ダニエル・ウォラル氏は、ハル大学を卒業後、ダラム大学及びケンブリッジ大学で修士号を取得しました。ウォラル氏は、英国、EU、アジア、アフリカで資源開発や探査に関わる政府機関、持続可能な開発チームを担当してきました。また、エクソンモービルの主要な市場である中国、シンガポール、日本、韓国、香港の政府との協力を調整するチームを率いていました。資源開発分野での経歴は20年以上であり、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルで管理職を務めてきました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。モンゴルに来られてからどれくらい経ちますか。今のところ、モンゴルで仕事をするのはどうですか?

ダニエル・ウォラル: こんにちは。番組に招待して頂きありがとうございます。私がモンゴルに来てから約9ヶ月が経ちます。この9ヶ月間は、モンゴルのみならず、世界中が困難と向き合ってきた期間でした。ですが、リオ・ティント社のモンゴルでの事業を担当する責任者として、また個人的にもモンゴルでの時間は非常に有意義なものです。モンゴルの北部に位置するフブスグル湖、南部に位置するゴビ砂漠、オユトルゴイ、それから古都カラコルム、フスタイ国立公園など美しい自然を楽しみました。

J: COVID-19は貴社の事業にどれくらい影響を及ぼしていますか?

ダニエル・ウォラル: まず、モンゴル政府関係者にお礼を申し上げます。モンゴル国はCOVID-19の感染拡大を防止し、同時にその経済に及ぼす影響を抑えるための非常に効果的な対策を実施してきました。リオ・ティント社のモンゴルでの事業は5つの領域に分かれます。その中で最も重要な事業が、私が担当するオユトルゴイ露天掘り事業です。COVID-19の影響で中国との国境検問所が何日間か閉鎖された以外、露天掘り採掘は停止することなく続いています。毎日、5〜6車両の銅精鉱を中国に出荷しています。中国の経済は第2四半期から回復し始めました。ですから、事業の進展に問題はありません。2つ目に、オユトルゴイ坑内掘り事業ですが、プロジェクトの進捗度は60%です。事業の進行は少し遅くなっています。坑道の第3、第4換気口の建設事業はメンテナンス中です。ですが、地下鉱山の坑道掘削は進んでいます。

J: 昨年は地下鉱山の地質条件が原因でプロジェクトの期間が延長されると言われていましたが、今はどうですか?

ダニエル・ウォラル: リオ・ティント社はオユトルゴイ鉱山の株主であり、オペレーターです。あなたが今言った通り、昨年の6、7月に岩盤地層の一部を把握するために地質調査を行いました。その結果、鉱山資源の大部分を占める地下部分の採掘には、追加で掘削作業が必要であることが分かりました。これらの追加作業の必要性があることから、2022年の10月から2023年の6月の間で、持続可能な生産を開始することを予定しています。ですから、来年の前半には、坑内掘りを開始するか否かの重要な決定を出す必要があります。なぜなら、事業を継続する上では、リオ・ティント、モンゴル政府、その他の株主がこれからの事業に備えて、いくつか重要な懸案事項を解決する必要があるからです。

J: 坑内掘りの生産が2023年の初めころからスタートするということですね。

ダニエル・ウォラル: 坑内掘りを開始するか否かの決断によります。坑内掘り開始前に、いくつかの重要な懸案事項を解決する必要があると言いましたが、それは、電源供給、資金調達、準備金と運用モデルの承認の3つです。この3つの条件とそれにまつわる条件が満たされた場合、最初の持続可能な生産が2022年の10月から2023年の6月の間で行われると予定しています。

J: これに伴い、今の精錬所の生産能力を上げる必要が生じますか?

ダニエル・ウォラル: 私たちは今年度を期限に、鉱山の詳細な図面、予算等を作成しています。鉱山全体の図面がこれで完成します。精錬所については、2009年の投資協定により私たちが必要な調査を行い、2016年にモンゴル政府に調査結果を提出しました。計画では、オユトルゴイで生産された銅と金の精鉱は、中国に輸出され、そこで精錬される予定です。

J: 坑内掘りが開始されたら、今から3年後には現在の生産量が2倍になるという試算があります。これは事実ですか?

ダニエル・ウォラル: おそらくは現在の3倍になると思われます。そのためには、まず先ほど申し上げた3つの懸案事項を解決する必要があります。

J: 資金調達や政府承認についてですが、モンゴル政府がその34%の株を売却しようとしているという噂がありますが、これは本当ですか?

ダニエル・ウォラル: 人々の憶測に私がコメントすることは、あまり適切でないと思います。モンゴルの国家大会議によって任命されたワーキンググループが、18ヶ月間の調査を経て去年の11月に結果を報告し、それに基づきモンゴルの国家大会議第92号決定が出されました。オユトルゴイはこの決定を実施するために、政府との協力を惜しみません。ただ、オユトルゴイプロジェクトが成功した場合、生産量はGDPの20%になります。モンゴル国に対する外国投資の70%をオユトルゴイが占めています。ですから、オユトルゴイの株主が、一刻も早く合意に至り、電源、資金調達、鉱山の設計を承認する必要があります。

J: オユトルゴイプロジェクトが予定通りに進むことは、モンゴル経済にとっても重要です。オユトルゴイプロジェクトには何人が勤めていますか?

ダニエル・ウォラル: まず、リオ・ティント社の国際事業について簡単に触れたいと思います。私たちは世界36か国で4万7千人の従業員を抱えています。モンゴルに関して言えば、オユトルゴイ露天掘りと坑内掘りの事業会社の株主で、オペレーターを担っています。探査もしています。ウランバートルに拠点を置く、ハイテク事業を行うMongolia Delivery Centre もあります。また、協力企業もあります。オユトルゴイプロジェクトでは、COVID-19の前には1万5千人ほどの従業員がいました。このうち、94%がモンゴル人従業員です。この種のプロジェクトに20年間務めてきた私に言わせると、直接雇用はもちろん重要ですが、サプライチェーンの中の請負業者、その提供者一人一人を含めて考える必要があります。それらを含めて考えた場合、2019年には全部で4万5千人がオユトルゴイプロジェクトに関連していたという調査があります。

J: オユトルゴイプロジェクトはリオ・ティント社にとって最も大きなプロジェクトですか?

ダニエル・ウォラル: 現時点では、最も大きな投資です。

J: 2023年に坑内掘りが開始されると、従業員数はどれくらいになりますか?

ダニエル・ウォラル: 正確に何人と言うことは難しいです。多くのことによります。例えば、生産能力を安定させるのにどれくらいの期間かかるかなどです。ですが、何千人の直接雇用が創出されることでしょう。そして、サプライチェーンの請負業者、サービス提供者も増加してくるので、かなりの雇用数になるかと思います。本プロジェクトのモンゴル経済における利益、貢献について触れますと、オユトルゴイはここ10年間で207億ドルの税金を納めました。また、プロジェクト関連の購買、入札など国内サプライチェーンを確立するために110億ドルをモンゴル国内で使っています。

J: モンゴルのGDPと同じ額ですね。リオ・ティントについて、モンゴルに情報プロセスセンターという事業部があるようですね。これについて詳しく教えてください。

ダニエル・ウォラル: 私はMongolia Delivery Centre を誇りに思います。2004年にこの組織の基盤ができ、グループ内で知識を共有する一環としてウランバートルから世界中のリオ・ティントと協力しています。2014年からは役割の幅を広げ、チーム数を増やし、ビッグデータやサプライチェーンマネジメントに集中し、今はプロジェクトマネジメントを中心に活動しています。従業員も増加し、今は75人、来年には100人にしたいと思っています。とても強力なリーダーシップの元で、優れた才能あるモンゴルの若者たちが勤務しています。

J: モンゴルの若者たちがウランバートルからリオ・ティント社にサービスを提供しているということですね。外国人従業員は何人いますか?

ダニエル・ウォラル:  外国人従業員はいません。

J: 外国人従業員は一人もいないのですか?

ダニエル・ウォラル: そうです。新入社員から管理職まで、全員モンゴル人です。リーダーは、とても能力あるモンゴル人女性です。従業員は経験豊かで、海外留学の経験のある人たちもいます。

J: 経済の多様化と良く言いますが、知的財産を輸出している実例が出てきました。Mongolia Delivery Centreはモンゴルで登録された、独立したモンゴル企業ですか?

ダニエル・ウォラル: リオ・ティント・モンゴリアの組織内で、探査チーム、オペレーターの協力チーム、そしてMongolia Delivery Centreが含まれています。

J: リオ・ティント社はオユトルゴイのみならず、大きな探査チーム、情報提供チームを有し、モンゴルの経済に貢献しているわけですね。

ダニエル・ウォラル: そうです。モンゴルではいくつかの事業を行っています。オユトルゴイ鉱山をはじめ、Mongolia Delivery Centreもありますし、今後はモンゴル国内での探査事業を拡大していくことに興味があります。個人的には、探査ライセンスの交付を停止した決定を新政府が取り消すことを期待しています。この事業を正しく、オープンに行うことは、モンゴルに多くのメリットをもたらします。雇用創出、外国の直接投資が増加する上、モンゴル人は自分の国のどこに、どんな鉱物資源があるかを把握できます。

J: モンゴルは探査ライセンスに関する法律の改正を議論しています。ライセンス交付を再開すると期待しています。世界中どこの国でも、探査を行うことで自国に眠っている資源、その所在地を把握できます。リオ・ティント社がモンゴルで探査をすることは、モンゴルにも有益です。

最近、リオ・ティント社のCEOが退任したことが報道されました。そして、CEO候補者は社内に3人いるということが報道されました。CEOジャンセバスチャン・ジャックはオーストラリアで退任することを発表しました。これは会社にとってどういうことでしょうか?

ダニエル・ウォラル: まず、CEOジャンセバスチャン・ジャックの退任は、オーストラリアでの洞窟遺跡で起きたことと関連しています。会社としては、歴史的に重要な洞窟遺跡を破壊したことは起きるべきではなかったと考えており、教訓となりました。ウェブサイトriotinto.comには取締役会の報告、決議を掲載されています。報告からは、過去何年間の出来事が積み重なった結果、今回のことが起き、CEOジャン・ジャックを含む取締役数人が退任することになった経緯が分かります。ただ、リオ・ティント社、世界36 カ国に4万7千人の従業員を抱える将来有望な企業であることだけは言っておきたいと思います。

J: リオ・ティントの最も大きな収入源は何ですか?

ダニエル・ウォラル:  リオ・ティント社は、4つの製品部門を有しています。まず、銅とダイヤモンドです。アメリカ、オユトルゴイなどがここに含まれます。次に、エネルギーとミネラルです。この部門はバータル・ボルドが担当しています。そして、アルミニウムがあります。最後に、鉄鉱石です。今は、鉄鉱石がリオ・ティント社の売上の70%以上を占めています。その多くがオーストラリアの鉱山から中国への輸出で成り立っています。ですが、西アフリカで新しいプロジェクトが台頭してきています。

J: 売上の70%以上を鉄鉱石のみから得ているのですね。あなたは今、バータル・ボルドについて触れました。彼はモンゴル人です。エネルギー・ミネラル部門の責任者ですね。こういうニュースがありました。彼がリオ・ティントの次期CEO候補者の一人だというものです。これについてはどうなっていますか?

ダニエル・ウォラル: 私の立場では、誰がCEO候補かということについては話すことは適切ではありません。リオ・ティントの経営管理者には多国籍、多様な人物がいます。ボルドも運営チームの一人です。ジャン・ジャックCEOは2021年の3月まで、あるいは次期CEOが決まるまで職務を続けます。これから明らかになることだと思います。

J: リオ・ティント社は多国籍企業であり、従業員も異なる国籍の人たちですね。36カ国での支店にモンゴル人の従業員が何人くらいいますか?

ダニエル・ウォラル: リオ・ティントは多国籍企業であり、英国、オーストラリア証券取引所にも上場しています。リオ・ティントの株はニューヨーク証券取引所でも取引されます。これらの証券取引所及び数カ国でその国での法律で定められた条件を満たし、活動をしています。多国籍企業であることが大きな利点です。国籍、年齢、性別に関係なく仕事をし、人事異動も盛んであるため、正確な人数を言うのは難しいです。モンゴルについては、グローバルノーマッズ、つまり現代の遊牧民というプログラムを実施し、毎年35人のモンゴル人を外国での支店に移動させています。私の部下たちも含めてです。

J: リオ・ティントのネットワークを使って、モンゴル人が世界中で経験を積むのはとても良いことだと思います。ここで、エネルギーについてもお聞きしたいのですが、この2年間話されていました。ようやくモンゴル政府が発電所を建設することになったと聞きました。リオ・ティントは内モンゴルからのエネルギー輸入を停止し、この発電所からエネルギーを購入すると思われます。これについてはどう考えますか?

ダニエル・ウォラル: 私が見るには、安定した電源の確保というのは、オユトルゴイで最も重要で、モンゴル政府との協力で一番に解決されなければならない課題の一つです。2009年の投資協定では、オユトルゴイはモンゴル国内で電力を購入する義務を負っており、この義務を果たしたいと考えています。今年4月にモンゴル政府は、タワン・トルゴイ石炭鉱山の付近で450メガワットの石炭発電所を建設することを発表しました。私たちは、この発表の後、政府と交渉し、発電所に関する契約内容の修正で合意しました。これは、オユトルゴイに電源を提供するという内容の契約です。修正した契約書には、今年の6月にサインしました。私たちは、国営発電所からの電力を優先して購入をすること、発電所建設終了までの2023年もしくは2024年までは内モンゴルからの電源輸入を継続することについて合意しました。先月、初めてモンゴルの国内発電所から電源を購入し始めました。事業は前に進んでいます。今は、内モンゴルからの電源輸入契約の期間を延長することが求められています。これは、政府間の契約です。政府は、国営発電所建設事業について積極的に取り組んでいます。リオ・ティント、オユトルゴイ両方とも協力していきます。

J: モンゴルの送電網に既に繋がっているということですか?

ダニエル・ウォラル: ごく一部ですが繋がっています。中国の送電網とモンゴルの送電網は、周波数変動の問題で直接、接続することはできません。ですからアルマンド・トーレス社長は、オユトルゴイ鉱山で中国から輸入している電力の接続を物理的に切断し、モンゴルの送電網に接続しました。

J: あなたは先ほど安定した電源の確保と言いました。これについてはどうですか?

ダニエル・ウォラル: オユトルゴイ、その株主であるリオ・ティントにとって確実な電源の確保、その信頼性は最も重要な問題です。この10年で様々なことがありましたが、モンゴル政府が国営発電所を建設することを応援しています。この発電所は、オユトルゴイに確実な電源を安定的に供給するであろうと信じています。

J: 信頼性についてですが、一部の企業は独立した電源に接続することがあります。例えば、中国の送電網に何らかの問題が起きた場合どうなりますか?

ダニエル・ウォラル: オユトルゴイは最も複雑な技術ブロックチェーンマイニングを採用する鉱山の一つです。この技術は世界でも一握りの企業しか使えません。鉱山事業では、従業員の健康を保護し、安全な労働環境が求められます。ですから、電源の確保は何よりも大事なのです。

J: 採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)という組織があります。モンゴルに限らず、発展途上国でのマイニングガバナンス、発展度合の明確化に影響を及ぼします。EITIのモンゴルでの進み具合をどうみていますか?

ダニエル・ウォラル: EITIの原則では、採取産業を行う企業が政府に対して支払った納税情報を公開する義務を負います。リオ・ティント、オユトルゴイは、2019年にモンゴル政府に対して3億500万ドルの納税を果たしました。加えて2000万ドルの所得税もあります。

J: リオ・ティント、オユトルゴイはその情報を公開し、政府も公開すべきです。その公開情報に差異が生じた場合にはどうしますか?

ダニエル・ウォラル: そのような場合には、第三者機関であるNGOが両者の間に入り、正確な情報を纏めていくことになります。

ダニエル・ウォラル * ジャルガルサイハン