならないのか。私たちがなんとか食事を取れているのは、鉱物資源を輸出しているからです。これはいつか必ず変わります。時代の変化に伴って、これからのことを考えるとどうですか?

Sh.ボヤンジャルガル: 今から話す内容は私一人が考えたことではなく、この分野に活躍している若者みんなが言っていることです。今がチャンスだと。これを逃してはいけないということに賛成です。ただ、これを加速するとしたら、できるものなら今は国民全員がある程度のことは我慢して、教育分野にもっと力を入れ、若者に投資をして欲しいのです。今の教育科学大臣の取り組みは評価できますし、嬉しく思います。そして、経済自由区域の運営を開始し、若者の力を市場に出回るようにすると、より早く実現できると見ています。モンゴルは人口が少ないので、教育の格差を作ってはいけません。私が高校の時は、これほどではありませんでした。ゲル地区で教科書を何冊か読んで、全国数学大会に出てメダルを受賞することが可能でした。数学の国際大会に2度参加する機会もありました。しかし今はありません。

J: 今の教育システムは、モンゴルの社会を2つに分けてしまっています。これを良いものを悪くするのではなく、悪いものを改善することで一刻も早く前に進まなければなりません。

Sh.ボヤンジャルガル: そうです。ですから見ていて惜しいのが、6000億トゥグルグを年金ローンの支払いに使っていることなどです。そのお金を教育に対して投資をする必要があると思います。

J: 私たちは重要で大きな問題に少しだけ触れることに留まりましたが、これらの課題について議論するキッカケの提供にはなったと思います。若い人には、あなたが書いた本を手に取ることをお勧めします。あなたとはまた少し時間を置いてお話ができることを期待しています。世界中が直面する危機という壁の前に立っています。これを全国民がただ見て過ごすことはないと思います。面白いインタビューとなりました。ありがとうございました。

Sh.ボヤンジャルガル: ありがとうございます。ひとつだけ言っておくと、私たちはこれをただ見て過ごすことはないですし、それは決してあってはなりません。そのために、若い人は、特に英語を勉強しなくてはなりません。若者は英語ができると履歴書に書きますが、まだまだ不十分です。これを早急に変えなくてはなりません。この解決案として、私は「テメー(ラクダ)」というアプリを出そうとしています。このアプリの趣旨は、モンゴル語をしっかり勉強しましょうということです。一つの言語をきちんと学習すれば、二つ目の言語もきちんと学習できるという諺があります。モンゴル語を完全に学習できたら、二つ目の言語は学習しやすいはずだということです。

J: モンゴル語を使って英語を勉強するアプリということですか。いつ出来るのですか?

Sh.ボヤンジャルガル: この番組が放送される頃には、すでに出来ています。

Sh.ボヤンジャルガル * ジャルガルサイハン