2019年6月14日、キルギスの首都ビシュケクで上海協力機構サミット2019が開催された。このサミットで、ロシア・中国・モンゴル三カ国の首脳が会談した。この会談で中国の習近平国家主席は「もし、モンゴルが上海協力機構に正式に加盟すれば、加盟国となるメリットを活かし、上海協力機構の活動に大きな役割を果たすことで、実利を得ることができるだろう。モンゴル側が最終決定を下し、上海協力機構への加盟が早ければ早いほど、その恩恵を多大に受け、国家を発展させる事が可能である。」と発言した。

中国は、モンゴルが経済的に完全に依存し、モンゴルの最大貿易相手国である。その中国のトップが言う「上海協力機構」とは、実際にはどのような機構なのか?またどのようなメリットをモンゴルへ与えるのか?モンゴルが得られる実利とは何なのか?上海協力機構サミットへオブザーバー参加したモンゴルは、これらの疑問について具体的に確認し、理解しなければならない。

上海協力機構

上海協力機構の加盟国は、ユーラシア大陸の5分の2に達し、世界の人口の約半分を占めている。まさに世界最大の地域間協力組織である。また、政治、経済、軍事、自然環境の強国で構成されている。

モンゴルは2004年から毎年、オブザーバー国として上海協力機構の首脳会議に参加してきた。2018年6月には、中国青島市で開催された上海協力機構拡大首脳会議にKh.バトトルガ大統領が出席した。大統領はその際、上海協力機構への正式加盟を検討し、地域間交流に継続性をもって参加したいとの意向を初めて表明した。これを受け、モンゴル国内で上海協力機構への加盟問題が熱を帯び始めた。 ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの五ヵ国の首脳が1996年に「国境地帯における軍事協力関係の強化」を図るための文書に署名したことで、「上海ファイブ」という組織が発足した。2001年にウズベキスタンが加盟してから、上海ファイブは上海協力機構に改組した。2002年に加盟国の首脳が集まり、上海協力機構の宣言書に署名し、正式な活動が始まった。2017年にはインド、パキスタンの2ヵ国が新たに加盟した。

上海協力機構の主な目的は、域内の安全保障となる。例えば、三つの害悪と言われるテロリズム・分離主義・過激派(Terrorism、Separatism、Extremism)対応への連携強化である。また、メンバー国のイニシアチブで、その活動範囲は政治、貿易、経済、研究、文化、教育、エネルギー、運輸、観光、環境といったあらゆる分野へ広がった。

しかし、現時点では安全保障、政治以外の分野での協力活動をハイレベルで実施することができていない。タシュケントに本部を置く上海協力機構の地域対テロ機構(RATS)は、テロリスト集団に関する情報を収集し、2017年の時点で600件のテロを阻止し、50トンの爆発物、1万丁の武器を押収した。

近年、中国は上海協力機構の加盟国間での経済協力の拡大を目指している。一帯一路イニシアチブの下で、国家開発銀行を通じてメンバー国およびオブザーバー国に対して2019年3月の時点でおよそ500億ドルの融資を行っている。

2014年から上海協力機構に環境保護センターが設立され、メンバー国の環境保護、グリーン開発で協力が始まった。2019年7月から上海協力機構の域内貿易・物流における協力を推進するためのセンターを青島市に設立した。

実益を得るために

Kh.バトトルガ大統領は、2019年6月にキルギスのビシュケクで開催された上海協力機構サミットで「モンゴルは上海協力機構におけるステータスを一段あげて参加する可能性を検討している。上海協力機構への加盟に関して、現在はモンゴル国内で意見が分かれている状況である」と述べた。実際、上海協力機構への加盟について意見は分かれている。

MIRIM Consultant社が実施した調査によると、モンゴルが上海協力機構へ加盟することについて、国民の賛成と反対の意見は拮抗している。加盟に賛成する人たちは、上海協力機構がモンゴル経済に良い影響を与えるだろうと答えている。加盟に反対している人たちは、第一にモンゴルは隣接する二カ国(ロシアと中国)に依存し過ぎている、第二に国家安全保障に悪影響を及ぼすと答えている。

モンゴルの研究者たちの意見

① 経済的観点からみて、モンゴルが上海協力機構に加盟する必要性は今のところない。その理由は、上海協力機構ではモンゴルの利益となる何らかの活動が始まっていないからだ。上海協力機構は経済、貿易、エネルギー、運輸、観光分野における協力活動の幅を広げるために20年近く取り組んでいるが、めぼしいプロジェクトは実施されていない。これは、上海協力機構内で国家間対立があることの表れである。中国は経済を重視し、ロシアは国家安全保障を重視している。ロシアは中国の安い製品を自国に入れる自由貿易の準備ができていない。インドは上海協力機構が、中国の一帯一路構想を土台とすることに反対している。

② 政治的観点からみて、上海協力機構は対アメリカのためのロシアと中国が核となる共同体と見なされる。実際、2005年にアメリカが上海協力機構へのオブザーバー参加を申し出たが、上海協力機構はこれを拒否した。メンバー国の殆どが相互に領土問題を抱えており、今はそれを解決するために交渉をしている状況である。今日、インドとパキスタンによるカシミール問題がその対立の激しさを明確に示している。モンゴルは領土および国境に関して何らの対立問題もない国であるので、上海協力機構に必ずしも参加する必要はない。

③ 私たちは上海協力機構を最初から疑った見方をしているのではないか。上海協力機構へ加盟しないことで、私たちに関係する問題を、私たちのいないところで決められている。地域全体の取り組みから自分たちを孤立させている。実際、モンゴルはロシア・中国それぞれの国と舗装道路、鉄道、天然ガスパイプライン、石油パイプライン、電力および通信ケーブルの敷設などのプロジェクトについていつも話し合っているが、そのどれもが実施されていない。

上海協力機構への加盟について、市民社会や研究者たちの意見はこのように分かれている。また政治家の大半が上海協力機構への加盟を急ぐ必要はないと考えていることがわかる。

しかし、私たちはロシアと中国の両国と戦略的パートナーシップ協定を結んでいる。その上で上海協力機構に加盟することは、モンゴルの第三国政策にも良い影響を及ぼすため、早く加盟した方が良いという声もある。

モンゴルが上海協力機構への加盟を決定する前に、国内で広範かつ数段階で協議を行い、多方面から慎重に検討する必要がある。国民に上海協力機構についての必要な情報を提供したうえで、全国で国民の意見を聞き取ってから、加盟するかどうかを決めるという方法もあるだろう。

それまでモンゴルは、隣国であるロシアと中国の二カ国と経済、環境、麻薬対策において協力することが重要である。また、ロシア、中国、モンゴルの間であらゆる仕組みを賢明に活用することである。

今は上海協力機構のオブザーバー国としての地位・機会を十分に活用し、域内で全面的に協力していく上で必要となる人材の育成が急務である。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン