トゴー・ホンゴルズル氏は、2009年にモンゴルで臨床免疫学の修士号を取得し、2014年に臨床免疫学の博士号を日本で取得しました。2007年〜2019年にモンゴル国立医科大学で助教授・講師、2019年からモンゴル国立医科大学免疫学部長、モンゴル国立医科大学附属日本モンゴル教育病院で非常勤医師を務めています。

ジャルガルサイハン: こんにちは。今日は新型コロナウイルス感染症ワクチンについて話をしたいと思います。全国で成人の8割がワクチンの1回目の接種を受けました。また成人の3割が2回目の接種を受けました。成人のおよそ3分の1が2回の接種を完了しました。2回の接種を完了した人たちは、免疫がどれくらい働いているのか、それをどう確認するのかを知りたいと思っています。まずこれについて説明してください。

T. ホンゴルズル: 成人のほとんどがワクチンの1回目、もしくは2回目の接種を完了しています。成人はモンゴルの人口の6割を占めているとされています。残り4割を占める0歳〜17歳の未成年者はまだワクチン接種を受けていません。成人の8割が受けたワクチン接種の効果をどう評価するのかという問題があります。3月20日頃に保健大臣の命令を受けて、異なる4種類のワクチン接種の効果を分析する研究が始まりました。対象者のワクチン接種を受ける前と受けた後のサンプルを採取し、一定期間内に対象者をフォローして研究します。この研究には時間を要します。

ジャルガルサイハン:  予備的な結論を出すにはまだ早いですか?

T. ホンゴルズル: まだです。医療従事者及び成人、基礎疾患など、特定の人口グループに分け、それぞれから第1サンプルを採取しています。このサンプルを採取する作業は、ワクチン接種後 3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月後というように継続して行われます。なぜなら、免疫形成には時間がかかるからです。研究は始まっていますが、結果を判断するにはまだ時間がかかります。

ジャルガルサイハン: 他の国でも同じような研究はされていると思いますが、結果が出ているものはありますか?

T. ホンゴルズル: あります。特にワクチン接種の効果を測るため、感染して回復した人々を一つのグループに、ワクチン接種を受けた人々をもう一つのグループにして比較研究をしたものが多いようです。相対的には、感染して回復した人よりワクチン接種を受けた人の方が免疫力がより高く、より長く継続するという結果になっています。

ジャルガルサイハン: ワクチン接種を受けることによって長期的に免疫力を獲得できるというのが共通しているようですね。

T. ホンゴルズル: 感染して回復した人々と比べればそうです。

ジャルガルサイハン: 感染して回復した場合でも、ワクチン接種を受けた場合でも抗体が作られなかったということが言われます。これについて説明してください。

T. ホンゴルズル: 抗体とは免疫タンパク質です。抗体は感染した人にも、ワクチン接種を受けた人にもできます。抗体といっても、いくつかの種類があります。回復者の抗体検出、4種類のワクチン接種による抗体検出それぞれに合った方法を使わなければなりません。コロナウイルスに感染して回復した人がワクチン接種を受けた場合、そのワクチン接種の効果は正確に評価できません。抗体と総称されていますが、中には異なるものがあることを忘れてはなりません。

ジャルガルサイハン: 抗体が作られるメカニズムを教えてください。

T. ホンゴルズル: ウイルスが体内に侵入すると免疫分子が働き、異物を排除するためのタンパク質を生成し、異物に合う抗体を作ります。その抗体に合った検査キットを使うことによって効果を評価できます。

ジャルガルサイハン: 4種類のワクチンは何が異なるのですか?

T. ホンゴルズル: モンゴルで現在使われている4種類のワクチンは、まず製造テクノロジーが異なります。例えば、アストラゼネカやスプートニクは、ウイルスベクターワクチンです。ファイザーのワクチンはmRNAワクチンです。中国のシノファームワクチンは死んだウイルスの一部を使っています。製造テクノロジーによって3つに分けられます。ワクチンの有効性を評価するには、シノファーム以外の3つのワクチンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が宿主細胞で発現すると、当該タンパク質に対する中和抗体産生及び細胞性免疫応答が誘導され、SARS-CoV-2による感染症の予防ができるように作られるため、中和抗体を使って評価できます。しかし、シノファームのワクチンは異なる抗体を使って有効性を評価することになります。

ジャルガルサイハン: 隣国である中国とロシアは新型コロナウイルス感染症のワクチンを製造する数少ない国となっています。ロシアはワクチン製造の歴史も長く、社会主義時代には世界中がロシアの製造したワクチンを購入していました。ワクチン製造の経験を踏まえて、新型コロナウイルス感染症は新しいウイルスであるから違うのかもしれませんが、何か科学的に立証された結果などあるのでしょうか?

T. ホンゴルズル: ロシアのワクチン製造の歴史については良く分かりませんが、新型コロナウイルス感染症のワクチンについては、ロシアと中国のワクチンについての違いについて触れたいと思います。私たちはワクチン製造国ではなく消費国であるため、消費国としてどのような報告をしているかを見ています。ロシアと中国のワクチンを比べて見ると、スプートニクワクチンは製造国がその製品を評価した研究はあります。スプートニクワクチンは90%の予防効果があるという研究結果が医学誌に記載されています。中国のシノファームワクチンは多くの国が購入し、使用しました。その効果が時間的にちょうど現在公開され始めました。予防効果はスプートニクと比べて、平均80%であるという情報があります。大量の情報の中から正確で必要な情報を正しく受け取る必要があります。つまり、90%の予防効果の1つの証拠を信じるか、80%の予防効果の多くの証拠を信じるかを考えなければなりません。

ジャルガルサイハン: この予防効果の数字でアストラゼネカとファイザーはどうなっていますか?

T. ホンゴルズル:  アストラゼネカとファイザーのワクチンに関する情報は、中国とロシアのワクチンよりも多くあります。特にファイザー製ワクチンは、製造国以外に消費国の第三者医学誌に記載されている研究報告が非常に多くあります。

ジャルガルサイハン: ファイザーのワクチンは、どれくらいの予防効果がありますか?

T. ホンゴルズル: ファイザーは予防効果が高く、平均92%です。

ジャルガルサイハン: アストラゼネカは?

T. ホンゴルズル: アストラゼネカは平均80%の予防効果となっています。

ジャルガルサイハン: 話をワクチン接種後、体に起きる異変に移したいと思います。接種後に感染した、高熱が出た、何も異変が無かったとその反応は色々ありますが、これについて何かデータはありますか。1回目のワクチン接種において何%、2回目のワクチン接種には何%というようなものはありますか?

T. ホンゴルズル: 製造国からワクチンと一緒にそのワクチンの使用方法も送られてきます。一定期間を置いて2回接種をすることによって、予防効果が何%までになるかの研究結果と、製品に対する保証を一緒に公開しています。私たちは製造国からの使用方法を守らなくてはなりません。指定された期間を置いて2回目の接種後に効果を検討することが可能となります。ですから1回目の接種後におよそどれくらいの予防効果になるかと聞かれると、正確に数字で答えることはできません。予防効果80%のワクチンであったら、それに関する全ての情報に基づいて計算した場合、1回目の接種後の平均はその半分の40%である可能性が高いです。そして2回目の接種後には80%の予防効果に近づきます。

ジャルガルサイハン: 2回接種を受けた人は、大体80%〜90%予防できるということですが、彼らは感染しないのでしょうか?

T. ホンゴルズル: モンゴルで実施しているワクチンの予防効果は平均80%です。100人のうち80人には一定の免疫ができるということです。残りの20%は個人差、基礎疾患など様々な要因が影響しますが、一定の免疫力ができる可能性はあります。100人のうち80人には免疫ができますが、20人には免疫ができない可能性もあるということです。

ジャルガルサイハン: 新型コロナウイルス感染症によって死亡する人も出てきています。糖尿病や心血管疾患等の基礎疾患が重症化を招くという情報もあります。健康な人は新型コロナウイルスに感染しても回復が速いということですが、これは正しいですか?

T. ホンゴルズル: 正しいです。重症化しやすい傾向にあるのは、代謝性疾患である糖尿病の人々です。それから心血管疾患、高血圧、肺気腫などを患う人々が重症化する可能性が高いです。

ジャルガルサイハン: インドでは人工呼吸器が不足し、人々が死亡しているといいます。モンゴルでは人工心肺装置が1つや2つしかないなどと言われています。これについて教えてください。

T. ホンゴルズル: 人工呼吸器と人工心肺装置ECMOの二つです。人工呼吸器は各病院に比較的数多く備えられています。人工心肺装置ECMOは全国で2つしかないと認識しています。肺が機能しなくなった時に、それに代わる機器が全国で2つしかないということです。

ジャルガルサイハン: この状況は普通のことですか。なぜ2つしかないのですか?

T. ホンゴルズル: 人工心肺装はとても高価なので、人口に比例してモンゴルでは最大3つで十分だという情報がありました。しかし、その必要が迫ってきた時に、3つの人工心肺装では助けられるのは3人の命だけということです。

ジャルガルサイハン: それが問題ですね。値段はいくらですか?

T. ホンゴルズル: はっきり分かりません。非常に高価であるとだけ分かっています。

ジャルガルサイハン: 集団免疫という言葉をよく聞きます。これは何ですか?

T. ホンゴルズル: Herd immunityと言われるもので、これはモンゴル全人口の70%〜80%が免疫を獲得した場合、感染は広がらないということです。ですから、集団免疫という概念を使って全人口のうち免疫ができた人がどれくらいか、免疫ができていない人がどれくらいかを表しています。免疫ができた人が増加すればするほど、感染が広がらないということです。

ジャルガルサイハン: イスラエルは人口の90%に免疫ができたとしています。ビジネスもオープンになっています。成人の2回接種もすぐに終えるでしょう。6月1日までにはできると言っています。それができた場合、6月1日以降はマスクを着用しないで外を歩くこともできますか?

T. ホンゴルズル: イスラエルはファイザー製ワクチンを使用しました。モンゴルは一部の人のみにファイザー製ワクチンを使いました。ですから、外国での結果をそのままモンゴルと比べて、モンゴルもすぐマスクを着用しなくて良いことになるとは考えていません。

ジャルガルサイハン: マスクは着用するべきですね?

T. ホンゴルズル: モンゴルは第1波が終わろうとしていますが、他国と同じように第2波がくるかもしれませんし、ワクチンの効果もまだ正確に分かっていませんので、密を避け、マスクを着用して予防対策を徹底することによって、100%の予防ができます。ワクチンを過信してマスクを外したり、人との距離を置くのをやめたりしないでください。全ての予防対策をとった上で100%の予防ができることを忘れないでください。

ジャルガルサイハン: モンゴルは感染が比較的遅く拡大し始めました。10ヶ月間感染を出さずにいました。モンゴルで感染が広がり始めていた時にはワクチンが開発され、使用されていました。つまり、早くからワクチンを接種しているのだから、第2波が来る可能性は低いのではありませんか?

T. ホンゴルズル: 免疫集団が増加し、成人の80%に免疫ができた場合、一定程度予防ができているということになります。しかし、全人口として見てみたら免疫できた割合は高くありません。第2波は私たちの予防対策、変異ウイルスなどにもよります。

ジャルガルサイハン: 未成年者は16歳まで、18歳までのどちらですか?

T. ホンゴルズル: 0歳〜17歳の未成年者が全人口の4割を占めていると理解しています。

ジャルガルサイハン: イギリスBBCの報道によると、アメリカでは6歳〜12歳の子どもが新型コロナウイルスに感染しても無症状で感染を広げているため、子どもにもワクチン接種を受けさせようとしています。これについてはどうですか?

T. ホンゴルズル: 5月上旬には18歳以下の子どもに4種類のワクチン接種を行い、結果を評価していました。4種類のワクチンでファイザーが先行接種され、昨年の6月から18歳以下の子どもをグループ分けし、グループごとにワクチン接種を始め、結果は今年の10月から公表できるという情報がありました。子どもの免疫は12歳〜18歳、8歳〜12歳などで行われますが、ファイザーは6ヶ月〜1歳、2歳の子どもにもワクチン接種を受けさせています。

ジャルガルサイハン: モンゴルでは成人のみにPCR検査がされています。最近までは1万人に検査して1200人の感染が判明しました。ここ2日、3日は600人〜700人に低下しました。これはどういうことですか?

T. ホンゴルズル: ロックダウン中に、1万人に対して検査を行った結果、1000人が陽性となっていました。陽性判定は感染から2〜3週間遅れて判明すると理解しています。ですから、今感染者数が減っているということは、ロックダウンの効果が出ているということになります。感染速度を一定期間遅らせることはできました。1万人に1000人が陽性となっていたのが、今は1万人に500人と、感染速度を2分の1にしたということです。

ジャルガルサイハン: ロックダウンの効果を今みているということですか?

T. ホンゴルズル: そうです。

ジャルガルサイハン: 人々は抗体の検査を受ける、抗体量を計算してもらうと言いますが、これはどういうことですか?

T. ホンゴルズル: 回復者、ワクチン接種を受けた人はどれくらい予防されているかを知りたいと言います。民間企業もその希望に積極的に応じています。しかし、専門機関の方針、海外の傾向を見ると、ワクチンの効果を抗体で評価し、それにはどのようなメリットがあるなどという情報は一切ありません。感染して回復した場合、ワクチンの接種を受けた場合の両方に抗体が検出されます。しかし、1回か2回の検出結果で免疫ができたとは言えません。作られた抗体はどれくらいの期間、どれくらいの量で体内に留まり、どれくらいの期間感染から予防されているかが重要です。1回か2回の検出結果で抗体がある、無いという情報は必要ありません。その人個人の身体で抗体が遅く作られる場合もあります。ですから抗体が作られる前に検査を受けて、免疫ができていないなどと心配するのは杞憂です。抗体の検査は、ワクチンが影響して体内で起きるプロセスのほんの少しだけを表しています。その少しの部分を見て免疫ができた、できなかったということは不正確です。

ジャルガルサイハン: そこまで必要性のあるものではないということですね。私たちは初めてパンデミックを経験しています。これからもCOVID-20、21などというパンデミックが起きた場合に備えておくべきことは何でしょうか。

T. ホンゴルズル: 新型コロナウイルス感染症は、世界中が初めて経験した未曾有の危機です。しかし、一定の期間が過ぎるとそれぞれ経験を積み、2021年にはワクチンが開発されているのでこれからは治まっていくと思います。ですが、またパンデミックが起きることは予想されます。人材育成もそうですが、国内で検査キットやワクチンを製造できるように、国内の生産体制を確立する必要があります。いつまで経っても消費国であることは良くありません。国内で生産ができる日が早く来ることを願っています。

T. ホンゴルズル * ジャルガルサイハン