ステファン・デュペル氏は法律の道を選び、法律家として、また外交官としての専門性を磨いてきました。彼はドイツ連邦共和国外務省で、東ヨーロッパ経済関係部、人権・人道支援部、文化対外政策・広報部部長、戦略・企画部副部長をそれぞれ歴任しました。またデュペル氏はマドリード、バンコク、ブエノスアイレスのドイツ大使を、連邦大統領官邸ではリチャード・フォン・ヴァイゼッケル元連邦大統領のもとで事務部長を務めていました。

J(ジャルガルサイハン): こんばんは。

デュペル:こんばんは。番組に招待頂き、本当にありがとうございます。

J: 大使へ二度目となるインタビューをすることができ、私としてもとても光栄です。2年前にあなたはこの番組に出演してくださいました。当時、在モンゴルドイツ連邦共和国大使として、あなたはモンゴルに来られてまだ6ヵ月でした。ちょうどアジア欧州会合(ASEM)の後でした。その時、私たちは当時のモンゴルの政治や経済の問題、また両国の文化交流について話しました。

あなたはボリビアに転勤が決まったと聞いています。その前に今日は、私たちが2年前に話していたことについて再び話したいと思います。今日までを振り返ってみて、2年前に話していた問題はどのように変わったと思いますか?

デュペル: 私は今、この国をとても前向きな気持ちで去って行こうとしています。2年前のモンゴルは、金融危機がおこり、短期間で政権が3度も変わり、政治的にとても不安定な国でした。しかし今日、あらゆることが当時に比べて進展したと思います。これには、ドイツ政府や国際通貨基金もある程度貢献したと思います。また、過去2年間にドイツ政府はモンゴル政府と協力して、数々のプロジェクトを実行し、モンゴルの発展に貢献できたことを非常に嬉しく思っています。最初はこれらのプロジェクトを実施していくには、モンゴル側の財政的に厳しい状況がありました。しかし、私たちは成し遂げることができました。「二歩進み、一歩退く。」これはモンゴルスタイルのタンゴです。私たちはこの国で、この原則の下に生活しているため、これを真正面から受け入れるしかありませんでした。そうやって私たちは一緒にすべてを乗り越えることができました。

J: 私たちは三歩進み、タンゴをもっと早く踊れるようになると信じています。この2年間で私が感慨深かったことは、両国の文化交流です。2年前、私たちは両国の文化交流について話し合いました。具体的には、ゲーテ・インスティテュート(Geothe-Institut)です。あなたはかつて、ベルリンのドイツ外務省本庁で、このゲーテ・インスティテュートの担当をしていました。この2年間で、ゲーテ・インスティテュートはモンゴルでどのような活動を実施してきましたか?

デュペル: 私たちはモンゴルにおけるゲーテ・インスティテュートを、総合的な文化機関として拡大できたことを非常に嬉しく思います。ゲーテ・インスティテュートは、モンゴルで正式に活動を実施している西洋文化の唯一の機関です。私としてはこの機関を発展させたことが、両国関係の一歩前進だと思っています。

J:  ゲーテ・インスティテュートの目的は何ですか?

デュペル:  ゲーテ・インスティテュートは、文化及び教育交流の総合的な活動を行っています。教育においては、ドイツ語の普及を重視しています。例えば、各学校にドイツ語教育を導入するための啓蒙活動に取り組んでいます。しかし、文化交流については、多くの人が認知するようになった音楽研究所プロジェクトが挙げられると思います。

 私は一部のドイツ人から「モンゴルにはなぜこのような素晴らしいジャズミュージシャンがいるのか?」、「彼らはどこに埋もれていたのか?」と聞かれます。実は彼らは、私たちの音楽研究プロジェクトで花開きました。音楽の他にも数々のプロジェクトを実施しています。例えば、映画フェスティバルがあります。これについて少し感情的視点に立つと、それぞれ異なる特徴や文化を有し、はるばる遠い異国の人たちが互いを理解しようとすれば、相手国の人々が何に笑い、喜び、何に悲しみ、泣くのかを理解することが大切です。これは文化を通じて理解することができます。異文化を理解するためには、私たちには基礎的な知識が必要です。基礎的な知識がなければ、私たちはお互いを完全に理解することができません。そういう意味で、私は多文化を理解することがとても重要なことだと思っています。私はゲーテ・インスティテュートを良く知る者の一人として、彼らがヨーロッパ諸国、その他の国とも開放的に協力をしてほしいと思っています。ゲーテ・インスティテュートは、ドイツだけではなく、ヨーロッパの文化の普及者であるべきだと考えています。

J: そのとおりですね。モンゴル人が初めてドイツに留学したのは80年前のことです。彼らはたくさんの文化を学び、帰ってきました。それ以降、私たちはヨーロッパ諸国の中で、ドイツに対して親近感を抱くようになりました。今ではモンゴルの人口の3%がドイツ語を話します。これについてどう思いますか?

デュペル: ドイツに対するモンゴル人の関心が再び高まってきているとみています。例えば、いくつかの学校ではドイツ語教育が導入されています。モンゴルでドイツ語を教えている学校は全部で12校あります。ウランバートルだけでも過去10年間でドイツ語を学ぶ学生の数は3倍に増えました。高等教育機関においても両国間の交換留学が実施されています。その中でも私は、モンゴル−ドイツ鉱物技術大学に注目します。なぜならば、この大学はモンゴルとドイツの、さらにはヨーロッパの「基準」でエンジニアを養成する重要な役割を果たしている機関だからです。将来的に成長する見込みがあり、知的ポテンシャルが高い学生たちは必ずしも海外に留学する必要がなくなりました。彼らに必要なものをモンゴルで総合的に学習できる環境を整備したことがとても良かったと思います。

J: あなたは「基準」ということに触れました。ドイツの基準は、モンゴルの様々な分野に導入されてきています。建築、エンジニアリング、そして安全性などです。モンゴルのこれらの分野において発展は見られますか?

デュペル: 注意深く見れば多くの発展があります。個人的な経験から言うと、ドイツ連邦共和国大使館はつい最近建物を改装しました。改装工事を行っている作業員の能力や彼らの使用している機材や資材を見るだけで、工業水準が上がったことがわかります。5年前には今のような技術力はなかったと思います。そういう意味で私たちは、教育制度における専門職業訓練を重視しています。モンゴルには数多くの大学があります。しかし、残念ながら専門職業訓練は後回しにされています。第4次産業革命における競争力は不十分です。この分野で人材を育成する際は、最先端の設備や技術を用意しなければなりません。これは、人々が社会に出て即戦力となるために必要となります。そのため私たちは、モンゴルの12の専門職業訓練センターと協力しています。これはモンゴルの将来の発展に重要で、意義のあることだと思っています。

J: 多くの若者たちがドイツに渡り、道路建設、林業、マネジメント、建築などの分野で職業訓練を受けています。私が見る限り、両国の協力活動は、教育分野、特に専門職業訓練のレベルを改善させることに成功しています。これが両国の協力活動が、今後より強化される礎になると思います。あなたとあなたの奥様も両国の文化交流に大きく貢献しました。両国民の相互理解を深めるために大変な努力をしてきたと思います。二国間の経済協力の前に、政治的な関係もあったはずです。これについて少し話したいと思います。この2年間にモンゴルとドイツの間でハイレベルな首脳会議はありましたか?

デュペル: まず、私がモンゴルに大使として赴任する前に、モンゴルでアジア欧州会合(ASEM)が開催され、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が訪問したことは記憶に新しいと思います。しかし私にとって重要な訪問の1つは、昨年10月のウルズラ・フォン・デア・ライエン国防大臣のモンゴル訪問です。彼女は欧州委員会委員長に就任することが決まっています。モンゴルは彼女にとても良い印象を与えたと私は信じています。彼女のモンゴル訪問の結果として、モンゴルおよび欧州連合の協力活動が今後より強化する基盤が作られたと言っても良いと思います。

J: 私たちもそれを望んでいます。防衛分野における両国の協力活動は、今後どのように発展していきますか?

デュペル: 過去10年の間に、私たちは防衛分野における協力活動を積極的に取り組んできました。アフガニスタンでは、モンゴル軍とドイツ軍が共に肩を並べて治安維持活動にあたっています。また、ドイツ軍が主催する様々な研修にモンゴル軍は年に2度参加しています。ドイツ軍がモンゴルを訪問し、モンゴル軍と数週間にわたる合同軍事訓練をした後、共にアフガニスタンに派遣されます。これは通常の協力活動ではなく、両国がどのように協力できるかを示す素晴らしい事例です。この活動に両国は非常に満足しています。ですから、私たちはアフガニスタンだけではなく、他の地域でも協力活動を広げています。私たちはモンゴルの政治家や軍隊に対して、安全政策についての会議に参加する機会も提供しています。具体的に言うと、ドイツのバイエルン州に所在するジョージ・マーシャルセンターでの研修を挙げることができます。私は、これは非常に重要な機会だと思っています。なぜならば、そこにはヨーロッパ、アメリカの専門家たちが、ヨーロッパについてだけではなく、ロシアや中国などの国際安全保障に関する問題も協議するからです。

J: 協力活動についてですが、モンゴルは民主主義国であり、私たちには参政権があります。人権や自由が保障された下で全てが行われています。モンゴルは自由な国です。ロシアや中国に比べて異なる国です。このことは世界中が認めています。しかしモンゴルは、隣接するロシアと中国との関係をより深める必要があります。そのために、モンゴルは第三国政策をとっています。あなたはこれについてどう思いますか?

デュペル: 今日までモンゴルは、外交において適切なバランスを維持してきました。ロシアもしくは中国のいずれかの罠にハマることもありませんでした。なぜ、いくつもの国と関係を持ってはいけないのですか?モンゴル国は各国と良好な関係を築いていくべきです。もし、隣国のいずれかが、モンゴルの第三国政策を否定するのならば、それを聞く必要はありません。なぜならば、それは国家間に緊張をもたらすものだからです。そのような状況に陥ると、脱出することは容易ではありません。モンゴルは今まで正しい道を歩んできたと思います。しかし今、モンゴルは上海協力機構に加盟するのかという問題が話題になっています。これについて個人的な意見を言わせてもらえば、これはモンゴルが選択する問題ですから、私たちは選択を押し付けることができません。どういったことにも可能性があります。しかし、この問題については慎重に、よく検討した上で決定すべきだと思います。これは一夜で決める問題ではないと思います。

J: 今まさにこれが私たちを悩ませている問題となっています。私たちは物事を合理的、客観的に見るようになりました。私たちは基礎的な調査分析を行う必要があります。ある決断を下す際に、それがモンゴル国民にどのような影響を及ぼすのか、国民が持っている自由を保障できるものなのかを慎重に見極めることが重要だと思います。だから、私はこの問題を非常に重要な問題とみています。例えば、ユーラシアの統合問題があります。ロシアが主導するユーラシア協同組合などは、小国および大国の消費者に大きな影響を与えるなどの問題があるため、モンゴルは慎重に見極めるべきです。なぜならば、ユーラシア統合は小国にとってさほど美味しい話ではないからです。では、モンゴルとドイツの話に戻りたいと思います。両国の貿易関係、貿易収支は未だ充分な水準にありません。また、投資問題もあります。これらの分野にどんな困難や問題がありますか?

デュペル: 総合的にみれば、貿易、投資分野における協力活動が期待される水準に達していません。これらの問題に関して、国家間のハイレベル会議および訪問が行われ、両国が貿易、投資分野での協力活動の促進と向上を望んでいます。しかし残念ながら、現実には数字をみるかぎりあまり良い結果が得られていないことがわかります。例えば、貿易問題に関してモンゴルは、欧州連合の一般特恵関税制度(GSP)より恩恵の大きい(GSP+)の受益国となっています。しかしながら、他の受益国と比べてモンゴルは欧州連合諸国との貿易でその利点を活かしきれていません。私たちは、欧州連合へのモンゴルの輸出はなぜ限られているのかと、いつも疑問に思っています。ドイツ側からみれば、対モンゴルの貿易額は、ドイツ全体の僅か0.01%を占めるにとどまっています。これは、ほとんど無いと言ってもいいでしょう。

J: 欧州連合は、多くのモンゴル製品に対して一般特恵関税制度(GSP)を整備しているにも関わらず、モンゴルはなぜその恩恵を受けることができないのでしょう。その原因は何だと思いますか?

デュペル:製品には競争力がなければなりません。なぜならば、市場には類似した製品が他にたくさんあり、それらと競争していかなければならないからです。その中でもズバ抜けて突出した製品があります。例えば、ゴビ社のカシミア製品です。カシミア製品の輸出に関する数字を見ると、ヨーロッパへの輸出の大半を1社のみが占めています。言うまでもなく、モンゴルはこのような企業を増やす必要があります。また、輸出している製品の品目を増やす必要があると思います。

J: では、ドイツの投資環境はどうですか?投資においてどんな問題がありますか?

デュペル:正直にいうと、これは私たちにとって今現在、最大の問題となっています。現在、モンゴルへはドイツからの大規模な投資が2つあります。1つは風力発電所パーク、もう一つは太陽光発電所パークです。この2つを合わせて約2億ユーロの投資となっています。しかし残念ながら、この2つの投資はいずれも継続できない状況に来ています。その理由は、モンゴルのエネルギー省が契約上の義務を無視し、履行しないことにあります。これは、二国間の企業の間に大きな問題を引き起こしただけでなく、将来モンゴルに入ってくるであろう投資の妨げにもなっています。そのため、私たちはこの問題を重視する必要があります。

J: あなたは「契約を無視している」と厳しく非難されました。具体的などのようなことがありましたか?

デュペル:ドイツとモンゴルは合意の上、契約書に署名しました。しかし、モンゴル側は署名した契約条件を変更したいと言ってきました。投資が行われた、もしくは行われようとしている時にですよ。また、私が驚かされたことが、もう一つあります。その契約書には私ではなく、私の前の大使が署名しました。だから契約条件を変更したいというのです。こいった20〜30年の投資の話では、どんな場合でも、政府が変わったとしても、契約は継続させることが重要です。契約当事者たちは長期的視野に立ち、確信をもって契約を履行していかなければなりません。

J: そうですね。残念ながら、これはドイツの投資だけに起きていることではありません。政府が常に変わるこの国では、他国の投資にも同様の問題が発生しています。この国の投資において、本当に継続性が欠落しています。では、モンゴルとドイツの将来について話しましょう。両国の協力関係を発展させるために、相互に利益をもたらすにはどの様な方法がありますか?あなたは両国関係の将来をどのように見ていますか?

デュペル:両国の現状を見ると、本当に総合的に協力が行われています。安全保障や政治の会合をはじめ、経済や市民レベルでの参加、政府ファンド間でも協力活動が行われています。私たちは環境保護やエネルギー制度改革など、多岐に及ぶ分野で協力活動を実施しているため、逆に協力活動が行われていない分野は本当に少ないでしょう。しかし、今後は私たちの協力活動はどこへ向かうのかと言えば、一番重要なターゲットは市民社会レベルでの協力関係だと思います。政治や経済分野の他に、市民社会や司法制度における改革が私たちにとって重要です。1つの例として、今あなたというモンゴルの報道機関の代表者を前に言うと、私たちは報道分野における協力のための予算をドイチェ・ヴェレ(ドイツ連邦共和国の国際放送事業体)を通じて2倍に増やしました。特に専門的なジャーナリズムを重視しています。モンゴルには報道の自由がありますが、その質については不十分です。私たちに素晴らしい見本があります。それは私の目の前にいるJargal DeFactoです。しかし、モンゴルにはあなたのような人が100人は必要です。そのために私たちは協力して行く必要があります。なぜならば、あなたもよく存じ上げているように、民主主義と自由を確立させるためには影響力のある報道の自由が必要不可欠だからです。

J: 最後になりますが、あなたの私生活およびキャリアにおける今後の計画は何ですか?

デュペル: 私は数年前からモンゴルに来ることを望んでいました。ここにいることをとても嬉しく思っています。そのため、今回任務が終わって去らなければならないことをとても寂しく思います。しかし、外交ではどの様な役職にも期限があります。私は次の赴任先にラテンアメリカ、特にボリビアを選び申し出ていました。ボリビアはモンゴルと似ているところがあります。内陸国で鉱業に頼っているなどです。同時にこれはまた新しい経験であり、異なる文化や未知のことがたくさん待っていることを期待しています。私はモンゴルでたくさんの友人ができました。この素晴らしい出会いと関係をこれからも続けて行きたいと思います。

J: 今日はインタビューに出演して頂き、ありがとうございました。

デュペル: ありがとうございました。

デュペル * ジャルガルサイハン