レンツェンドルジ・ガルバドラフ氏は、1969年ウランバートルに生まれ、モンゴル国立医科大学で小児科医師、1996年に医学の修士号を取得しました。1996年〜1999年にモンゴル国立医科大学で教員を務めました。2003年に経営アカデミーで行政マネジメントを学習しました。2007年〜2016年にモンゴル国立母子健康センターの研修・広報部長を務め、また2016年にモンゴル国立母子健康センターの臨床教授となりました。2017年〜2020年にモンゴル労働・社会保障省所属リハビリテーション・研修・生産センター副センター長、2019年からモンゴル国障害児のためのリハビリテーション・発達センター長を務めています。

J: 今日は障害者、特に障害児が直面する問題、その現状について伺いたいと思います。社会は、障害者が健常者と同じチャンスを与える義務を負っており、それを実現するために努めています。その一環として、モンゴル国障害児のためのリハビリテーション・発達センターが設立されたと理解しています。まずは、このセンターについて教えてください。

R. ガルバドラフ: モンゴル国障害児のためのリハビリテーション・発達センターは、2019年4月にモンゴル国内閣第125号府令によって設立され、その規則が定められました。この規則は、センターの5つの方針を定めています。

まず1つ目に、全国において障害児にリハビリテーションサービスを提供します。2つ目に、この分野で活躍する医師、医療従事者等の人材を育成し、研究活動を行います。3つ目に、他の機関に対して専門的及び方法論的なアドバイスを提供します。4つ目に、障害児に必要な支援機器を開発します。最後に、障害児の年齢、身体、特徴に合った教育プログラムを作成し、提供します。これら5つの方針で同センターは運営されます。その後、2019年5月に労働・社会保障大臣の省令によって、センターの構造と人員配置が決められ、それに従って構成されたメンバーで5月31日に公式にオープンされました。今日まで、2年間活動してきました。現在、ウランバートル市全9区、全国21の県の障害児、その保護者がこのセンターを利用しています。

J: 新しく設立されたセンターは、中国の無償援助で作られたと聞いています。センターの容量も現代のスタンダードを満たして作られたものだと理解しました。

R. ガルバドラフ: そうです。

J: 現在、モンゴルには1万2324人の障害児がいます。中には、視覚障害、発声障害などあります。この統計情報は、労働・社会保障省から得ました。モンゴル国家統計局が出される統計情報にも記載されています。私たちは1万2324人の障害児の人生に関わる話をしています。そのうちの9473人が先天性(生まれつき)の障害を持っており、2851人が事故によるものを含み、後天性(生まれたあとで身についた)の障害を持っています。全国で初めて国際水準を満たしたセンターを設立しました。何人の医師がいますか?

R. ガルバドラフ: センターは、モンゴル政府と中国政府との間で締結された条約に基づいて設立され、2019年に運営を開始しました。これはモンゴルの障害児のためにモンゴル政府による大きな投資だと思っています。なぜなら、中国のプロジェクトマネジャーであるマオ氏に、中国にもこのようなセンターがあるかを聞いたところ、中国にはないと言っていました。

また、センターの運営開始に先立ち、2019年には30人の医師を1ヶ月間の専門能力向上の研修のため中国に派遣しました。彼らが研修を受けたところは特別なセンターではなく、通常の病院だったそうです。だからこそモンゴル政府による大きな投資だと思うのです。ウランバートル市および地方から障害児6000人がこのセンターへリハビリテーションサービスを受けに来ています。そのうち、1600人の子どもが入院治療を受けています。センターは3階建てで、最新の設備が整っており、面積が15000平方メートルとなっています。

J: センターの場所はどこですか。第4火力発電所の付近でしたか?

R. ガルバドラフ:  第4火力発電所から南の方で、ソンスゴロン橋へ行く途中、トール川の北側にあります。都市の中心部より離れているため、公共交通機関が限られるため、障害児にはアクセスが難しく、勤務する従業員も仕事に行き来するのに交通渋滞に巻き込まれてしまうことがあります。

J: 場所はもう少し市内中心部にすることもできたのではないかとも思われますが、とりあえずは遠くても模範となるセンターが設立されました。これを区ごとに支部を置けば、更にサービスを提供しやすくなるのではないかと思います。

R. ガルバドラフ: そうなるとアクセシビリティが向上されます。今は、アジア開発銀行(ADB)の援助を受けて、労働・社会保障省のプロジェクトの一環として6つの県に障害者のための発達センターが設立されています。これらは私たちのセンターと比べて、障害児・障害者に入院治療を行うのではなく、外来診療サービスのみを提供します。来年、運営が開始される予定で、建物の建設など準備作業が進められています。

J: 10万8千人の障害者のうち、1万2千人が障害児なのですね。障害について、その早期発見について話したいと思います。妊娠中の女性、生まれてきた子どもたちにこの手帳を付与していると理解しました。妊娠中から登録します。例えば、ダウン症などは胎児の時から分かるそうですね。親は誰もが健康な子どもを産みたいと考えます。胎児が何らかの病気を持っている場合、いつ、どうやって知ることができるかについて教えてください。

R. ガルバドラフ: まず、健康とは人が身体的、精神的、社交的に障害なく生活できる状態を指します。身体障害、精神障害、社会の中で生活していく中で障害を持っていなければ正常であり、健康だとWHOも定義しています。障害者とは身体的、精神的、社交的に何らかの障害を持っており、社会で通常の生活が出来ない状態にいる人を指します。障害の中には脊髄障害、視覚障害、聴覚障害、精神障害など、幾つかの分類があり、どの障害も早期発見が重要です。WHOによると、障害を早期発見し、早期発達援助を行うことが出来た場合、障害割合を30%までに抑えることができます。

なぜ障害の早期発見をしなければならないかというと、まず、国際条約によって保証されている子どもの権利、基本的人権に係る問題だからです。次に、経済的な理由があります。子どもの発達障害を早期発見し、発達プログラムに早期に参加させることで、例えば、福祉手当など経済的コストを減らせます。障害を早期発見するための取り組みがモンゴルにはないのかというと、そうではありません。制度の中にはあります。ただ、これを改善し、実施し、安定させることが必要です。

J: そのために全国で実施されている取り組みは何ですか。いつ診断に行けば良いですか。子どもが18ヶ月、36ヶ月の際に必ず発達の総合判断をしなければならないとなっていますが、これは実際出来ているのですか?

R. ガルバドラフ: 早期発見とは、障害に限ったものではありません。糖尿病、ガン、肝臓病の早期発見、『健康な歯』キャンペーンなど全てが早期発見目的です。障害の早期発見に関しては、妊娠し、妊婦健診が始まってからこの『母子健康手帳』、通称、ピンク手帳を受け取ってからです。妊娠中の女性は、この手帳をよく読み、いつ診断に行くべきか、何に気をつけるべきか、食生活、仕事と休みをどう管理するか、出産が近づいてきた場合、何を準備するか、出産した後どういう援助、サービスを受けるべきかを記入していきます。正常妊娠は、妊娠中に最低限7回の妊婦健診をします。これは早期発見の一種です。次に、乳幼児は出産後の72時間内に主治医が診察しなければなりません。また、1ヶ月以内に4回の健診、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月のワクチン接種の際に主治医が診察し、記入をします。

J: 赤色の記述は医師、青色の記述は親がするものだと決められているのですね。2019年12月、第611号保健大臣の省令によってこれが決められたようですが、手帳は改善されたのでしょうか。

R. ガルバドラフ: はい。母子健康手帳は、2010年に初めて保健大臣の省令によって作られましたが、徐々にアップデートしています。最新版が2019年です。例えば、子どもは3ヶ月になったら頭を上げることができ、6ヶ月になったら座ることが出来なければなりません。しかし、親がそれをどうやって知るのかという手順が手帳には載っていませんでした。こういったことを改善していきます。そして親はそれに従って記入していかなければなりません。

J: E-barimtと同じようにこれは電子化し、アプリを作っておくのが良いかもしれませんね。私の番組に出演した女子大生が7、8年前にそんなアプリを作っていました。写真を登録し、初めてどういう言葉を発したか、歯が生えてきたかなどを記録していました。この手帳もそのようにすれば親は使いやすいかと思います。

R. ガルバドラフ: デジタル化が進む中、アプリにしたら記録が簡単にできると思います。手帳を無くしたり、水を溢して記述が分からなくなるなどというアクシデントもありますから、アプリに出来たら良いと思います。

J: 大人になった子どもが、親に自分の子ども時代のこと、ワクチン接種を受けたかどうかなどを聞くことがよくあります。そういった記憶の部分に頼ることなく、保健アプリを使うことになるわけですね。あなたは、全国21県に19の委員会を設置しています。これはオンラインで開催するのですか。どうマネジメントしていますか?

R. ガルバドラフ: 障害児の健康・教育・社会保障委員会が労働・社会保障省所管であります。この委員会の支部が全国21県、ウランバートル市全9区にあります。この委員会とその支部は子どもが障害を持っているかどうかを判断し、障害を持っていると判断した場合、どの幼稚園、学校に通わせるか、どういう社会保障を提供するかを決めます。私たちのセンターは2年間の間、まず、委員会の支部にセンターの活動を説明し、地方からきてサービスを受けた障害児の人数、その診断内容を伝え、今後も連絡を取り合って、情報提供をして協力を図っています。次に、コロナ感染症の拡大を受けて、子どもたちがセンターまで来れないため、オンラインでアドバイスを提供できるように、バヤンウルギー県を対象に実証実験をしてみましたが、とても良い結果となりました。バヤンウルギー県での次の診断を予定しています。

J: センターから21県にある障害児の健康・教育・社会保障委員会の支部と繋がり、情報交換できる技術的な環境は整っているのですね。あなたは27年間小児科医を務めてきました。そんな中、モンゴル人が子どもを育てる時に、何にもっと気をつけるべきだと思いますか?

R. ガルバドラフ: モンゴル人は子どもを育てる伝統的な知恵、経験は十分にあると思います。ただ、障害を防ぐという観点からは、まず、家族計画を熟考し、話し合って決めなければなりません。2、3年連続で子どもを産むか、10年後にまた産むかという計画です。親になるのは簡単ですが、親としての責任をもつことは難しいのです。

女性が一回子どもを産んで、次の子どもを産むのに、身体が正常に戻るのに3年間はかかります。これも考慮に入れて家族計画を立てることが大事です。そして、妊娠して子どもを産むと決めた場合、定期的に妊婦健診を受けなければなりません。あなたが言った通り、ダウン症は羊水で検出されていましたが、今では妊娠中に超音波検査で発見することが出来ます。また、妊娠中の女性の健康を管理し、ウイルス感染、性的感染症を予防することも重要です。ウイルス感染が深刻な場合、妊娠を中絶せざるを得なくなることがあるため、ワクチンの接種を受けるべきです。出産後には子どもにどんなご飯を与えるかという問題が出てきます。赤ちゃんには母乳が必要です。世界的に赤ちゃんのご飯1000日ということがよく言われています。妊娠中の女性の食事と出産後の2年間の赤ちゃんの食事を合わせて1000日と計算しています。この1000日に栄養をちゃんと摂取していなければなりません。赤ちゃんの脳の神経細胞は3歳まで活性化します。これを活性化させる主要な栄養は母乳にあります。最近の若い女性は赤ちゃんに市場で売られている母乳代替品を与えていることがありますが、これはあまり望ましくないことです。

J: 世界的にも母乳の効果が認められていますね。

R. ガルバドラフ: そうです。日本、韓国、米国でも母乳代替品は使われていましたが、今は母乳を与える親を援助するプロモーションをするくらいとなっています。モンゴルは逆に母乳から母乳代替品へと移行してしまいそうな状況にあります。これはあまり良くないことです。母乳の中には赤ちゃんをウイルス感染、バクテリア感染から予防する免疫物質が含まれており、また脳の神経細胞を活性化させるアミノ酸が含まれているからです。これは代替できません。

J: 次に、スカンジナビア半島などの先進国では、障害児は特別学校ではなく、健常児と同じ学校に通い、同じ生活をしています。逆に、子どものせいでも、親のせいでもなく、時に人は障害をもって生まれることがあるのだということをみんなが理解できます。モンゴルではこの点に関して何をしているのでしょうか?

R. ガルバドラフ: この点に関しては、最近は教育分野が動いてくれています。以前は、特別29番学校、視覚障害者のための特別学校に通わせることで社会から隔離していました。聴覚障害、脊髄障害の子どもは障害のある部分だけで他の子どもと同じことが出来なくなっています。それを理由に、障害児の教育を受ける権利を制限すべきではありません。例えば、私はこのことで日本の状況を調査したことがありますが、障害児が障害のない子どもと一緒に体育の授業を受けています。体育の授業、音楽の授業は何の問題もなく授業を受けています。ただ、数学の授業では差が出ることがあります。その際には特別なプログラムで授業をします。その他の授業はみんなと一緒に受けます。そうすることによって、子どもは障害児を理解し、彼らを助けるように育っていきます。最初から離してしまうと、いじめたりすることがあるかもしれません。可能な限り、村の学校、県の学校では子どもをみんなと同じ年齢に入学させる必要があります。そこで見られるのが、子どもは6歳で小学校に入学しますが、障害児は6歳で入学することが滅多にないことです。親は子どもがどんな障害を持っていようと、6歳になった時には入学させなければならないと考えて、頑張らなければなりません。

J: 最近までは障害児を隠したりすることもありました。こういう考えは、今どうなっていますか?

R. ガルバドラフ: 社会はあまり良くなっていません。オープンマインドで子どもを理解し、センターを利用している親はいます。子どもの写真を撮って、センターの活動紹介に使うことを許す親もいます。これを許さない親もいます。両親、監督義務者のいない保護施設にいる障害児を一時的に引き取り、援助して、一定期間後に戻すための部署を2020年の4月に設置しました。そうすると、障害児はそのまま私たちのセンターに置いておきたいという人々も出てきます。私たちのセンターを療養所や保護施設だと思っている親もいます。しかし、私たちのセンターは病院というよりも障害児を発達させ、社交的にするためのリハビリテーションセンターです。

社会的地位の高い人や経済力のある人の中には障害のある子ども、孫がいる人がいます。彼らは障害児を社会に出したくないといいます。有料の個室があるかどうか、個室に入院したいなどという問い合わせもあります。そんな人には心理カウンセラーを通して、あるいは私が子どもを社会化すべきであるという話をします。両親が亡くなった後でも子どもが自立して生活できるようにしなければなりません。私たちのセンターでは、190人ほどの従業員がいます。そのうち20人が障害者です。また、10人が障害児の子どもを持っています。法律の規定では、企業は200人のうち8人は障害者を雇い入れることになっています。しかし、なぜ20人も採用するかというと、障害児を持つ親が障害者の従業員を見て、私の子どもも公共機関で働き、給料をもらって生活できる可能性があるのだという希望を持って欲しいと考えているからです。それから、障害者は仕事をする時、とても忠実です。嘘をつきませんし、仕事を言われた通りに正確に実行します。このメリットを知り企業も積極的に採用すべきだと考えています。

J: 障害児にリハビリテーションをさせ、発達させることは、障害児のためのリハビリテーション・発達センターや労働・社会保障省だけの仕事ではありません。全国民の仕事であり、全世界に共通している事象です。モンゴルは障害者も不自由のない生活を送ることができるように道路整備などから徐々に改善はされていますが、まだまだ不十分です。例えば、モンゴルのテレビ局がパラオリンピックの放送さえしないわけです。テレビ局は収益以上に社会的責任を意識して放送すべきですね。

R. ガルバドラフ: そうです。私もパラオリンピックの開会式を見ることを楽しみに待っていました。パラオリンピックに出ている選手は、モンゴル国民の一人であり、同じ権利を持っています。

J: そうです。そのため、あなたの取材をみて、ぜひ番組に出て欲しいと思いました。なぜなら、みんながこのことについて注目し、気を遣い、心に留め、敬意を払い、同じ人間であることを理解すべきだというメッセージを送りたいと思ったからです。

R. ガルバドラフ: ひとつ追加しておきますと、障害の早期発見と言いましたが、早期に発見しておくだけでは無意味です。早期発見をして、発見した障害児をどうするかという問題が重要です。この子どもは障害児であると分かったあとは、どうやって社会で受け入れるかが大事です。発達プログラムに参加させる必要があります。そうでないと「喉が痛いのですね、病気にかかっています」と言っただけで、治療方法を教えないことと同じです。ですから、発達障害があると分かったら、次はどうやってこの人を発達させるか、できないことをどうしたらできるようにするかを考えることが重要です。

J: 社会全体がそのことに注意を払い、国家予算を十分に配分することが必要ですね。

R. ガルバドラフ: そうです。それが重要です。

J: モンゴルでは障害児のためのリハビリテーション・発達センターが設立されました。今日はそのセンター長であるレンツェンドルジ・ガルバドラフ氏とお話をしてきました。ありがとうございました。

ガルバドラフ * ジャルガルサイハン