医学博士、教授であるM.シャグダルスレン医師はモンゴルと日本の大学を卒業しています。アメリカ、フランス、中国などで医学向上のために数多くの研修に参加してきました。彼は、モンゴルで「肝臓のシャグダルスレン」として有名です。現在は「シャグダルスレン」という肝機能専門の病院を経営しています。日本語・中国語も堪能で、翻訳者としても活躍し、数冊の本の編纂にも関わってきました。

J(ジャルガルサイハン): モンゴルは肝臓病で世界上位となっています。この理由は何ですか?またこれを止めることは可能ですか?

シャグダルスレン:肝炎は完治せず進行して肝硬変や肝臓癌に至る病気です。肝臓癌は10万人に何人発症しているかで比較されます。例えば、肝臓癌割合が低い国では10人、中国では28人、アフリカ諸国では50人、モンゴルでは100〜110人と高く世界上位となっています。肝臓病を引き起こす原因としてアルコールの過剰摂取、薬、不規則な食事などが挙げられます。肝臓病の主な原因はウィルスです。おおよそ10種類のウィルスがあり、モンゴルではそのうち3、4種類のウィルスが確認されています。肝炎にはA型、B型、C型があり、B型C型肝炎が90%を占めています。私は肝臓病について研究して30年になります。1950〜1960年代、モンゴルではウィルス感染の原因が注射針にあることを知らず、注射針を殺菌装置で煮沸消毒して使い回していたことが始まりです。ウィルスとは、私たちが知っている菌や細菌と全く異なる構造をもっています。分かりやすく言うと、1㎜の1000万〜2000万分の1くらいの微小なものです。それを煮沸消毒しても殺菌されないということを当時は知られていませんでした。これが今日、モンゴルが肝臓病で世界上位となっている原因であり、簡単に治療できない状況でもあります。

J: 国全体で危機と言えるほど多くの人が肝臓病にかかってしまいました。今日ではこの病気の危険性を知り、経済的に余裕がある人は国内外で治療を受けています。新たに肝臓病のウィルスに感染した場合はどのように治療しますか?1960年代以降は肝臓病のウィルス感染を止めることができましたか?

シャグダルスレン: いいえ、できていません。1950〜1970年代と比べれば、世界では医療技術が進歩しています。最近ではC型肝炎をほぼ完治できる治療法が開発されました。B型肝炎の予防接種は、モンゴルでは1992年から始まりました。完璧ではありませんがB型肝炎の予防接種は効果があります。C型肝炎は皮膚、粘膜、注射針、性行為、手術、抜歯、刺青さらに歯ブラシ、髭剃りなどから感染します。

J: モンゴルは一人当たりの1年間の飲酒量は世界で高い国の中に入っています。お酒、ビール、ワインなどの悪影響はどのくらいですか?

シャグダルスレン: 肝臓病ウィルスの原因の一つにアルコールの過剰摂取があります。アルコール度数が高いほど身体に悪いと思います。お酒を少し薄めて、度数が6〜8%のワインを200〜300ml、ビールを300〜400mlの摂取ならアルコールを肝臓が分解してくれるから体内に毒が残りません。体重や体質など個人差はありますが、アルコールの過剰摂取は体内に毒が残って肝臓細胞を壊してしまいます。モンゴル人の特徴は食べずに飲むことです。中国人はアルコール度数の高いお酒を飲みますが、必ず食べながら飲みます。これがストレス解消や食事の消化、治療にも繋がります。

J: それでは薬の服用について話しましょう。韓国のソウル市には至る所にコーヒーショップがあります。しかし、ウランバートルでは薬局があります。私たちは食事をするように薬を服用しています。これをどうみますか?

シャグダルスレン: 私たちの様にこんなに薬を服用している国はないと思います。薬はその病気を治療する時以外に服用すると、人間の体には毒となります。用量を越えた服用や長期に渡る服用は肝臓に悪影響を与えます。特に抗結核薬、避妊薬、睡眠薬、抗生物質、とりわけ鎮痛剤のパラセタモール(アセトアミノフェン)は非常に悪影響を及ぼすものです。モンゴルでは医者の処方箋がなくても薬を買うことができます。他国では医者の処方箋がなければ全く買えません。これは当然だと思います。薬は人間の肝臓や腎臓に悪影響があるから、法律で厳しく規定されています。薬の不適切な服用は本当に危険です。

J: あなたは医療機関での長年の勤務経験があります。薬がビジネスとなった今の状況をあなたはどう思いますか?薬を輸入している人たちはみんな保健省と繋がっています。医者は患者に薬を買う薬局までを指示しています。この悪習を私たちはどこからどうやって止められるでしょう?薬について記事で取り上げると、その新聞社や記者を金銭で黙らせてしまいます。これをどうするべきですか?

シャグダルスレン: これは非常に難しい問題です。特に通販の薬やダイエットサプリの服用は代謝機能を強制的に変えるため、肝臓にとても悪い影響を及ぼします。モンゴルでは薬品や食品について教育していないことが非常に良くない。幼稚園、小学校から教えるべきです。保健教育という言葉の中身が充実していません。せめて子どもたちに身体に悪いものと良いものについて教えなくてはいけないと思います。日本や韓国では普通の一般の人がどんな魚、どんな野菜が何に良いのかをよく知っています。

J: 輸入されている食品や薬品の保存料、ラベルに表示されている情報の正確性を独立した研究所で分析する必要があります。また、子どもたちにも正しい知識を与えたいと思います。

シャグダルスレン: 辛いもの、唐辛子は胃炎を鎮める効能があります。痩せている人の体重増加、消化器系を良くしてくれます。特に生殖機能を良くしてくれます。しかし、モンゴルでは辛いものが胃に悪いという意識が強く、辛い物はあまり食べないようにと教えられてきました。私はこの意識を変えたいと思っています。昔は唐辛子を使った体力をつけるための療法がありました。

J: 話題を変えてあなた自身について教えてください。みんなあなたのことを話すと肝臓について話します。しかし、あなたは詩人であり、翻訳者であり、専門医師です。1万人を手術した経験があります。肝臓病を研究する他に翻訳者として「蒙英・英蒙医学辞典」を出版しています。なぜこの医学辞典を作ろうと思われたのですか?

シャグダルスレン: 私の学生時代である1970年代、医学はもとより一般の英語・モンゴル語辞書さえありませんでした。本の解説はロシア語・英語で書かれていました。日本の筑波大学在学中は、英語で日本語が教えられていたため、英語は必須でした。

J: あなたが翻訳した本の中にウマル・ハイヤームについてあります。どうしてこれを翻訳しようと思いましたか?

シャグダルスレン: ウマル・ハイヤームは1000年前のペルシアの学者で医師でもあります。当時の学者は詩、占い、哲学などを勉強していました。10年前に翻訳編纂をして受賞した本でもあります。

J: あなたが編纂、翻訳した本について話してください。

シャグダルスレン: 「肝臓病の治療と食事療法」という本を翻訳し、そのモンゴル語版は絶版しましたが、日本語版が残っています。「肝臓病の治療と食事療法365日」という本を中国語に翻訳しましたが絶版しました。また、モンゴルで70、80歳の高齢者の偏食や手術ができなくなった時に、どんな治療方法があるかを探して日本や中国で療法を見つけました。しかし、そこで使われている薬草について記載されている書籍がなかったので「植物図鑑6000種」を編纂しました。

J: あなたは何冊も本を翻訳し、編纂してきました。医者として多くの人に手術、診察をしてきました。それらをこなすコツは何ですか?

シャグダルスレン: この質問はみんなに良く聞かれます。私は皆さんが思う程やってなくて怠慢だと思います。私は若い時に朝5時に起きる癖がついたので、朝は多くの仕事をこなせます。本を翻訳する時は最初の15〜20ページの単語を辞書で調べておけば、後の翻訳は楽になってきます。1日100単語を書いて70の単語を覚えていた時もありました。また、日本に留学していた時は、日本人の仕事ぶりに影響されました。医者はいつも病気を研究し、患者の治療ばかりではいけません。医学以外のことにも関心をもち、感性を豊かにしていく方が良いと思います。特に詩や文学などの芸術作品はとても美しく上品なものですから。

ジャグダルスレン * ジャルガルサイハン