D.レグデル氏は1976年旧ソ連(ロシア)のハリコフ大学の生化学部を卒業しました。1985年にドイツのフンボルト大学で博士号を取得しました。2001年に化学科の博士号を取得しました。2002年に科学アカデミーの会員に選ばれました。1996年にモンゴル政府賞、2006年に科学勲章の受賞歴があります。

J(ジャルガルサイハン): あなたが尽力した科学アカデミーの設立と発展、その重要性について話を聞かせてください。
レグデル: 歴史から見ても、どの国でも知識を生むための政府から独立した機関が必要なのは明白です。モンゴルでは1921年に人民政府を樹立し、設立された5つの省に並び書物研究所(現:科学アカデミー)が設立されました。歴史専門家の解釈によれば、当時の書物研究所は現代科学を発展させる省だったそうです。この研究所が設立40周年にあたる1961年、モンゴル人民大会議においてモンゴル科学アカデミーとなることを決議されました。この頃はモンゴルで農牧運動が終わりを迎え、発展の目標を農牧産業国と定め、急速な発展段階に移ろうとしていた時代でした。そのような中で科学アカデミーを設立したことは、政府の政策があったからです。農牧産業国の次の段階は工業農牧産業でした。これには科学が必要なので重視されるようになりました。

J: 今日の科学アカデミーの組織構成を教えて下さい。
レグデル: 科学アカデミーには研究院10院がり、職員は合わせて1000人です。そのうちの880人が研究者、120人が管理事務職員です。10院のうち6院が自然科学、4院が社会・人文学分野の研究を行っています。それぞれの研究院の特徴に応じて研究者の数が異なります。社会・人文学研究院の研究者の半数が博士号をもっています。自然科学研究院の研究者の30〜35%が博士号をもっています。近い将来、この割合を50%にすることを目標としています。

J: 科学アカデミーの自然科学研究院の研究者の半数が博士号をもつことにどんな意味がありますか?
レグデル: 自然科学は創造の学問です。自然科学で博士号を取得した者は、その分野で自立して継続的に研究できる能力をもったとみなしてよいでしょう。ですから自立して研究ができる能力を身に付けた研究者が50%になれば、人間発達の見地からより進歩すると見ています。当科学アカデミーに在籍する研究者の平均年齢は38歳です。1980年代、1990年代と比較して研究者の平均年齢が若くなりつつあります。研究者全体の54〜55%を35歳以下が占めています。しかし、彼らに教えたり助言する年長の研究者が少なくなっています。これはあまり良くない状況です。

J: 科学アカデミーは資金をどこから調達していますか?
レグデル: 科学アカデミーは設立当初から国の予算で運営されてきました。これはモンゴルでの科学分野発展の特徴でもありますが、他に主だった産業が無かったことに関係しています。科学の世界的潮流を見ると、資金の65〜70%をビジネスつまり産業分野から、残りを国から調達しています。モンゴルもこのようになって行かなければならないと思います。

J: 国からの予算はどのくらいですか?
レグデル: 科学アカデミーの予算は科学技術基金が担っています。この4、5年で国から年平均して100~110億トゥグルグの予算が割り当てられています。

J: これは十分足りていますか?
レグデル: 十分ではありません。予算はこの4、5年間で変わっていません。

J: あなたは先ほど西洋の国々ではリサーチアンドデベロップメント、つまり研究と開発をビジネスに繋いでいると言いました。モンゴルでこれを実施していく上で妨げとなっているものは何ですか?
レグデル: まずビジネスにおける技術感覚が養われていません。技術感覚とは、科学分野において創られた技術を産業に導入するものだと理解しています。10年前、科学技術基金から特定分野のプロジェクトを企業に提案されました。これはコストの20%を企業が負担し、80%を国が負担し2年間の調査研究で得られる成果をその企業が無償で利用できるというものでした。25件のプロジェクトの中で成立したのは2件だけでした。開発された技術を商業化する過程においては必ず一手間かかります。社会主義の時代は全ての物が国有だったので、各工場の費用には科学技術の導入費というものが含まれていました。工場長はその費用を活用して科学技術を導入していました。今ではそのような費用が計上されるところはどこにもありません。開発された技術の産業への導入は、法律上教育文化科学スポーツ省が担当しています。

J: 皆さん自身が自分たちのアイディアや知識をビジネスにする可能性はありますか?
レグデル: 数年間訊かれる答え難い質問ですね。教育文化科学スポーツ省と科学アカデミーが共同で「包括活動」と名付けられた、開発された技術を製品化するための費用を国が負担し、小規模な工場をたくさん設立してみました。この活動は10年間続きましたが、法的環境が整備されず活動は停止しました。なぜならば、包括活動で得られた成果の所有権がどこにあるのか解決されていないからです。
この後、科学アカデミーは2014年から大学の隣にスタートアップ企業を設立しました。現在まで6社が設立され、4社が研究開発の要望を寄せています。このスタートアップ企業はイノベーション法に則り免除を受けながら製品を出さなければならない。スタートアップ企業が直面している問題の一つは、研究を行う研究者が会社の運営や広告などの活動を自身ですることになっていることです。もう一つは、科学技術分野における知識を蓄積していく上での予算が少ないことです。少ない予算で行った活動は、成果もそれなりなのです。「大きな船で遠い旅に」ということわざがありますが、その通りです。

J: 今日の状況を新しい視点で見る必要があると思います。知識は時計と同じです。必要な時に使います。知識をお金に変えなければ、知識は宝の持ち腐れです。お金とは自由の根拠です。あなたが取り上げた3つの問題のうち、2つは所有権の問題です。所有権なしに成功することはありません。私たちは社会主義から資本主義へ移行しました。この2つの社会の違いは私有です。
レグデル: モンゴルの科学分野における研究活動の成果は非常に小さいものです。この小さな成果を求めて生活していく自信はありません。なぜならば、過去20〜30年間この分野で働いてきた人たちは、どうやって生き残るかということだけに集中してきました。私有に関しては法律を改善すべきだと思います。包括活動でも、スタートアップ企業設立でも、所有者が誰になるかが明確になっていません。私たちは法律の改善を求める他には何もできません。だからスタートアップ企業で働く人は悩んでいます。政府が協力しているからと言って所有者が政府になれば、それは発展の道を閉ざすことになります。

J: 私たちは社会主義から資本主義へ完全に移行していません。具体的には、私有とは何かを理解していない、尊重してないことだと思います。前首相J.エルデネバト氏はスモッグを無くすために科学的に確立された解決法を出すように指令を出しました。これについて話を聞かせて下さい。
レグデル: エルデネバト前首相が2016年12月20日、J.バトソイル前教育文化科学スポーツ大臣と私を急遽官邸に呼び出し、ウランバートルのスモッグの削減に繋がる科学的に確立された、かつ最も可能性の高い解決方法を考案し、閣僚会議で紹介するように指示を出しました。これは科学分野全体において嬉しいニュースのように聞こえたかもしれません。なぜなら今まで首相や内閣が科学アカデミーを暗に信じて大きな命題を課したことは一切ありませんでした。私が知っている限りでは1981年に宇宙船の科学ソフトを制作するという指示以外聞いたことがありません。政府はスモッグ問題を解決するために10年間で140〜150億トゥグルグを使いましたが、結果が出ませんでした。どうして結果が出なかったかは、国民が知っていると思います。

J: 今は何をしようとしていますか?
レグデル: 最近、私の部屋に足を運ぶ人が絶えません。世界の多くの国々がスモッグを経験しました。私たちは最新の技術を使って、どのように解決するかを見極める必要があります。各国の経験をみると、1つには燃料の質の向上です。これはスモッグをある程度削減できますが無くすことはできません。2つ目は、その国の環境にもよりますが、天然ガスで解決しています。3つ目は電気ストーブの使用であり、最も普及している解決方法です。

J: 私たちは燃料の質を高めることができませんでした。使用できるガスもありません。モンゴルの電力需要は供給量の2倍に膨れ上がっています。あなたは原子力発電所の建設についてあるインタビューで話していました。原子力発電所の建設はどうして必要ですか?
レグデル: 専門家はウランバートルの電力供給は限界に達していると言っています。電力の供給源を増やすことで需要を拡大させることができます。特に住宅地での電力供給源の追加は必要不可欠です。私はモンゴルで原子力発電所を建設することはこの問題を解決する一つの方法であるとそのインタビューで話しましたが、ウランバートルのスモッグと直接結びつけて話したことではありません。世界中が原子力を廃棄物のない、純粋な電力だとみています。例えば、ドイツは原子力発電所の安全性を満たす完全な解決方法を持っています。

レグデル * ジャルガルサイハン