R.エンフトゥブシンは2014年にモンゴル国立医科大学心理学研究科で修士号を取得しました。2008年から精神保健医師として勤務。2014年から国立医科大学精神保健研究所で教授をしています。2017年から国立精神病院の医師を務めます。

J(ジャルガルサイハン): モンゴルの自殺者数は全人口と比較して多いです。この数字は国際調査によって明らかになりました。これについて話してください。
エンフトゥブシン: 世界で年間平均100万人、つまり40秒に一人が自殺しているという調査結果があります。自殺とは自然死ではなく、人が自らの命を絶つことです。モンゴルではこの自殺者数が増加傾向にあります。保健開発センターが実施した調査をみると、モンゴルでは年間16000〜17000人が死亡し、うち自殺者数は460〜475人です。自殺者を年齢別でみると15〜34歳となります。特に18〜29歳が大半を占めています。言い換えれば、勉学に励み、自分のもつ能力を発揮していく若さでこの世を去ることが非常に残念です。

J: この数字は世界の他の国々と比較してどうですか?
エンフトゥブシン: 自殺の指数は10万人に何人という規模で計ります。自殺者数が10万人中15人以上である場合は平均を上回っていることとなり、要注意です。20人以上の場合は危険域、25人以上の場合は国家危機レベルとなります。モンゴルの場合は2003年に実施した調査では17人、2006年に19人、2010年に20.2人となっています。しかし、2017年に世界保健機関が実施した調査では28.1人となり、これは世界3位の数字となっています。

J: 1位と2位はどこですか?
エンフトゥブシン: 1位はスリランカ、2位はガイアナです。モンゴルの後にはカザフスタンが入っています。10年前は韓国が4位でしたが、今は10位となっています。

J: するとこれには経済的な問題があるということですか?
エンフトゥブシン: 多種多様な問題があるとみています。社会で起きている良くない現象を社会的異常と言います。例えば、自殺、麻薬の使用、飲酒、売春、重大犯罪などがあげられます。自殺を社会と直接関連づけて見る研究者も少なくありません。この様な社会における異常な現象は不適切な法律、経済危機、高い失業率などによって起きる場合もあります。自殺者数が増えるほど私たちの国の法律が間違っているか、あるいは経済が低迷していることを表しています。

J: 若者の自殺予防をどのように行いますか?
エンフトゥブシン: 若者の死亡原因として第一位は事故、その次に自殺が入ります。ヨーロッパの先進国では自殺の原因を調べてみると、殆どが精神病によるものが多いです。これは主にうつ病になった人や大麻依存症者が自殺をします。しかし、モンゴル及びアジア諸国では、精神病が自殺の主な原因ではありません。殆どが感情によるもの、つまり家族やストレス、恋愛などが主な原因となっています。これは救うことができるものです。自殺が問題を解決する一つの形となってしまっているのです。

J: これは予防、改善ができることじゃないですか?
エンフトゥブシン: その通りです。精神病の治療は長期に渡るもので、常に監視下に置かなければなりません。それゆえ治療費も非常に高くつきます。しかし、モンゴルで起きている自殺の原因は精神病ではなく感情によるものが殆どなので、自殺予防の可能性があるとみています。1997年に実施された調査では、ホットラインシステムと言い電話で心理的助言を行うサービスを全国に普及させる必要があると指摘されていました。しかし未だにこのサービスは提供されていません。

J: どうしてですか?
エンフトゥブシン: まずはどこからも支援がないことと、経済的に余裕がないからだと思います。自殺予防対策として最も必要とされるのは10代のための心理的助言を行うセンターを開設することです。学校や大学には心理カウンセラーを必ず配置する必要があります。2016年に国立医科大学に学生のために心理的助言を行うセンターを開設しました。当センターを開設して1年で8つの学校から230人の学生が利用し、10人の自殺を防ぐことができたという実績があります。

J: 自分が何をするべきか、どうするべきかなど問題を抱えている誰もがこのセンターを利用できるということですか?
エンフトゥブシン: はい、できます。利用を希望する人が非常に多いので少し待つことにはなります。

J: 私たちは物質的なものばかりを重視し自殺についてあまり注意せず、そのため多くの人が自ら命を絶っています。他にどんな予防対策がありますか?
エンフトゥブシン: 自殺未遂や死亡を記録するシステムを作る必要があります。自殺及び自殺未遂どちらも記録していく必要があります。例えば、誰かが自殺をするために自分の手首を切って病院に行ったとします。しかし、病院の診断では自殺未遂を図ったと記録されず、その傷のみについて記録しています。意図的に自殺未遂を図ったとなれば、患者は医療費を支払わなければならないので嘘を付きます。医療分野における全ての病院、警察機関及び裁判所はデータを統合し、共有する必要があります。いろんな調査をみていくと私たちは全ての自殺のケースを記録できたのか、把握できたのかという問題も出てきています。

J: 自殺した人の葬儀の過程はどのように行われますか?自殺は犯罪と見なされますか?またその後の影響はどんなことがあるでしょう?
エンフトゥブシン: 昔は犯罪とされ埋葬するための土地を確保しないケースはありました。今は自然死で亡くなった人と同じように埋葬されます。法律では一つの規定があり、それは自殺に追い込んだ人に処罰を与えるというものです。

J: 他に自殺予防となることはありますか?他国の事例などから教えてください。
エンフトゥブシン: この問題に関してマスコミはある程度監視する必要があります。昨年、2人の子どもが手を繋いで高層ビルの屋上から飛び降り、それを撮影してネット上にあげていました。このような映像を絶対に公表してはいけません。なぜならば、メディア効果というものが発生するからです。この様な映像が公表されたらマスコミが自殺を扇動していると見なされます。精神的に不安定な人はマスコミを通して見たものから動機づけられることがあります。昨年、私たちは「ネット上における自殺の傾向」を調べてみたところ、個人ブログの75%が自殺と関連する記事を投稿していました。また、人々の注目を集めるために「自殺の手引き」と題した記事を載せているウェブサイトもあります。この記事の最後に「自殺を止めたらどうですか?」という文章があり、一見自殺を批判しているように見えます。しかし、その記事の下に続く160〜170人のコメントの87%が自殺を肯定した内容でした。そのため、私たちはマスコミで自殺について取り上げることを規制する必要があると思います。

J: 子どもがネットをどの様に使っているのか、どんなグループに参加しているのかを保護者が必ず把握していなければならないと思います。保護者の子どもへの注意はどうですか?
エンフトゥブシン: 自殺した人の近親者6人が生涯残る精神的傷を負っていると見られます。公共の場所で自殺を図った場合は最低100人が心に傷を負ってしまいます。自殺行為を見ただけで精神的に大きなダメージを受けます。さらに撮影してネット上に載せるとより多くの人が精神的打撃を受けます。最近、モンゴルでは表に出てきていませんが若者の大麻の使用が増加しています。これが隠れて行われているということが大きな問題です。なぜ判ったかというと、裁判及び精神病の分析では毎日大麻問題を扱う件数が多くなっています。たまに集団で入って来る場合もあります。大麻や麻薬は最終的に必ず自殺未遂に追い込みます。大麻を使用すると人間の脳は圧力を受け、自分をコントロールできなくなります。コントロールできなくなるから自殺未遂が多発します。自殺未遂で病院に搬送されて来る人の30%が以前何らかの形で自殺を図っていたという数字があります。これはどういうことかというと、私たちはその人たちに対して十分な支援と助言をしていなかったから再び自殺未遂を図って来ているということです。

エンフトゥブシン * ジャルガルサイハン