モンゴルはマネーロンダリングやテロ資金供与を監視する国際機関:金融活動作業部会(FATF)の「監視が必要な国のリスト」つまりグレーリストに入って2ヵ月が経っている。モンゴルはなぜリスクが高い国のリストに入ってしまったのか、そしてこれからどうするべきかについて、私は「グレーに染まった政府」、「グレーリスト裁判所」、「グレーに覆われた市民社会」などの論説記事で紹介してきた。

モンゴル政府はグレーリストからの脱却を約束し、その義務を負っていることをモンゴル国民だけではなく、世界中に表明している。そしてモンゴルの立法界は、モンゴルのグレーリスト入りの責任追及として、中央銀行および金融規制委員会のトップを解任し、後任にそれぞれの副長を任命している。

FATFの出した勧告は国際に認められたスタンダードとなり、当該国の金融システムの悪用を防ぐための効率的な措置を取るための重要な手段になってきた。国の社会、政治、経済などすべての分野を対象にしたマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策として、特別9項目を含む全40項目の勧告がある。これらの中に市民社会、非営利組織に直接関係するのは第8番勧告である。FATFは40項目の勧告ごとに当該国の活動を評価(適合-C:Compliant、殆どが適合-LC:Largely Compliant、部分的に適合-PC:Partially Compliant、不適合-NC:Non Compliantなど)している。

グレーリストの裏側

FATFの基準に沿った査察を行い、モンゴルは2007年、2017年と過去2回、評価を受けてきた。この2回の評価では、モンゴルの非営利組織が「部分的に適合」と評価された。そして今回も追加評価を受け、その報告書(Follow-up)が2ヵ月前に発表された。

2017年の報告書では、特定の分野ごとに評価し、勧告を提示した。FATFは、特に危険性が高いといわれる非営利組織の分野を重点的に完全な評価を行うように勧告を出していた。しかし、モンゴル政府が非営利組織の分野の評価を未だに実施していないことに驚きを隠せないと、FATFの追加評価報告書に記述されている。

FATFは各国ごとに報告書を出している。モンゴルの非営利組織の分野の報告書には、リスクとその対応措置について以下のように評価されている。

  • 非営利組織の分野におけるリスクを完全に評価していない。
  • リスクがある非政府組織(NGO)に対して活動内容などの情報提供を求め、一般に紹介する活動が実施されていない。
  • 非営利組織に対する禁止事項が不明であり、マネーロンダリング及びテロ資金供与の対策に適合していない。
  • 司法機関による非営利組織への監視のための知識、能力が不十分である。
  • 非営利組織に対しての以前の監査を証明する証拠書類が提出されていない。

金融活動作業部会(FATF)の評価の裏側

私たちはこれらのFATFの評価を慎重かつ注意深く読み解く必要がある。FATFやその他の国際機関からモンゴルの非営利組織に対する要求は、政府が非営利組織の監視を実施することであり、これは市民社会の存在を抑制することである。

今日、世界中で非営利組織の活動を抑制する傾向が見られる。国際テロ対策に関する法律、特にFATFが各国に堅守することを要求するようになった規定は、民主的な国民参加を十分に促しておらず、その評価は短期間で出されるため、人間の基本的人権という側面において不十分であると研究者ベン・ヘイズ(2017)が書いている。またベン・ヘイズ氏によると、非営利組織を通じてマネーロンダリングやテロ資金供与が行われたと確定されたケースは、世界中でとても稀だと言う。

しかし現実には、FATFの勧告を実施するという大義名分を得て、非営利組織に関する法律を改正し、市民社会の声を抑制する国が増え続けている。例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、マケドニア、ハンガリー、インド、カザフスタン、キルギス、ポーランド、セルビア、タジキスタン(ベン・ヘイズ、2017)などの国が挙げられる。

2012年に政府による監視や国際法執行機関が作成した枠組みの実効性について、FATFによる第8番勧告に関する評価が世界159ヵ国を対象に実施された。この評価で対象国全体の85%はNC(不適合)、もしくはPC(部分的に適合)という結果だった。

中欧の多くの国々でマネーロンダリングやテロ資金供与に関する法律の改正が行われてきたが、評価はどの国も同様に第8番勧告に適合していないとあったことに注目したい。2007年、初めて世界158ヵ国で評価が行われた中、僅か5ヵ国(ベルギー、エジプト、イタリア、チュニジア、アメリカ合衆国)の非営利組織の分野において、違反や欠点が見られなかった。つまり「適合」しているという評価を受けていた。

これは「9.11」の同時多発テロ事件以降、非営利組織を通じてテロ資金供与が行われているという「疑念」が世界中に拡大したことと関係している。当時、アメリカ合衆国大統領だったジョージ・ブッシュは非営利組織を非難するメッセージを国民に送っていた。そのため、非営利組織に関する法律の見直しが行われ、この種の機関をテロ資金供与のために悪用されるリスクを防ぐように国際社会に要求し始めた。これが世界中で市民社会に関する法律の見直しや改正が行われる発端となった。

しかし、多くの国々でマネーロンダリングやテロ資金対策に関する法律は全く改善されていない。FATFによる2017年の評価では89ヵ国が対象となった。それらの国々の中で4ヵ国(アルメニア、香港、アメリカ合衆国、イギリス)だけが第8番勧告に「適合」という評価を受けていた。そして、60ヵ国が「部分的に適合」、もしくは「適合していない」という評価を受けていた。 FATFの評価を実施するために非営利組織に関する法律を1、2回見直すのではなく、まずはこの分野全体に総括的な評価を実施しなければならない。その後、マネーロンダリングやテロ資金供与のリスクが高いと見られる組織とそれぞれ直接面談し、対策のために協力しなければならない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン