今日、多くの人々が海外に短期的もしくは長期的に滞在あるいは移住している。これはモンゴルだけではなく、世界中に広く見られる現象となった。政治・経済だけでなく人道的にも危機に陥ったベネズエラでは、人口の10%にあたる300万人が国外に逃れた。来年はこの数字が200万人増えるそうだ。政治的要因、経済的要因、個人の状況など様々な理由による国外への移動が世界中に広がっている。この現象を民主主義国家では誰も強制的に止めることができない。この「人の国外への流出」を賢明に解決するという試練は、今日のモンゴルにとっても大きな課題となっている。

人材流出の主な理由

モンゴルの人口は320万人、そのうち4.5%の人々が海外に在住している。2017年にモンゴル外務省は、海外へ留学、就業しているモンゴル人の統計を発表した。それによると世界67ヵ国に144,566人が在住している。この人数はモンゴルのバヤンホンゴル県、ブルガン県の人口を合わせた数に相当する。このうち18歳未満は23,990人、18歳以上の留学生は25,986人、就労している人は26,697人になる。2018年にモンゴル国籍を捨てた人は490人だった。

外国に在住する理由について、マスコミは国内における失業率に関連づけて説明しているが、実際の原因を具体的に調査し、分析する必要があるだろう。

最大の原因はモンゴル経済に関係している。モンゴルでは、国民が十分に生活していけるだけの収入を得られる仕事がない。個人がビジネスを営む環境が整備されてない。政府の汚職により公正な競争が成り立っていない。金利が高く、税金の圧力が大きい。モンゴル銀行(中央銀行)の発表では、2018年の銀行貸出金利は個人の場合で年利平均18%、企業の場合は15.5%である。ビジネスを始めれば直ぐに税金が課される。他国のように税金の免除制度がない。中小企業を支援するための国家予算は、法律を策定している政治家本人たちが受け取っている。そして大臣たちが所有する会社と一般の民間企業では、競争にならないほど不平等だ。

その次に大きな理由は社会問題である。国民は定職に就けないため、貧困状態にある。だから貧困ゆえの怒りを抱いている。ウランバートルの土地を歴代の市長らが横領してきたため、深刻な交通渋滞が社会発展を妨げる原因にもなっている。人口の半数が住むウランバートルの大気汚染は、目の前にある車が見えない程になっている。大気汚染により命を落とす子どもの数は数千人に上る。

今日の交通渋滞、大気汚染、そして社会における不公平感が膨張し、国民の我慢は限界を超え、将来への希望が持てなくなっている。モンゴル社会の不公正は、他人を犠牲にしてでも早く財を成したいという利己主義を刺激している。そしてそれは多くの国民を海外出稼ぎへと向けている。現在、韓国には46,000人のモンゴル人が在住している。その半数が不法滞在を続け、職を探している状況である。

3つ目の理由は、先進国に留学し、質の高い教育を受けることだ。また、医療サービスを受けることや観光である。さらに、外国人と結婚しているモンゴル人の数が増えている。

結果

モンゴルでは、各世帯に誰か一人は必ず外国に行き、家族を養うために仕事をしている。世界銀行の報告書では、2010年には海外からモンゴルへ2億6600万ドルが送金されていたが、この数字は2018年に3億3200万ドルに増加している。これは国内総生産(GDP)の2.7%に相当する。モンゴルでの1年間の収入を韓国では2ヵ月間の肉体労働で得られるという話がある。閣僚や政府高官は税金で富を得るが、国民は身内の海外送金で富を得ている。

海外への人の移動とは、モンゴルで若くリスクを取る能力がある人、つまり若い労働人材を海外に輸出しているということである。これは社会に悪影響を及ぼし、多くの家族が「半家族(家族の誰かがいない家族の意味)」になっている。両親のどちらかがいない状況で子どもたちが育ち、独りで過ごしている片親が多くなった。外国で働く人々のほとんどが社会の中間層か、あるいは前途ある若者である。このままではモンゴルは労働人材の不足に陥り、少数の超富裕層と超貧困層が残る可能性がある。

人の移動のメリットと言えば、モンゴル人は先進国の質の高い教育を受け、学位を習得し、異文化、外国語、技術を身に付けることである。これは無形投資である。また、医療、教育、公共サービスの負担をある程度減らしている。

私たちは今日の人の国外移動のメリットとデメリットを比較し、将来を見据えて賢く立ち回らなくてはならない状況となっている。

賢明な政策

 一部の人々は海外に移住する人たちを差別し、批判することがある。しかし、私たちは海外に住む彼らを差別するより、彼らを理解し、政府は彼らが外国に渡った根本的原因は何かを調査し、長期における解決策を見つけるべきである。

人の移動に関してメリットとデメリットを分析し、利益に資する方策を見極め、効率的に活用する必要がある。海外にいる人たちを無視するのではなく、引き戻す政策を実施する時が来たと思う。この取り組みをまず、第三国政策によって調整し、その国に帰化したモンゴル人に二重国籍を許可することから始めることができると思う。

次に重要なことは文化、つまり柔軟政策である。モンゴル人とは、まずモンゴル語(母国語)を話す者を言う。外国にいるモンゴル人の子どもたちが母国語を習得するための支援を全面的に行う必要がある。せめて両親は家では母国語で会話し、母国語で書かれた絵本や教材を活用するとよいだろう。

子どもたちが2つの言語を母国語として習得することは、競争力が身に付くということを忘れてはならない。モンゴル人が多く住む国のモンゴル大使館、領事館はこの問題を重視し、積極的に取る組む時が来た。

外国にいるモンゴル人たちを呼び戻す試みは、2011年にSu.バトボルド首相の内閣が実施した「蜂の巣政策」、2016年にCh.サイハンビレグ首相の内閣が実施した「世界のモンゴル人政策」がある。しかし、そのどちらの政策でもモンゴル政府は数少ない政府官職以外の雇用を創出することができなかった。民間でビジネスを行うための安定した政策と方針、機会を作らなかった。税制による支援を実施しなかった。そのため外国から戻って来たモンゴル人は少なかった。今では、外国から戻って来た数少ないモンゴル人は、再び外国に渡り始めている。

今日の状況では、私たちは大きな政策を実施するより、国民の信頼を徐々に取り戻すための取り組みを行うことが適切だと思う。例えば、政府は政策として労働力を外国に送り出しているならば、外国から戻って来た時の雇用を創出する必要がある。日本に行った多くの若者に対して、日本で専門職の免許を取得する機会を設ける必要がある。そして彼らがモンゴルに戻ってからも、外国で身に付けた技能で働ける機会を提供することを重視しなければならない。

国内に目を向ければ、外国で就労し実績を積んだ人たちについて、マスコミは頻繁に取り上げている。これと同様にモンゴルに戻り、成功している人たちについての事例をより多く取り上げる必要がある。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン