Kh.バトトルガ大統領は、ウラジオストクで9月11日~13日の期間で開催された東方経済フォーラムに出席し、プーチン大統領と習近平国家主席と会談した。プーチン大統領との会談では、ロシア政府からの1千億ルーブルのソフトローンを受けることで合意した。これはウランバートル鉄道や第3、4火力発電所の改修などに使われる。また、プーチン大統領は、ロシアの天然ガスパイプラインがモンゴル国内へも敷設されることを前向きに検討する意向を示した。習近平国家主席は、天然ガスパイプラインがモンゴルを通ることで、経済効果がどのくらい得られるかの調査を検討すると約束した。

“天然ガスは、飛躍的に発展している中国にとって戦略的に重要な資源である。モンゴルは、ロシアから中国へ送られるガスパイプラインがモンゴル領土を通ることで通過料を得る事ができる。通過料の一部を天然ガスで受け取れば、ウランバートルの大気汚染削減に繋がるだろう。残りの通過料を現金で受け、経済活動に回す。だからロシアから中国へ送られる天然ガスパイプラインがモンゴルを通過することは、我々にとって非常に魅力的である。”

原油や天然ガスのパイプライン建設で上がる問題は、他国の領土通過、資源取引などの技術的な問題だけではない。地政学、エネルギー経済など多数の要因が複雑に絡み合っている。もともとロシアはモンゴルを経由しない天然ガスパイプラインの建設について中国と10年間協議を続けてきて、2014年にようやく契約締結に至った。ロシアは2018年から中国に天然ガスの供給を始める予定だったが、これは2019年後半まで延期されることとなった。

世界第3位の中国の天然ガス消費量

2017年時点での中国の天然ガスの消費量は2380億立方メートルで、これはアメリカ、ロシアに次ぐ世界3位となる。中国で消費される天然ガスは、全体の60%が中国国内で生産され、19%が隣国(トルクメニスタン、ミャンマー)からパイプラインを通して、21%を液化天然ガス(LNG=Liquefied Natural Gas)としてオーストラリア(50%)、カタール(20%)などから輸入している。近年、中国は液化天然ガスの輸入量で世界上位となっている。

2017年には、中国のエネルギー消費の7%を天然ガスが占めていて、この数字は2020年には10%になると予想される。中国でも大気汚染との“戦い”は深刻で、この“青い燃料(天然ガスの炎が青いことから青い燃料と言われる)”の消費量が年々増加してきた。アメリカのエネルギー情報局によると、中国の天然ガス消費量は2020年には3600億立方メートルに達するという。中国の大都市では、エネルギーを石炭から天然ガスに置き換えていて、公共交通機関であるバスは液化天然ガス車になった。こういった背景から、中国では最低10日間分の天然ガスの備蓄が確保されている。

“中国のエネルギー消費量、特に“青い燃料”の消費量は増加し続けている。中国の天然ガスの国内生産量は2040年に現在の3倍になると予想されているが、それでも消費全体の3分の2をガスパイプライン及び液化天然ガスの輸入に頼る必要がある(アメリカ合衆国エネルギー省)。”

中国は今後も天然ガスの輸入量を継続的に増やしていくため、アメリカから輸入する液化天然ガスの輸入価格に対する戦いが続いていく。

ロシアの天然ガス輸出の長い道のり

ロシアの天然ガスの埋蔵量は47兆立方メートル(2016年)で、これは世界の天然ガス埋蔵量の4分の1(国際エネルギー機関の予測)にあたる。このうち70%が西シベリアのウレンゴイ、ヤンブルグ、メドヴェジェの3大ガス田にあり、その他は東シベリアのサハリンガス田にある。

ガスプロム社(ロシア)は、バイカル湖の北東に位置するチャヤンダ(Chayanda)ガス田から、中国と国境を接する都市ブラゴヴェシチェンスク(Blagoveshchensk)までの2200kmの区間にパイプラインを建設中だ。このパイプラインは、チャヤンダガス田からイルクーツクの北に位置するコビクタ(Kovykta)ガス田までの800kmのパイプラインと接続される“パワー・オブ・シベリア”という大規模なプロジェクトとなる。プロジェクトの第1フェーズは2019年に完了すると、ガスプロム社副会長ヴィターリ・マルケロフが発表した。現在、距離40kmのパイプライン建設工事が残っているのみのようだ。

ロシアは中国までのパイプラインの建設に550億ドルを投資した。中国はこのパイプラインでロシアから供給される天然ガスを30年間総額4千億ドルで購入する契約を、2014年上海で締結している。ロシアから中国に輸出される天然ガスの価格交渉は難航したが、ヨーロッパ諸国への供給価格より安い1000立方メートル当たり350ドルとし、テイク・オア・ペイ契約で合意した。これでロシアの天然ガスは直径約1.4mの鋼管を通して年間380億立方メートルが中国に供給される。

モンゴルのパイプライン

もし、モンゴル、ロシア、中国3ヵ国の首脳たちが合意し、東シベリア最大のコビクタガス田(埋蔵量2兆5千億立方メートル)からイルクーツク-ウランバートルを通過する中国国境までの約2,000kmのガスパイプラインが建設されれば、モンゴル経済にどの様な影響を及ぼすかを考えてみよう。

モンゴルを通過する1000kmのパイプライン建設と10数の天然ガス処理プラントの建設にかかる資金を“パワー・オブ・シベリア”プロジェクトを例に試算した(ガスプロム社の2015年の情報)。直径約1.4mの鋼管のパイプライン建設は1㎞当たり2億4600万ルーブルかかるので、総額は2460億ルーブルとなる。

パイプラインの輸送能力が年間300億立方メートルとし、100km当たり1000立方メートルのガスの通過料を1.09ドルとすると、通過料は年間30億ドルとなる。もちろん、こういった通過料は距離や質量によって契約を結ぶ際に変わってくる。

モンゴルの大地は比較的平地多い。これはモンゴルを通過する原油や天然ガスの輸送パイプライン建設が低コストでできることを意味している。また距離的にも北京や他の大都市までが、中央アジアや満州里市からパイプラインを引くより短くて済む。

しかしプロジェクトにかかる費用は、原油や天然ガスの国際相場価格に大きく影響を受ける。例えば、現在ルーブルの為替レートが急落し、ロシア経済は強い圧力にさらされている。ロシアがクリミア半島へ侵攻して以来、ロシアに対する欧米諸国の経済制裁がより厳しくなっている。中国とアメリカとの貿易戦争は、中国経済に更に大きな影響を与えるだろう。国際情勢がどう変わっても、中国のエネルギー消費量、特に天然ガスの消費量は増加し続けていく。ガスパイプラインのモンゴル通過は、モンゴル、ロシア、中国3ヵ国にとってお互いにメリットがある。

“モンゴルを通らない他のガスパイプライン2つのルートは、いずれも山岳地帯を通らなくてはならなく、モンゴルを通過するより消費者に届くまでに2倍の距離があり、コストも2倍となる。”

このようにモンゴルを通るパイプライン建設は、この国に発展への礎を築く可能性を含んでいる。しかし、モンゴルの公共ガバナンスは不十分で、そのためにこの国には腐敗が蔓延している。だからこのパイプラインという新たな資源が、亡霊たちを呼び寄せることになるかもしれない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン