モンゴル政府が新型コロナウイルス対策と、落ち込んだ経済対策のために10兆トゥグルグ規模の包括的再生計画を承認してからちょうど1ヶ月半が経過した。モンゴル国は、保健分野では新型コロナウイルスという黒死病と、経済分野では腐敗という黒死病と闘っている。前者はこの夏頃までに治まるようだ。しかし、後者の拡大をいつ、どのように食い止めるかについて、私たち国民は何らかの具体的な対策を取る必要がある。

保健分野における黒死病と免疫力

モンゴル市中での新型コロナウイルス感染状況が拡大し始めたのは他国に比べて遅く、2020年10月からだった。累積の感染者数が500人、1000人、2000人と増加する度に政府は厳しい外出制限措置を敷いてきた。しかし政権が交代し、感染拡大防止への方針を変え、「1つの扉、1つ検査」というプログラムを実施した。感染者数が7000人に達した時には、それまでの厳しい外出制限措置を行わず、一部の活動を5月17日まで制限するというものになった。

現時点(21年4月7日)では、累計12,226人の感染者が確認されており、そのうちの半数が回復し、半数が治療中である。死者は21人にのぼっている。また感染者の40%が自宅療養となっている。世界では平均2.2%がこのウイルスによって死亡しているが、モンゴルの死亡率は15分の1も少ない0.17%である。

現在、モンゴルで厳しい外出制限措置が敷かれていないのは、経済における損失を食い止めるため、そして新型コロナウイルスのワクチン接種が40日前から始まったからである。4月7日の時点で467,000人が1回目のワクチン接種を済ませており、L.オユン-エルデネ首相は、すべての成人を対象とした2回目の接種を7月1日までに終わらせ、モンゴル経済を開放すると発表した。モンゴルの人口は330万人と少ない。政府はワクチン供給を加速させ、1日3万人にワクチン接種ができれば、この目標は完全に実現可能である。新型コロナウイルスという黒死病に対する免疫力を、外国から導入して抑えることができるということだ。

経済における黒死病と免疫力

しかし、経済の黒死病として拡大し、社会に深く浸透した“腐敗”を止めるための免疫力は、外国から導入できるものではない。この黒死病は21世紀に入って拡大し、最初に鉱山ライセンスの売買、次にウランバートルの土地の売買、今日では誰もどうすることもできない状態となっている。

今日、政府は経済対策として国の1年間の予算に相当する10兆トゥグルグ規模の特別プログラムを実施している。このプログラムには以下の内容が盛り込まれている。

  1. 中小企業経営者に対する年利3%、期間3年の総額2兆トゥグルグの融資。
  2. 若者の就労、専門養成、健康的でアクティブなライフスタイルを促進するための2ヶ月の研修と奨学金に5,000億トゥグルグ。
  3. 第1段階としてウランバートル市内に建設する「Zaluus(若者)Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」住宅のインフラ整備、土地交付、建設着工、住宅ソフトローン交付などに総額3兆トゥグルグ。
  4. 戦略的大規模プロジェクト、プログラムの実施に2兆トゥグルグ。
  5. 畜産業、遊牧民への給付、生活支援のために5,000億トゥグルグ。
  6. モンゴル銀行に年間1兆トゥグルグあるレポ取引を2兆トゥグルグに引き上げる。

しかし、これらのプロジェクトが腐敗なく実行される可能性はとても低い。なぜならば、腐敗はモンゴル社会に深く浸透しているからである。腐敗については長年問題となってきたが、汚職犯罪に対して責任が追及されることはなく、たとえ責任追及したとしても損害を賠償させることはない。身柄を拘束しても直ぐに釈放してしまうことが常態化している。

モンゴルの司法制度自体が腐敗の巣窟となっている。これは最近のあらゆる事件を見れば明らかだ。例として挙げれば:S.ゾリグ氏の暗殺事件、検察官は大統領の命令で起訴したり、取り下げたりするようになった(民主党党首S.エルデネ氏の発言)。他にも、人民党の600億トゥグルグ事件、TDB銀行のオーナーによる国の資金でエルデネト鉱業の株49%をロシア側から買収した事件、ボグド山周辺の土地の横領事件、国有企業の管理職に関係する諸々の事件など枚挙に暇がない。

腐敗は政府のあらゆるところに、隅々までに蔓延している。そしてあらゆる正義が失われている。正義が失われるにつれ、公ではなく個人が私的に収入を得て裕福な生活を送っている。企業が公正に競争できる機会は奪われ、失業者が増加し、倒産する企業が増え、そして社会不安が高まる。アルコール依存症とうつ病が社会の底辺に横たわるようになり、人々はお互いを攻撃し、侮辱し合い、その放たれる言葉は非道徳的である。

一日も早く司法改革に着手し、司法を政治権力から独立させなければならない。政党の資金調達の透明性と、ブロックチェーン技術による不正選挙の完全な取り締まりをしなければならない。政府のあらゆるサービスのデジタル化を加速させる必要がある。また、ボグド山の土地を横領した者たちの責任を追及し、その固定資産に市場価格に応じた税を課し、そこから得られた収入をゲル地区のトイレ問題の解決に充てる必要がある。これらを政府が実施することは急務であり、国民がこれらを強く要求する必要がある。なぜならそれこそが反腐敗免疫力を得る手立てだからだ。

腐敗に対するワクチンは、民主主義国の国民一人一人の参政権の他に、自分たちが選択した政府を監視し、正義を要求する権利と自由から始まる。

今日、私たちの多くが自分のためではなく、政府のために生きているかのように現金と保護を要求するようになった。これが何を意味しているかというと、国民を政府に依存させることにより、国民をあたかも奴隷のようにしたがっている政治家によるポピュリズム的な策略ということである。コロナという黒死病を夏までに、腐敗という黒死病を近い将来、完全に終焉させるよう、ここに呼びかけたい。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン