2050年ビジョンの批判7:多様化する発展都市

30年後の首都ウランバートルは「快適な生活を送れて自然環境に優しい、人を中心とした都市」になると政府の「2050年ビジョン」に盛り込まれている。2050年にはウランバートル市は近代的大都市となり、「アエロシティ」、「マイダル」といった衛星都市を擁する中心都市となり、新しい枠組みが構築されるという。

ウランバートル市と衛星都市の住居は完全に住宅化され、保健や教育といった社会インフラが改革され、「快適な環境で生活を送る」ようになるという。

図1.「2050年ビジョン」多様化された発展都市

ウランバートル市は、自動車や不動産などの資産を中心とした都市ではなく、人を中心とした都市になるという。こういった目標は私たち市民にとって歓迎すべきものだが、いまいち現実味がないように聞こえる。なぜならば、過去30年間、このウランバートル市をここまで崩壊させておいて、これからの30年間で2050年ビジョンにあるような都市へ発展させることが本当にできるのか、かなり懐疑的にならざるを得ない。実際、このような考えに至る理由が少なくとも3つある。

  1. 二重の都市管理
  2. ポピュリズムプロジェクト
  3. 住民は市長を直接選べない

双頭の鷲

ウランバートル市のシンボルマークは、伝説のハンガリド(ガルーダ)である。21世紀に入ってからウランバートルの土地の中で、トゥール川以南の土地を自然環境省が、トゥール川以北の土地をウランバートル市役所が管理するようになった。これにより公共の土地を私的利益のために管理する者(政府高官や政治家)が売買するようになり、ウランバートル市は二重の権力が管理するようになり、ガルーダは2つ頭を持つようになった。

都市の開発計画は乱れ、インフラにさえ接続できれば、住宅の上に住宅を増築するような状況になっている。公共だろうと個人だろうと、ウランバートルの不動産といった固定資産の登記は不明であり、政府、市役所、区役所の高官たちは次から次に公共の財産を横領している。そのため、土地の登記情報は常に秘匿されている。

ザイサン地区及びボグド山周辺のすべての土地を、誰が買い分割して売っているのか。登記された情報を公表されることを政治家は恐れている。本来、公共の土地であり、公共の場に建てられている建物の建設プロジェクトの施主が誰なのか。工期がいつ完了するのかといった情報は非公開にされており、不透明である。その理由※1は、政治家の名前がそこに載っているからだ。

意図的に登記情報を不透明にし、公共の財産に寄生する政治家や政府高官が増え続けている。首都に建設された新しい建物は、すべて腐敗の証として建っている。ウランバートル市の財産に「寄生」してきたある団体については「訳のある3つの泥棒(モンゴル語)」という記事に詳しい。寄生する者全員を排除する時が来た。

短期の無謀なプロジェクト

ウランバートル市の歴代市長は王のように振る舞い、市民に事前の説明も調査もせず、あらゆる準備を十分にせず、拙速に決定を下し、コストが高く寿命が短い可笑しなものを建設し、公共の財産を無駄に失うようになった。

つい最近、市長はウランバートル市の中心に位置するスフバートル広場の南にある公園を32億トゥグルグの予算で改修すると発表した。その翌日には公園を囲むように柵を建てた。世界で最も寒い都市に85mの噴水を建築するという。そのために公園の木々を別の場所に移し、新しい公園を造るというこの計画が市民の強い反発を受けている。

前市長は、市内のソウルストリートを「光の通り」として歩行者天国(ナイト・ストリート)にするプロジェクトを実施した。これも唐突に出てきた話だった。10億トゥグルグをかけて、ソウルストリートの一部を総延長200mのイルミネーションで飾り、その中にベンチを設置した。このプロジェクトは2度の夏を経て、次の市長によって廃止された。

また、市役所をヤールマグ地区に移す計画を打ち出し、数十億トゥグルグの予算をかけて新しい庁舎を建設したが、その後に移転を取り止めた。これについては「セジョン:モンゴルの世宗特別自治市※2」という記事に詳しい。

もう1つのプロジェクトは、ウランバートル市の目抜き通りにある2つの大きな交差点の間(ラマダホテル前の西大交差点~ケンピンスキーホテル前の東大交差点)で、車の左折を禁止としたことである。1,400万トゥグルグの予算を使い、柵を設置し、標識を変えた。これは市内の渋滞緩和に繋がるどころか、さらに交通状況を混乱させたため取り止めとなった。

このように、数十億トゥグルグの予算を、不足している幼稚園や学校建設に充てることより優先して、様々な場当たり的なプロジェクトに費やしている。その背景には、またもう1つの「寄生」が存在すると人々はみている。

ウランバートル市役所は、公共の利益に関わる決定を出す際、市民の意見を聞いたり、1年以上の時間をかけて議論や協議を行わないため、市民の反発を受けている。そしてその決定がしっかりとした調査、分析に基づくのではなく、私的利益、政治的ポピュリズムに基づいて出されているため、ウランバートル市はスタックした車のタイヤのように空回りしている。

責任追及

市民には、こういったすべての歪んだ行動を止める機会がない。なぜならば、市長は市民によって選ばれず、首相によって任命されているからだ。ウランバートル市の市民は、市長を直接選ぶことができない。そのため、市長は市民のためではなく、政党のために動き、業務報告を市民ではなく政党に報告するという、世界でも類を見ない都市の1つである。

例えば、日本は全国を国・政府が管理しているが、各県の県知事を県民が直接選んでいる。そのため、政権交代があっても県知事は交代することなく、継続的かつ責任のある体制がとられている。

ウランバートルは、市民によって市長が選ばれ、市民は市長に責任追及するようにならなければならない。また、市の予算や徴税に関する権限も与える必要がある。これについては、過去の記事「都市・県の債券※3」に詳しい。 首都管理改革を至急実施しなければ、毎年増え続ける人口の問題だけでなく、自然環境破壊、水資源不足などの大きな問題を解決することは難しい。市長に対して市民が責任追及をできるようにならなければ、ウランバートル市は2050年になっても住みにくい街のままだろう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン

※ 1: モンゴルでは公共の財産は全て登録されていない。だから市長は好き勝手なことをする。どんな土地も登録すべきだ。こういったことを正しく履行しないとウランバートルは都市ではなくなるだろう。地価の上昇とそれに伴う贈収賄が進むほど住宅価格が上昇し、ウランバートルを囲む山にゲル地区が広がる。歴代のどの大臣、市長、政治家、政党も土地に関わる贈収賄の件に関して誰も責任を負っていない。責任を負うどころか逆に繁栄している。(No.31「資産を要求する」より)

※ 2: バトボルド市長は今年初めに、市役所と全ての行政機関をヤールマグ地区に移すと公言した。バト・ウール前市長は在職中に市役所をバヤン・ホショー地区に移すと公約していたが果たされなかった。今回はスフバートル広場の西側に位置する歴史ある市役所の建物をゴロムト銀行に売却済みのため、市役所はどこかへ移転することは確実である。韓国はソウル市の人口集中を減らすために、また地方との均衡した開発のために一部政府機関、大学などを2012 年から世宗という都市に移転を始めた。世宗は特別自治市として開発され、韓国3大都市の真中、ソウルから120km の距離にある。今、この行政中心複合都市には9省庁16行政機関を含む26の政府中央機関が移転してきている。(No.46「モンゴルの世宗特別自治市」より)

※ 3: ウランバートルの歴代市長たちは、都市債券発行について過去何度か話してきた。しかし、予算執行権限は政府に集中しすぎているし、国家財政赤字が原因で地方自治体に徴収した税の一部を残したり、それを使って債券を発行することが許可されてない。2016 年9 月に可決成立した債務管理法により、都市が債券を発行する権利が失われてしまった。日本とモンゴルは同じく民主主義体制の国だが、日本は国と地方の予算比率を収支で比較した特別法がある。税金を運用する都市や県の首長は住民の中から直接選挙で選出される。(No.87「都市・県の債券」より)