オランダ出身のアレックス・ハイケンス氏は、インドネシアで汚染された水資源が人々の健康と農業生産に与える影響について研究し、環境科学の博士号を取得しました。彼はオランダのユトレヒト大学で生物学の修士号を取得しています。彼は2003〜2013年の間、アジア太平洋地域の国連開発計画の地域政策顧問を務め、当該地域において国連開発計画を実施している各国政府に気候変動への取り組みについて政策支援をしました。彼は2013年にニューヨークのユニセフ本部で上級顧問の職に就き、気候変動、エネルギー、環境の持続可能性に関するユニセフの政策の策定と実施を主導しました。2017年7月に国連児童基金モンゴル国事務所の代表に任命されました。

ジャルガルサイハン: こんにちは。

アレックス・ハイケンス: 再び番組に出演できて嬉しいです。

ジャルガルサイハン: そうですね。前回から約3年経ちましたが、当番組に再び出演して頂きとても嬉しく思います。あなたのモンゴルへの赴任期間が終わり、次の国に行く予定だと聞きました。そのため、あなたが出発する前にモンゴルの子どもたちの現状や直面している問題、またユニセフが実施している活動についてお話したいと思いました。まず、新型コロナウイルス感染症について触れるべきかと思います。なぜならば、新型コロナウイルスの感染は、子どもを取り巻く環境に大きな影響を与えているからです。新型コロナウイルスは子どもたちにどのような影響を与えているのか?また、モンゴル政府はどのような効果的措置を取っているのか?これらについてあなたの見解を聞きせてください。

アレックス・ハイケンス: 本当に簡単ではない1年半が過ぎました。昨年の1月に新型コロナウイルスの感染について初めて報道された時、私はバヤンホンゴル県に出張中でした。当時、私達は新型コロナウイルス感染症が世界中に衝撃を走らせるだろうと話していました。特に学校や幼稚園の活動が停止になれば、子どもたちが深刻な影響を受けることが明らかでした。これは子どもたちの学ぶ機会についてだけの話ではありません。ここには子どもの保護、栄養問題まで挙げられます。子どもたちが家に残されたら、誰が彼らの面倒を見るのか?また、学校や幼稚園での給食だけが1日の食事となっている子どももたくさんいます。この子どもたちの食事はどうなるのか?新型コロナウイルス感染症が発生して以来、家庭内暴力は急増しました。これは人々の間で大きな不満が生じたことに関係しています。

人々は失業し、これにより家庭内で問題が発生しました。さらに外出制限がかかり、家から出られない状況に置かれました。以前から家庭内暴力があった家庭では、このような状況下で事態がさらに悪化します。また、子どもを家に鍵を掛けて放置したことにより、子どもが命を落とすという悲しい事件も発生しました。このような意味で、子どもの保護、子どもの教育のどちらの面でも非常に厳しい状況が生じました。これらの問題を解決するために、どのような措置を取ったかについて話したいと思います。

ユニセフは、新型コロナウイルス感染症が発生した時点で臨時活動計画を作成し、資金を調達しました。そしてまず子どもの状況について迅速に調査し、取り組むべき活動を具体化しました。最優先として子どもへの暴力防止に取り組んでいるソーシャルワーカーに必要な支援を提供しました。児童ヘルプラインを強化し、子どもからのコールを迅速に受け、対応するサポートをしました。また、各合同チームや子どもへの事件解決をサポートするなど、子どもの保護面での活動を実施しました。

教育において、まずテレビでの授業配信を支援しました。しかし、全体の約30%は、この1年半の間に家で勉強していないことが私たちの調査で明らかになりました。

ジャルガルサイハン: 私たちはこのことについて後ほど詳しく話したいと思います。あなたは4年間ユニセフという重要な機関の代表を務めました。ユニセフはモンゴルの子どもの免疫化に大きく貢献していることを私たちは知っています。あなたが務めた4年間にユニセフが取り組んだ活動の中で特筆すべき活動は何ですか?

アレックス・ハイケンス: ワクチンについての話も出たので、私はここで1つの重要な事を強調したいと思います。おそらく、多くの人がこれに気づいていなかったと思います。2019年に麻疹の流行は世界中の多くの国で始まりました。モンゴルでも間違いなく流行ることでした。その時、私たちはモンゴルの保健省、世界保健機関と協力し、急遽50万ドルの資金を調達し、必要なワクチンを購入し、短期間でモンゴル全土にいる子どもたちに接種できました。

ジャルガルサイハン: すべての子どもですか?

アレックス・ハイケンス: はい、ワクチン接種が必要なすべての子どもを対象にできました。その結果、モンゴルでは麻疹が流行らずに済みました。

ジャルガルサイハン: モンゴルに麻疹感染者数は何人でしたか?

アレックス・ハイケンス: 1人、2人でした。

ジャルガルサイハン: モンゴルのどこで発生していましたか?

アレックス・ハイケンス: ウムヌゴビ県だったと記憶しています。

ジャルガルサイハン: モンゴルは麻疹を完全に撲滅できたと言っていましたが。

アレックス・ハイケンス: はい、他の多くの国でもそうでした。

ジャルガルサイハン: あなたはモンゴルの免疫プログラムについてどう思いますか?

アレックス・ハイケンス: この地域における他の国と比べて、モンゴルでは免疫プログラムはとても良く実施されていると思います。これはモンゴルの保健省および保健分野、そこで働く医療従事者たちのお陰です。

ジャルガルサイハン: モンゴルの国民の90%は、新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種を受けました。しかし、感染者数は依然として減らない状況にあります。これは子どもたちがワクチン接種を受けていないからという話もあります。あなたは、これについてどう思いますか?

アレックス・ハイケンス: 私は、新型コロナウイルスの感染拡大は今ピークを迎え、徐々に減少していくと期待しています。大統領選挙前に人々の動きが活発化しました。外出制限が解除され、人々は大勢で集まり、あちこちへ旅行に行き始めました。人々はワクチン接種を十分に受けているにも関わらず、なぜ感染者の数が増えているのかは驚きです。ワクチンは100%予防できるものではありません。ワクチンは感染の重症化を防ぐものです。しかし、ワクチン接種したからと言って感染しないということではありません。感染しても軽度で入院することなく自宅で治療できます。ワクチンを接種して死亡するケースは少ないです。だから、ワクチンは100%ではなく、ある程度予防するものと理解してください。

ジャルガルサイハン: あなたが言ったように感染が減少するだろうと予想されます。現在、子どもたちのワクチン接種が始まっているので、今後結果が出るかと思います。

あなたは、気候変動、大気汚染の専門家です。初めてモンゴルに来た時もこの問題の解決を目指していました。当時、モンゴルは煙が多く、大気汚染が酷かったです。その後、煙は減少して来ましたが完全に無くなってはいません。おそらく、煙の成分が変化したかと思います。あなたは、煙の悪影響から子どもの健康を守るという目標をどの程度達成できたと思いますか?

アレックス・ハイケンス: 私は、目標としてきたことの一部は達成でき、一部は達成できていません。私は大気汚染問題を解決するために4年間継続的に取り組むつもりでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、計画していた多くのことを実行できませんでした。そのため、より多くのことができたら良かったのにという残念な気持ちでいっぱいです。しかし、他方では私たちにやり遂げることができた事も多くあります。

例えば、まず、人々は、大気汚染とは、母子の健康問題であるということを認識するようになりました。煙は母体の胎児、子どもの肺や脳に悪影響を及ぼしていることを理解するようになりました。煙は単なる環境問題ではなく、あなたの子どもの健康問題であるということを理解できるようになりました。また、私たちは、保健分野従事者を対象にモンゴル政府と共同で大気汚染と健康を関連づけた研修を実施しました。すなわち、医者や専門家は、煙害が多発する冬季に自分の身をどのように守るかについて、妊婦に助言できるようになりました。

また、もう1つ大きな取り組みは、室内空気質問題を提起しました。子どもたちは幼稚園や学校で最も多くの時間を過ごします。そのため、室内の空気はクリーンでなければなりません。私たちは病院内の空気質のスタンダードをモンゴル政府に承認させることができました。現在、私たちは学校や幼稚園の室内空気質のスタンダードを承認させるために取り組んでいます。このことに関して一部の国会議員は賛同してくれています。もし承認されれば、学校や幼稚園の建築基準、スタンダードも変わります。すなわち、新しく建設されている学校や幼稚園は、この新しいスタンダードに沿ったものでなければなりません。

ジャルガルサイハン: このスタンダードは法律ですか?規定ですか?

アレックス・ハイケンス: 規定です。

ジャルガルサイハン: 規定を承認することは別として、重要なことはその施行に関して政府がしっかり監視してほしいですね。窓や換気扇など、様々なことを考慮にするということですね。とにかく、スタンダードができるということは重要です。

子どもの権利について話したいと思います。むろん、子どもを守るために、子ども保護制度や法律環境が良く整備されていなければなりません。モンゴルはこれに関してどうですか?あなたの見解を聞かせてください?

アレックス・ハイケンス: 進展した点もありますが、今後に残された課題も多数あります。例えば、改正家族法は未だに可決成立していません。早期に可決成立することを期待しています。最近、私たちは児童保護法の主要な評価を行いました。その際に多くの法的不備があることがわかりました。これらを改正する必要があります。したがって、法的観点からすると、施行は正しく行われています。こうした事実を踏まえても、それらの法律に少し改定を加える必要があると思います。また、言うまでもなく法律の施行を実際に遂行することも重要です。法律の施行において予算および人材と能力が十分でなければなりません。

ジャルガルサイハン: 家族法改正には何が含まれていますか?

アレックス・ハイケンス: 例えば、現行法に「危険な状況にいる子ども」という言葉がありますが、これは非常に狭く定義されていると私たちは見ています。「危険な状況にいる子ども」という言葉は、子どもの権利がより侵害されやすく、追加保護が必要な貧困層の子ども全体を含むように広く定義されるべきです。例えば、性暴力被害から立ち直った子どもたち、精神的および身体的障害を持つ子どもたちなどといったリストを、可能な限り広く捉えるように定義する必要があります。

ジャルガルサイハン: つまり、現行法にあるリストをもっと広く定義すべきだということですね?

アレックス・ハイケンス: 現行法にはこのようなリストがありません。「危険な状況にいる子ども」という文言だけで定義されています。

ジャルガルサイハン: なるほど。

アレックス・ハイケンス: 現行法では、用語に対する定義が非常に狭いです。もう1つの問題は、養護福祉の代替サービスという用語が入っていますが、それは具体的には何かというのが不明瞭です。

ジャルガルサイハン: 実際、それは何ですか?

アレックス・ハイケンス: 危険に晒された子どもを養護福祉施設に入れることができます。これ以外に親戚、友達或いは他の人が自発的に子どもを引き取り、養護するという個人同士の調整が可能です。このような小さいけどもっとも重要な問題を、法律によって明確に定めなければなりません。私たちは自分たちの意見の1つ、1つを詳細に書いて勧告として関係者に提出しました。

ジャルガルサイハン: この改正法案をどこの機関が担当し、作成しましたか?私も話してみたいと思いました。

アレックス・ハイケンス: これについては、私たちは労働社会保障省と取り組みました。また、国会議員、特に女性議員のグループは、この法案の可決成立のために協力してくれています。先日、私はG.ザンダンシャタル議長、Kh.ブルガントヤー議員とこの問題について会談を持ちました。この改正法案の可決には、各分野それぞれの人たちの協力が必要不可欠です。

ジャルガルサイハン: 私も今後、この問題に注意を払います。この家族法の改正案にとても重要な条項が含まれています。これらを抜きにして、法律が実効性のあるものとして施行されることは難しいと思います。

アレックス・ハイケンス * ジャルガルサイハン