ジグジド・バトジャルガル氏は、モンゴル国立大学の経済学部、経営アカデミーの行政経営部を卒業しました。バトジャルガル氏はトゥブ県のバヤンウンジュール村のハーン銀行で会計士、国家環境検査官、副知事、地方自治体の議会議長を歴任しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今年の8月上旬に北東アジア5カ国の地方自治体連合会議サミット 2019が開催されました。これについて詳しく話して頂けますか?

バトジャルガル: こんにちは。トゥブ県が北東アジアの4カ国、4つの地方自治体と協力し始めてから20年が経ちます。日本の鳥取県、韓国の江原道、ロシアのプリモルスク、中国の吉林省の4つの地方自治体が年に一度、会議を開きます。この会議では、今後の発展にそれぞれの地方自治体がどのような役割を果たし、協力していけるかを話し合います。今年で24回目となるこの地方自治体連合会議は、経済交流をテーマにトゥブ県で開催されました。私たち以外の4つの地方自治体は先進国の地方ということもあり、トゥブ県に比べて発展しています。ですから今回、4つの地方自治体の経験や技術、投資をトゥブ県に導入することによって、県の発展に繋げることを目的とし会議が行われました。この会議で経済交流、貿易関係に関する具体的な提案などが出されました。

J(ジャルガルサイハン): これまで4つの地方自治体との協力で行われた事業について教えてください。

バトジャルガル: 経済、社会、文化、医療など、実に多くの分野で相互に協力してきました。トゥブ県は、特に農業分野での人材育成、医療や教育分野での人材能力向上のための研修など、また学生たちの交流といった活動で協力関係を築いてきました。トゥブ県の収入源の柱の一つとなる農業分野の成長、特に温室農業に関しての交流事業は盛んに行われています。例えば、韓国の江原道の農業・技術アカデミーとモンゴルの農業大学、食糧・農牧業・軽工業省が共同で3つの大規模な温室農場を建設しました。この事業はモンゴル、とりわけトゥブ県の温室農業の発展と人材育成に大きく貢献しました。

J: 温室農場は一体どのようなもので、どこで建設し、それが住民の生活にどのような影響を及ぼしているかについて、もう少し詳しく説明して頂けますか。

バトジャルガル: 2004年からボルノール村、チャンドマニ村、ゾーンモド村に合計5000平方メートルの温室農場を建設しました。現地では30人以上の雇用を生み、トゥブ県で農業を営む300人以上に、その温室農場でトレーニングや研修を実施し、技能の向上に寄与しました。これによりトゥブ県での温室農場の作付面積が広がり、200平方キロメートル以上になりました。そのうち、5万平方メートルが冬場でも栽培できる温室農場となっています。今年、江原道とトゥブ県の共同事業として、トゥブ県の国立公園に1000平方メートル規模の最新技術を備えた温室を建設しました。今後はこの温室を市民の労働マインドの育成、また若者に環境教育を与えるセンターとして活用していきたいと思っています。

J: そのような温室農場は公有財産になっていますか。それとも私有財産になっていますか。

バトジャルガル: 最初は2カ国の協力によって建設され、最終的には民間に引き渡す形になります。

J: 温室ではどのような植物を栽培していますか。現在、温室農場で働いている人は何人ぐらいいますか。

バトジャルガル: 主に栽培しているのはキュウリやトマトなど、サラダに使われる野菜です。また、いちご、ぶどうなどの果物も栽培しています。現在、温室農場で働いている人数については、ボルノール村、チャンドマニ村、ゾーンモド村にある3つの温室農場で30人以上が働いていますが、トゥブ県全体では1000人以上が温室農業の分野で仕事をしています。

J: ボルノール村、チャンドマニ村、ゾーンモド村は、首都ウランバートルを囲む3つの村ですが、その温室農場で収穫した野菜や果物などは、ウランバートルの市場に供給されていますか。

バトジャルガル: はい。トゥブ県は昔からウランバートルの住民に乳製品や肉製品、野菜や果物などの食料品を供給してきました。そのため、今後も衛生的で高品質な食料品を提供できるように、農業を営む市民を応援し続けていかなければなりません。

J: 最近は牛肉価格が上がり、首相もこの値上がりを抑えるように関係する省庁の大臣に対して命令を出し、対策に乗り出しています。これについてトゥブ県がウランバートルの市場に出している肉製品の量やその産業について教えてください。

バトジャルガル: トゥブ県は総数480万頭の家畜を飼育しています。そのうちの30万頭が「生産性の高い家畜」となっていますが、肉や乳製品の生産でいえば牛が主力です。年に3万2千トンから3万6千トンの食肉を生産しています。家畜の頭数でいえば、130万頭から160万頭の家畜を県内及び国内の市場に提供していることになります。近年、畜産品の価格が比較的安定していたことは、遊牧民の生計への大きな助けとなりました。2017〜2018年の肉、乳製品、羊毛、カシミアという4つの製品を対象に行った価格調査では、例年に比べて85.4億トゥグルグ以上の増収となったことがわかりました。これは1世帯当たり、例年より700万トゥグルグ以上の収入が増えた計算になります。農畜産物の価格が安定し、世界水準に達するということは歓迎すべきことですが、その反面、消費者の購買力も考慮しなければなりません。そのため、需要と供給のバランスを保ち、肉の備蓄を考えることが大切です。

J: モンゴル国は年に9,000トンのカシミアのうち、1,000トンを製品に加工し、3,000トンを半加工や洗毛をしています。カシミア生産に関して、トゥブ県はどのような役割を果たしていますか。

バトジャルガル: トゥブ県で飼育されているヤギの頭数を考えると、年に360トンから400トンのカシミアを生産することができます。モンゴルのカシミアブランドであるGobiやGOYOと協力し、トゥブ県にカシミア加工工場を建設する取り組みを始めており、現在、建築工事が90%まで進んでいます。

J: モンゴルは、カシミアの1割を国内で製品加工していますが、残りの9割を安い値段で中国に輸出していると言われています。これについてはどう思われますか。

バトジャルガル: やはり国内生産能力や、生産のための資金調達を考えた場合、そのようなことになっていることは否定できません。例えば、今年は国からの低金利ローンが少なくなったため、カシミア製品の生産ができなかったという声を聞きます。農業を発展させたい、生産性を上げたいと考えた場合、国の政策や支援は欠かせないものです。また、モンゴルと同じような気候にあり、同様な消費者のいる国に製品を輸出することも考えるべきです。例えば、我々は今回の地方自治体連合会議サミット 2019でロシアのプリモルスクと話し合い、今年の9月下旬から10月上旬にかけて、モンゴルのカシミア製品、フェルト製品、それから皮革製品の展示会をプリモルスクで開催し、モンゴル企業のアンテナショップを現地で開設したいという提案をしています。

J: 次の質問ですが、トゥブ県にはモンゴルの新国際空港ができました。新国際空港の土地を誰の所有とするのか争いもありましたが、今はどうなっていますか。

バトジャルガル: トゥブ県の土地12,000ヘクタールを新国際空港建設用地として、特定目的で国に供与しました。その後、供与した土地の面積には変更はありませんでしたが、その場所を移動しました。そのため、供与した土地とその他の空港周辺のビジネス用地や事業用地が重なるという問題が出てきましたが、現在は相互の権利が侵害されないように解決していっています。

J: 解決への動きが少し遅かったのではないですか。

バトジャルガル: 新国際空港の開港式が今年の7月に行われました。マネジメントチームは、国際航空会社との契約締結、試験運営や調整などを行っており、来年から本格的に運航し始める予定だと理解しています。

J: 新空港や、空港とウランバートルを結ぶ道路建設に当たって、その建設工事が環境や希少動物の移動等に及ぼす影響を調査しましたか。

バトジャルガル: もちろんです。新空港や空港とウランバートルを結ぶ道路建設に当たっては、2箇所の地域を何年間にも渡って検討し、様々な調査を経て現在の場所に決めました。空港とウランバートルを結ぶ高速道路は、ボグド山の西側のみを通る道なので、希少動物の移動できる地域はボグド山の東側に十分に確保できていると考えられます。

J: 新空港の建設に伴い、その周辺にも様々な開発が行われると思います。しかし、空港までの高速道路は他のルートに接続していないとのことです。これはどういった理由ですか。

バトジャルガル: 国際空港と都市とを結ぶ高速道路は、他の国でもモンゴルと同じく、多くのルートに繋げられていないことが通常です。それに、空港とウランバートルを結ぶ高速道路は32.2kmという極めて短い距離になっているため、休憩エリアなども少なくなっています。ですが、従来のインフラ整備も行われているため、高速道路ではなく一般道を利用して新空港周辺に行くことももちろん可能です。

J:  最後の質問になります。今議論されている憲法改正が地方自治体に及ぼす影響、そもそもモンゴルの地方自治体がどの範囲まで権限を有するべきかについて、あなたはどのような考えをお持ちですか。

バトジャルガル: 地方の発展、権限の拡大を含んだ条文を追加し、各県の基本行政単位を村(ソム)とし、その代表者を通して県議会や知事を決めるという仕組みが検討されていると思います。地方自治体の権限を拡大する、地方自治体の機能を明確にするという課題は、この20年間我々が直面してきた問題です。例えば、地方の経済力を上げるために、具体的には地方自治体に予算、生産性を伸ばすために税に関して自由裁量を与えることが必要です。そうすることで、都市への人口密集などの問題を解決することもできます。

バトジャルガル * ジャルガルサイハン