民主主義を標榜する政府には果たすべき義務がある。それは国民の人権、生命、財産の3つを保護することだ。財産に関して言えば、モンゴル政府は公共の財産を保護するどころか横領してきた。歴代の自然環境大臣がボゴド山周辺の土地を盗んできたことを見れば分かるだろう。また、今までのウランバートル市長が横領してきた公有地についてここで述べてもきりがない。

間接的とはいえ生命の保護とは真逆の例を挙げると、数千人の命を奪っている市内のスモッグと交通事故、安全基準を満たさない建設工事である。

“このようにモンゴル政府は生命の保護をできてはないが、意図的に人命を危険にさらす誘拐などはしないと私たちは信じて来ていた。2018年7月27日までは。”

この日、モンゴル政府は誘拐を主導し、ある人物を外国に移送しようとしていた。しかし、そのことをいち早く知った市民がソーシャルネットワークを通じ、団結して移送を阻止することができた。

“この事件で真の民主主義国家では、権力は国民の手にあることをモンゴル国民が証明してみせた。”

問題は誘拐された人物が外国人だからということではなく、モンゴル国内にいる全ての人にモンゴルの法律は平等であり、人権、生命、財産という3つの権利が平等に保護されていなければならないことにある。モンゴルでは、誘拐や拷問は法律で禁じられている。

誘拐事件の時系列

誘拐されたモンゴル・トルコ共同設立学校のトルコ人副校長ヴィゼル・アケイは、モンゴルで25年間暮らしている。そして事件は2018年7月27日にウランバートルで起きた。

  • 午前9時30分、アケイは家を出て通りを歩いていた時、見知らぬ男たちにより強制的にトヨタアルファードに押し込まれた。誘拐したのはモンゴル人だった。
  • 午前9時51分、スフバートル区警察署第1課に「トルコ人を強制的に車に乗せ逃走した」という通報が入った。
  • 午後1時、モンゴル・トルコ共同設立学校のモンゴル人校長B.ガンバトがソーシャルネットワーク上にアケイが誘拐されたとの情報を流した。
  • 午後1時54分、トルコ国籍CT-4010小型ジェットがチンギスハーン国際空港に許可を取り着陸した。
  • 午後3時30分、アケイを乗せた車が空港に到着した。
  • 午後4時、同校の卒業生たちが空港に集まり始めた。また、道路運輸開発副大臣B.ツォグトゲレル、国会議員Lu.ボルドらも空港に到着した。
  • 午後5時、外務副大臣B.バトツェツェグは、空港に着陸したトルコ国籍のジェットについて明確な情報を得るまで離陸させないと発言。
  • 午後6時、野党である民主党の代表者たちが首相U.フレルスフ(人民党)に事件についての説明を書面で求めた。
  • 午後8時、アケイは両手に手錠をかけられ、頭には袋を被せられた状態でアケイの家の前で解放された。
  • 午後9時、アケイは警察庁で取り調べを受けた。
  • 午後9時20分、トルコ国籍の小型ジェットが予定していた時刻より3時間20分遅れでウランバートルから飛び立った。
  • 翌午前1時40分、警察庁刑事部のあるB棟からアケイが出て来て、そこに集まった人たちにこの誘拐事件について簡単な説明をし、モンゴル国民に感謝の意を表して家路についた。

3日後の7月30日、トルコ外務省の広報官ハミ・アクソイが「トルコ政府は、先週金曜日にモンゴルで起きた一連の騒動をトルコ政府が画策した誘拐事件だと言われることをとても残念に思っており、これは全く根拠のないデマである」との公式声明を発表した。

この事件の流れを追ってみると、トルコとモンゴルの諜報機関は秘密裏に合意し、共同で誘拐を実行したと見ることができる。

“モンゴルの諜報庁は首相直轄の機関である。首相が今日まで何も発言しないことに国民は恐怖感を抱き始めている。”

国民を裏切る行為

今回の誘拐事件は、モンゴル国民の信頼を裏切る事件である。モンゴル政府は2つの重大な過ちを犯した。

第1に、モンゴル国憲法やその他の関連法、国際条約を無視した。第2に、外国と締結した条約における両国の義務を果たしていない。例えば、2000年にトルコと締結した“民間や法人及び刑事事件における法的支援を相互に実施する”という条約に反した。

“モンゴルの諜報庁が以前にも誘拐事件を起こしたことをモンゴル国民は忘れていない。2003年5月にフランスに帰化したモンゴル人D.エンフバトが誘拐された。彼はその後まもなく刑務所で死亡した。”

トルコ政府は、誘拐されたアケイをギュレン運動の活動家だとみている。しかし、これはトルコの裁判所で判決が出されていない限り、モンゴル側は認めることができない。モンゴルは民主主義国家なので、個人の逮捕や拘留は裁判所の判決のみによって行われるべきだ。

今ではモンゴル人である私たちが、憲法で定められた権利が保障されているかどうかを疑うのに十分な理由がある。トルコ国籍の小型ジェット機がモンゴル国内に着陸したということは、政府レベルでの合意があったことの証左である。このようにモンゴル政府が誘拐を許したことが、国民の間に恐怖を生んでいる。

“国民はU.フレルスフ首相及び関係者に事件についての公式な説明を要求している。”

今回、政府が主導した誘拐と外国に移送しようとした行為を国民が止めることができた。国民はモンゴル政府に誘拐を認めないという保障を要求している。そして国際社会はモンゴル国民のこの要求を後押しすると信じている。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン