社会秩序(Social order)は2つの側面から見ることができる。まず1つは、人間関係と人々の行動に対する制度、そしてその在り方、それらを保持する社会構造、つまり組織、コミュニケーション、伝統、価値観などが有機的に繋がっている状態である。例えば、古代封建社会や資本主義社会の秩序、モンゴルで確立されている“民主主義・市場経済”社会の秩序を言う。

もう1つは、社会秩序の崩壊や混乱を避けるべく、社会の全ての成員が自発的意思をもって調和することの重要性を認識し、その結果、安定している社会状態を言う。 

“社会秩序が確立された国家では、社会経済が繁栄し、国民の生活が安定する。”

社会秩序の確立

社会秩序の確立とは、国家に法律や規程があり、国民がそれを遵守している状態を言う。社会秩序の確立は、政府に課される重要な4つの義務の1つであり、他の3つの義務は国家安全の確保、公共サービスの提供、経済政策の決定である。

社会秩序の確立は国民生活に必要不可欠で、肯定的な影響を与える。社会秩序を確立するには、国民1人1人が法律を尊重する意思を持たなければならない。法律に違反した者は誰であれ、必ず責任を負うという原則が機能しなければならない。法律は人権・自由を擁護し、人種民族、出自、思想信条によって差別されることなく、全ての人に平等に機能しなければならない。国の法律を遵守させるための全権は政府のみに与えられるべきだ。

政府の1つ目の義務は、国家安全の確保、つまり如何なる国、如何なる組織からも国民の安全を保障することである。他国の侵略から防衛するためには軍隊が、隠密な干渉をくい止めるために諜報が、犯罪者から市民を守るために警察がある。

政府の2つ目の義務は、貧富の区別なく全ての人に公共サービスを提供することである。例えば、消防や警察の救助サービス、公共交通機関の利用サービスなど。政府は何人にも教育や医療サービスを制限することはできない。

政府の3つ目の義務は、貿易・ビジネス・金融・企業活動などに直接関わる経済政策を決定することである。政府は金融専門家、経済学者、企業経営者と協力して経済政策を決定する。その決定はこの国の経済発展プロセス、国民や企業が金融サービスを利用する際のルールを定義する。例えば、中央銀行が金利水準を定める。政府が国内外の市場で国債を発行するなどだ。

“社会秩序の確立は、法律の遵守、国家の安全保障、公共サービスへのアクセスとその質、政府が出す経済政策に大きく影響を受け、変化していくものである。”

モンゴルの社会秩序

1992年、社会主義から民主主義へと舵を切ったモンゴルは、臨時国家大会議を開き、社会秩序についての政府活動方針を採択した。

社会秩序を確立させるため、憲法を基本法として法律、規程の全面的な改正を行い、社会生活全般で国民が法律を遵守する社会秩序を定めた。そこには“国の伝統、習慣の復興と発展、経済、社会、政治など各分野において法律を遵守させる。特に犯罪対策のために経済、社会、政治における包括的な措置を講ずる”とある。

“あれから26年、私たちは社会秩序を確立させることができただろうか?関連する法律や規程は数多く採択されている。法務・内務省の発表によれば、モンゴルで発効している独自法の数は449本、国際条約・協定書の数は369本、政令の数は2472本ある。モンゴルの449本の法律のうち300本が国民の社会生活に直接関わっている。また、政府や自治体が遵守すべき976本の政令がある。”

しかし、なぜ法律や規程があるにも関わらず、腐敗や犯罪、交通事故が年々増加しているのか?その理由は、私たちモンゴル人が施行された法律や規程を遵守していないからだ。個人が法律を尊重していないし、政府も法律に違反した者に対して責任を追及することができていない。モンゴル政府自体が腐敗に溺れているから、政府としての機能を失っている。

公共のサービス、特に保健、教育、公共交通、インフラ整備の提供が遅れ品質も低い。多くの面で社会秩序が崩壊する寸前の水準に達している。交通渋滞だけでも国民の怒りを買っている。政府高官が乗る車を通すため、一般市民の車の通行を制限することが火に油を注いている。

安全保障においても危機に晒されている。国民は食事を取るように薬を服用する。服用している薬の3分の1は効果のない、または逆効果な偽薬である。石炭を積んだ数千台の車が国境を通過しているのに、関税庁はその実態を把握できていない。食の安全については話すまでもない。

政府の経済政策は、根拠とする調査が不十分であり、更に特定の集団のために作られるようになって久しい。モンゴル帝国時代の王の名がついた国債の発行に関して未だに報告がなく、1人、2人を取り調べただけで真相が明かされることはない。政府が闘う相手は腐敗ではなく、賄賂対策庁の長官だ。政府による物価調整という名の下で一部の人だけが利益を得ている。この国の主要産業である鉱業は政府ではなく、“ニンジャ”たちにコントロールされ始めている。

社会秩序を確立させるために法律を遵守させ、正義を確立しなければならない。最後に、170年前のフランスの哲学者:フレデリック・バスティアのこの言葉を借りたい。「法の本質は正義を維持することである。正義は、不正がない時にのみ達成されるものだ。」

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン