「知識は力なり」とは、フランシス・ベーコン(16〜17世紀のイギリスの哲学者)の言葉である。辞書を引くと、知識という言葉は「人間もしくは一部の人が知っている情報、感覚あるいは経験」と書かれている。

知識は情報から、情報はデータからなる。データは現象、起きている物事についての事実や特定の書類の集合体である。データを情報にし、情報を知識とする、そして知り得た知識を応用する力を能力という。教育の基本原則は、知識と能力を併せ持った人材を「作る」ことである。

そのため世界各国で教育は、国民一人一人が享受し、経済競争力を高め、幸せに暮らすための必要不可欠な要素であるとみられている。紀元前500年の思想家の孔子は人はみな教育を受ける平等な権利があると説いた。18世紀ドイツのプロイセン国王フリードリヒ2世、ハプスブルク王妃マリア・テレジアは義務教育制度を作り、遊牧民、農民、貴族が平等に教育を受ける礎を築いた。

モンゴルは人口が少なく2つの大国に挟まれている。知識は私たちの幸せな暮らしの基礎となり、隣国との差別化を図り、自国の文化や伝統を守る。そして独立を確かなものにするための動機付けでもある。

私たちは後述する2つの事を重視すれば、この2つの大国に依存することなく競争力を高め、経済を発展させ、国際市場において自分たちの地位(存在感)を確立することができる。その2つとは母国語の他に外国語の充実した知識と国民のデジタル・リテラシーである。

第1に言語

 外国語を学ぶ以前に子どもは母国語をしっかりと身に付けて物事を順序立てて考えるようになり、歴史文化を理解できるようになることが最も重要であることを、過去20年間の歴史が示している。家庭によって子どもに外国語を学ばせることを最優先に重視した結果、子どもが外国語と外国の文化についての知識は身に付いたが、母国語と母国の歴史や文化を知らず、競争力を持てなくなってきている。

初等教育ではまず知識より正しい人間として育てること、生活習慣を身に付けさせること、他者と共存できる能力を身に付けさせることが重要であることをフィンランドの事例から見ることができる。

EUでは1+2、つまり母国語+2つの外国語教育という政策を実施している。特にスカンジナビア諸国はその良い手本である。小学3年生から最初の外国語を学び、中学生から第2外国語を学ぶ。義務教育期間に2つの言語を身に付けている。第1外国語は英語である。インターネット上の情報の70%が英語で表記され、世界55ヵ国で公用語が英語と宣言され、7億5000万人が英語を話している。モンゴルと隣接する2つの大国はお互いの言語ではなく、英語でコミュニケーションを取っている。モンゴル政府は第1外国語を英語と正式に定めている。

第2外国語として隣接する2カ国のどちらか選択することが可能である。私たちは自分たちを何倍にも大きくする方法は知識であり、その知識を取得する最短の道は外国語である。小さい国には英語と隣国の言語を習得し、外国人とビジネスを行い、また外国人を通して国際市場に出ている。具体的な例を上げるとスイス、オランダ、シンガポールである。スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語、英語を流暢に話される。海岸線をもたず永世中立な立場をもって世界で最も裕福なこの国は、金融サービス、セメント、チョコレート、時計製造で世界首位を誇っている。オランダの人々はオランダ語、英語、ドイツ語、フランス語を話す。この国は海上輸送、国際貿易、金融、保険サービスで世界首位となっている。また、世界初の株式会社を設立し、初の取引所を開設した。シンガポールは4つの言語をもっているからアジアの金融センター、多国籍企業の本店が所在する都市となっている。

小さく大国と隣接する国は多言語のメリットを昔から認識し、国民の外国語習得を支援し、国境を越えたビジネスを奨励し、政治的にニュートラルな政策をとってきた。だからと言って自国の伝統文化を失うことなく、より繁栄している。そのような国の国民は物事をグローバルに考え、優れた活動能力を持ち隣国と自国の差を付け、国内市場より外国市場から大きな収益を得ている。

第2にデジタル・リテラシー

個人がスマートフォン、タブレット、ノートパソコンやコンピューターを使って情報を収集する、他者とコミュニケーションを取る能力の両方を習得することをデジタル・リテラシーという。デジタル・リテラシーは「21世紀の能力」と言われる批判的思考(Critical thinking)、問題解決力(Problem solving)、創造力(Creativity)と並び、学童期の子どもが習得しなければならない4つの能力の1つである。情報技術の改革は新興国に経済や社会を新たに発展させる機会をもたらしている。

モンゴルは「知識に基づいた社会と能力の高いモンゴル人」を育成する目標を打ち出し、2030年には「国全体における労働力の需要に応じるため、高い専門能力をもつ人材を供給できること」、また「世界的に認められた知識や能力を有する学生を養成する高等教育制度が構築されていること」とある。だが現状を見ると、この目標に辿り着くまでには長い道のりがあることがわかる。

国際経営開発研究所が出した世界競争力ランキングによれば、モンゴルは63ヵ国中で高等教育、創造性、知識共有などで最下位となっている。そしてインターネットの活用、電力の安定性、国際特許数、通信の安全性、航空輸送の質、知的財産保護などで62番目となっている。

このランキングは大きな改革の必要性を示している。人材開発、質の高い労働力つまり人を資産とする基本的な条件は国民の教育、特にその質にある。

モンゴルでは2016〜2017年において798校に562,000人の児童生徒が就学している。そのうち首都ウランバートルでは2015〜2016年度において24校6,300人が、2016〜2017年度では34校9,923人の児童生徒が三部制で授業を受けていた。ウランバートルでは生徒が教室に入り切れず、地方の村の学校では生徒が見つからなくなっている。     

質の高い教育制度の構築には、専門的に学び高い能力を身に付け、情熱や希望があり、社会に広く認められた教員なしでは考え難い。モンゴル人を「教育」している教員たちの生活水準が低いため、仕事の成果も良くないのは当然だ。さらに教員には絶えず能力向上を図るように圧力がかかる。私たちは教育分野への投資において国内総生産の5〜6%、国家予算の5分の1を使っているが、満足できる結果が出ていない。

鏡をみて

経済協力開発機構(OECD)は、2000年より3年ごとに加盟国及び非加盟国の15歳の生徒を対象に数学知識、科学知識、読解力の学習到達度調査(PISA)を実施し、比較する形で各国の義務教育水準を測定している。この調査の主な目的は、義務教育が経済発展に欠かせない知識と能力を生徒が身に付けているかを測定することにある。自国の教育水準を鏡に映すように客観的に見られるため、各国はこの国際調査を重視するようになった。

2015年の報告書によればシンガポール、日本、エストニア、台湾、フィンランドがトップ5となり、ドイツは16位となった。

モンゴルは2012年にこの調査(PISA)に参加する目標を掲げているが、実施されることもなく担当する責任者もいない。私たちはこの調査に参加し、何ができていないのかを鏡でみて修正、改善をしなければならない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン