人間の生涯にわたっての成功は、子どもの時に必要とされる栄養を十分に摂取できたかどうかと密接に関係があるようだ。もし子ども時代に、その必要とされる栄養を十分に摂取できてなければ、その人が大人になって働き始めてからリタイアするまで、生涯獲得する総収入にも影響すると言われている。人間の発達に必要とされるヨウ素、鉄、カルシウムなどの微量栄養素も、国の経済発展に関係があるということだ。

この調査研究は、2019年のノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者アビジット・V・バナジーエスター・デュフロによって行われたものである。バナジーとデュフロは、多くの国で社会問題となる貧困と、その貧困を解決するための政府の試みを研究し、その研究結果を2010年に「Poor Economics」(貧乏人の経済学―もういちど貧困問題を根っこから考える)という書籍で述べた。

社会の不公平や貧困の原点は、子ども時代、場合によっては生まれる前から既にできている。そのため多くの国では、政策立案者たちは人間の幼少期、特に就学年齢児を対象とした特別プログラムを実施するようになった。例えば、子どものために牛乳の提供を含む学校給食などのプログラムが挙げられるだろう。

中国と韓国の場合

子どもの栄養不足を補うことで貧困の削減、また教育の質向上のために、中国政府は2000年から「学校給食牛乳プログラム」を開始した。政府は全国の市町村に学校給食牛乳プログラム担当窓口を設置し、牛乳の供給業者にライセンスを交付する事業を始めた。また、学校に提供される牛乳の容器には「学校給食牛乳」というラベルを貼ることも義務付けた。学校給食牛乳プログラムが始まり5年の間で、対象となる児童生徒数は28省60市の1万校、240万人に達した。

1日に牛乳を平均2本を飲んだ子どもは、飲んでいない子どもに比べて身長が伸びるのが早く(6ヵ月間で7.2㎜以上)、歯がより白くなっていたことが調査で確認された。このプログラムは、現在の中国の若者の身長の高さ、健康な歯に影響したとみられる。

学校給食牛乳プログラムは、次世代の人々の健康だけでなく、中国経済にも良い影響をもたらした。牛乳生産量が増加し、価値連鎖(バリュー・チェーン)を高め品質改善をもたらした。中国の牛乳生産量は、1999年には800万トンだったのが、2002年に1,400万トン、2017年に3,500万トンに増加した。

韓国では、国際連合児童基金の援助によって1953年に学校給食プログラムが導入された。朝鮮戦争停戦後に始まったこの学校給食プログラムは、各家庭の経済状況に関係なく、小中高等学校のすべての児童生徒を対象に実施された。そして1970年に「学校牛乳給食プログラム」が追加導入された。

学校牛乳給食プログラムが実施されている学校の児童生徒は、プログラムが導入されていない学校の児童生徒に比べてタンパク質の摂取量が1.5倍高いことが調査で確認された。また児童生徒は、一日に摂取すべきカルシウム量の半分以上を学校給食から摂取することができる。

世界の国々の調査をみると、子どもたちは乳製品から身体の成長に必要とされるタンパク質やその他の栄養素を摂取しているだけでなく、大人になってからも生活のなかで乳製品を摂取する習慣を身に付けている事がわかる。今日では、国際的に幼少期における乳製品の摂取の重要性や意義が認められ、多くの国で子どもに牛乳を与えるプログラムが実施されている。

モンゴルの場合

モンゴル政府は、2006年に「学校給食プログラム」を全国の学校に導入した。残念ながらこのプログラムは、すべての子どもに与えるべき栄養素ではなく、その費用で計られている。

プログラム実施当初は、政府が負担する子ども1人当たりの予算は300トゥグルグ、その1年後に600トゥグルグになった。2019年の春、給食プログラムを「昼食プログラム」にする法案が国会で可決成立した。

SNS上では、学校の昼食の予算が増えるにつれ、購買価格が高くなっているという批判の声だけが広がっている。政治家は、学校の昼食に充てた予算の話はするが、子どもたちが学校で食べている昼食のカロリーや栄養素について、また学校給食プログラムの導入成果について話すという良識がまだモンゴルにはない。

モンゴルでは学校給食プログラムの効果をまとめ、分析した正式な調査結果が見つからない。しかし学校給食プログラムは、学校に通う児童生徒、特に低所得家庭の子どもたちが教育を受ける機会に貢献していると、一部の保護者は話す。

いずれにせよ、このプログラムは子どもの栄養不足、ビタミン不足を補給するためのものである。モンゴル国民の食料栄養摂取に関する第5回国家調査では、6〜11歳児の7%が成長に遅れがあり、3%が痩せているという結果になった。そして、子ども全体の22%が肥満ぎみであり、6%が肥満であるという。

この現状を踏まえると、モンゴル政府が「学校昼食プログラム」に牛乳の提供を追加することはより効果的であることを他国の事例をみればわかる。モンゴルでは学校で乳製品を受け取っている児童生徒の数は僅か5%である(学校の給食生産・サービスについて2018)。実際モンゴルには、子どもたちに牛乳を十分に提供できるだけの生産力がある。

この表をみれば、中国などの国では、これ以上牛乳の供給量を増やすことは難しい。しかしモンゴルには十分な可能性がある。問題なのは、モンゴル国内で牛乳を生産できても、供給するインフラが整っていないことにある。牛乳は生鮮食品なので、より高品質な生産基準と保管管理の仕組みを必要とする。

今日、社会が直面している多くの問題の根底には貧困があり、その解決のために学校給食で牛乳を提供するプログラムは不可欠な役割を持っている。しかし、私たちは近視眼的に問題を解決しようとし、本来取り組むべき問題の本質を無視している。それはまさに、この子どもの学校昼食に牛乳を提供するプログラムである。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン