モンゴル政府はそれまでの非政府組織(NGO)に関する法律を「非営利活動法人に関する法」という名称の法に改正し、今まさに可決成立するところである。これについて私は2週間前に「後退する民主主義」という記事で触れた。法務・内務省が作成したこの法案をモンゴルの「IRIM(Independent Research Institute of Mongolia)」が分析評価した。

この法案が可決成立すれば、民主主義を支える柱である「市民社会」において、良くも悪くも多くの変化が生じるに違いない。すべての変化を正確に予測することは困難だが、私たちは次の3つの危機に直面する可能性が高い。

NGOの活動が抑え込まれる危機

新しい法案には、非営利活動法人による政治および宗教の啓蒙活動、国政・地方すべての選挙の立候補者への金銭およびその他の形式の寄付を禁止した。また、テロ資金対策とマネーロンダリング対策について具体的な規定が盛り込まれている。

各政党は「青少年」や「女性」といった名のつく数多くのNGOを設立し、それらのNGOには政府や政党の高い地位に就く者が代表として名を連ねている。こういった政治とNGOの関係をこの「非営利活動法人に関する法」で規制することが目的である。また、この法律によって社会全体が必要以上に政治と繋がることを規制しようとしているが、市民団体の活動をどれくらい規制するかは不透明である。そのため、この法律の対象を定める範囲も不明なところである。

この非営利活動法人に関する法案が可決成立することによって、民主主義、ガバナンス、人権について活動を行う非政府組織(NGOの20.3%がこの種の活動を実施している/IRIM,2016年)に対して特定の規制がかかるようになる。つまり、NGOによる政府への監視、国民の声を政府に届ける活動が縮小するリスクが生じる。また、政府への国民の監視、国民の政治への参加、民主主義の発展、選挙活動における国民の監視にも規制がかかるようになる。

さらに同法案には、慈善活動を行うNGOのその種類や活動内容を評価し、国の支援が調整されるようになっている。このため各NGOは税の免除や国の支援といった優遇措置を受けるため、どの様な慈善活動を実施しているかを証明する必要がある。これはNGOが実施する活動を政府が望む方向に向かわせることになり、したがってNGOは国の支援や税の免除を受けることを目的に活動するようになる。公共への慈善活動を評価する基準を政府が決めるということは、公共への慈善活動の種類、形態、範囲などを定め、その活動を監視することとなり、政府がNGOの活動に直接干渉するということである。

NGOの資金調達を規制する危機

NGOにとって最も重要かつ直面している問題は資金調達である。現在、NGOが調達する資金全体の3.9%は会員の会費、21.4%は寄付、67.7%が国際機関から提供される資金、7%がその他の財源で構成されている。非営利活動法人に関する法案のコンセプトは、NGOの資金調達の現状では第1に政府による直接干渉が少ないこと(2%)、第2にマネーロンダリング、テロ資金供与に巻き込まれる危険性が高いことを問題としている。

2016年のIRIMによる調査では、NGO全体の28.2%が主な活動財源を政府機関のプロジェクトによると回答している。調査対象となったNGOの12.1%が組織独自の活動から主な財源を得ていると回答している。そのため、モンゴル政府はNGOに補助金を交付し、活動を促進させるという政策をとるようだ。

しかし、このようにNGOへの政府の支援を増やすことは、まず腐敗が増加する危険性を伴う。このIRIMの2016年の調査では、NGOが資金調達において最も直面している問題の1つに、政府の入札が非公開かつ不透明であるとNGO全体の18.4%が答えている。モンゴルの腐敗指数はいまだ高いままだ。加えて政府が設立した各基金に関する腐敗事件をみれば、市民社会の活動を促進するための基金やNGOへの支援が、本来受けるべき人に届かない可能性が高い。

NGOの資金調達に関してもう1つの懸念は、NGOへの海外からの資金提供が縮小されることである。まず、宗教および政治活動を行っているという理由で特定の国際機関の活動や支援が縮小され、NGOは海外からの資金の出所を証明する必要性に迫られる。他国では、政府が規制するという形でNGOの活動や声を如何にして抑え込んできたかについて、以前の記事(No.102「後退する民主主義」)で取り上げた通りだ。

政府が過剰に干渉する危機

この法案のもう1つの大きな改正点は、「市民社会の発展を促進する委員会」という組織を設け、その組織がNGOの運営・活動を制御することである。同法のコンセプトに「政府から市民社会の発展を促進する基礎的な仕組みを構築するため、市民社会の発展問題で政府との交渉、協議、橋渡し役を担う『市民社会の発展を促進する委員会』を設ける法的根拠を定める」とある。

しかしこの委員会は、市民団体による自発的な制度・構造ではない。委員会は9人の委員で構成される。そのうち4人は首相が指名し、委員の任命や解任を内閣が行う。そして委員会は内閣府の管理管轄となる。このことから政府による委員会への影響力は強くなることが明らかである。

また、この委員会は市民社会を支援する基金の資金運用を管理し、公共への慈善活動を評価するなどの役割を担うこととなる。そのため、委員会の委員や管理対象が政権交代によって変わり、継続的な活動を行うことができないという危険性をはらんでいる。IRIMの調査対象となった多くのNGOも、市民社会団体の活動を監視しようという政府の試みが増えるだろうと回答している。

自由の代価

市民社会団体を監視し、規制をかけ、民主主義の基盤となる組織を崩壊させ、民主化を後退させる動きは世界中で見られる。2017年だけで、世界60ヵ国で市民社会を規制する法律が可決成立した。

法律や規定は改正されるものだし、改正するべきである。しかし、その改正を研究や国民参加に基づいて行わなければ、法律に欠陥が生じ、その後再び改正することになる。モンゴルでは、法律を立案する際に国民や市民社会団体から意見を募ることはあっても、法案を可決成立する時には、それらの意見がどのように反映されたかを見ることは難しい。ほとんどの場合は反映されていない可能性が高い。これはモンゴルだけに見る現象ではなく、他国でも同様である。例えば、ポーランドでは市民社会の発展を促進する国立センターを設立する法案を作成する際、NGOに積極的に意見を求めたが、法案が可決成立される時にはその意見は反映されず、秘密裏に可決成立させたということがあった。

モンゴル政府はNGOを「整理する」という旅路を歩み始め、憲法で保障された国民の団結権を規制する状況が整いつつある

トーマス・ジェファーソンが「永遠の警戒は自由の代価である」(Eternal vigilance is the price of liberty)と200年前に言った言葉を私たちは忘れるべきではない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン