フィンテック(Fintech=Financial Technology)は、革新的に発達した情報通信技術を駆使し、金融と情報技術を組み合わせた新たな金融サービスの形態・分野である。フィンテックは人々の財産に関係してくるため、発生可能な如何なるリスクも排除・管理する必要がある。

現在、モンゴルではLendmnArd CreditHi-Payなど、多数のフィンテック企業が営業しており、その一部は海外にも進出している。モンゴル初のフィンテック企業であるモビファイナンス社は、1日20万回、合計40億トゥグルグの電子マネー:キャンディでの取引を行い、150万人にサービスを提供している。

世界750社以上の移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体であるGSMアソシエーション(GSMA)によると、1人当たりの国内総生産(GDP)が低く、人口密度が高い国々でフィンテックのサービスが急速に拡大しているという。

金融テクノロジー

フィンテックに関する技術革新は、まず貯蓄と投資の仲介役という形で現れ、経済成長を促す金融分野に急速に広がり、商品やサービスの流通を充実させてきた。

フィンテック1.0は、1876年にアレクサンダー・グラハム・ベルが世界初の実用段階に達した電話の特許を取得したことが発端となり、金融テクノロジーの新しいインフラが形成された。その100年後、インターネットの出現と共にフィンテック2.0が始まり、金融サービスへのアクセスや利用が急増した。そして2008年からは、スマートフォン、モバイル・インターネットの普及と共に、フィンテック3.0が始まったと言われている。

金融サービスはより簡易になり、価格も安く、処理が高速化したことによって、誰もが手軽に金融サービスへアクセスできるようになった。これは世界中の貧困削減への取り組みにおいて大きな変化をもたらしている。フィンテック3.0は金融決済、預金、貸出、保険サービスに新たな利用形態をもたらし、労働生産性を向上させ、私たちの生活に大きな変化を与えている。

また電子マネーが決済ツールとなったことにより、それまでカード会社に支払っていた3〜5%の手数料を節約できるようになった。こういったテクノロジーの進化はフィンテックだけに留まらず、大量のデータ(Big Data)、人工知能(AI)、バリュー・チェーン、ブロックチェーンなど新しいビジネスを生み出している。

金融サービス

フィンテックによって、銀行の業務が分割され、銀行は決済取引や資産の適切な運用といった本来の目的に集中できるようになっているとイングランド銀行総裁マーク・カーニーは言う。

携帯電話番号が決済口座になったことによって、以前までは銀行に口座を開設できなかった数百万人が即時決済、貸出サービスを受けられるようになった。東アフリカの数ヵ国では、M-Pesaという電子決済システムが導入され、この地域に金融サービスの革命を起こしている。

ケニアでは、およそ11万のM-Pesaの代理店が活動している。これは同国の銀行ATMの数の40倍にもなると世界銀行が発表した。新興国では、人々が預金をもつことにより、国の生産、インフラ、人的資本の発展に必要な「資産」が蓄えられるようになっている。

世界中のオンライン取引の半分を占める中国では、Alipay(支付宝)WeChat Pay(微信支付)がQRコードを利用するフィンテック・サービスを導入している。韓国「KakaoPay」、タイ「SiamPay」、オーストラリア「Au wallet」、アメリカ「Apple pay」など、それぞれの国が独自のフィンテック・サービスを導入している。

モンゴルでは、多種多様なポイントが貯まる決済アプリが利用されるようになった。しかし、これらの中でモンゴル銀行(中央銀行)の認可を受け、通貨トゥグルグの承認を受けた唯一の電子マネーは、モビファイナンス社の「キャンディ」だけである。

キャンディは、8000ヵ所でサービスを受けることができる。そのサービスを利用するには必ずしもスマートフォンである必要はなく、普通の携帯電話のショートメッセージでも利用することができる。

普及への課題

革新的な情報通信技術は金融分野に新しいアイディア、変化をもたらした。ただ問題点は、国や政府がこの変化を敏感に受け止め、個人情報や所有財産の保護に関する法律を改正し、適切に規制できていないところにある。フィンテック企業は、個人情報を収集し、それを貸付データベースと紐付けしているが、その秘匿性の高い情報をどのように保護するのか、漏洩したときには誰が責任を持つのか、どの様な処罰を受けるのかは、今現在不明である。

モンゴルでは、決済取引や電子マネーを自国通貨トゥグルグにどのように承認させるかなどを規定する「国家決済システムに関する法」が2018年から施行されている。国家決済システムに関する法によれば、「公共に決済サービスを提供するには、企業は特定の条件を満たし、モンゴル銀行(中央銀行)の認可を受けなければならない。決済は継続性、機密性を保証されるために商業銀行と同等の情報を取り扱うメインおよび予備のデータセンターを有しなければならない」とある。

しかし、多くのモンゴルのフィンテック企業は、金融規制委員会の認可を受けてはいるが、多額の手元資金を義務付けるモンゴル銀行(中央銀行)の条件を満たさずに活動を行っている。また、フィンテックのすべてのサービスは情報通信技術を駆使しているため、国の情報通信規制委員会も規制に乗りだす構えを見せている。

このような状況の中で、モンゴルのフィンテック協会は他国の経験や事例を参考に、規制する各政府機関が共同で「サンドボックス」を構築する提案を出した。フィンテック企業各社をサンドボックス(砂場)に入れて囲み、彼らの活動を監視し、彼らの新しいアイディアを支援すると共に成長に合わせて規制するということで合意した。しかし、実践的な取り組みは何も行われず半年が過ぎた。

私たちは時間を無駄にすればするほど、モンゴル国内の電子マネー商圏を外国企業に奪われることになる。それはモンゴル銀行が金融政策を監視できなくなることであり、モンゴル人はまた大きなチャンスを失うことになる。自国のフィンテックでは、外国からの投資を許すものであってはならない。例えば、中国のWeChat Payがモンゴルの商業銀行の口座と接続する、もしくはFacebookCalibraなどの電子ウォレットをモンゴル市場に導入すれば、モンゴルは電子決済に関する一切の監視を自動的に失うことになる。

現在は、社会全体で電子署名が利用できる環境を構築し、オンラインのみで承認ができ、契約書の締結が完結することが求められる時代である。そんな時代が到来しているにも関わらず、モンゴルでは公証人役場が300年前と変わらずに存在している。財務省までが、企業からの政府基金の申請に書面でのみ受け付けている。こういった事例が、政府が商業銀行よりもどれだけ遅れているかを表している。

フィンテックの可能性を十分に活用し、競争力を高めるためには、政府はフィンテック企業各社を賢明に規制して行かなければならない。ただし、彼らの新しいアイディアを制限してはならない。また、国民のフィンテックに対する知識や教育の向上を図らなければならない。

掌中の鳥を強く握れば死んでしまう。しかし、弱過ぎれば逃げしてしまう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン