Sh.エルデネフー氏は2004年モンゴル科学技術大学で食品バイオテクノロジー工学を専攻し、修士号を取得しました。2004~2016年までUBSテレビの料理番組クックタイムの司会者を務めていました。この料理番組で多くの人に知られるようになりました。彼はデファクトインタビューに出演した初の料理人です。

J(ジャルガルサイハン): あなたは食育をとても重視している方です。12年間UBSテレビで料理番組の司会を務めました。モンゴルの食品分野の現状をどう見ていますか?世界の中ではどの水準にありますか?

エルデネフー: 1960〜1990年はモンゴルの食品分野の黄金期でした。1990年から食品分野でも民営化が始まり、専門外の人たちが関わるようになりました。結果、それまでの国の食品政策が失われ、食育が無視されてきました。ですから私たち食品生産とサービス開発センターは、国民に向け食育を喚起するためにUBSテレビの料理番組クックタイムを提案し、12年間放送してきました。

J: 食品生産において最も注目されているものは食の安全です。食品生産とサービス開発センターの代表としてあなたは食の安全についてどう感じていますか?

エルデネフー: 政府は1958年から2000年まで、社会主義時代の食品生産の機械化と、集中した公共食堂を調整してきた歴史があります。食品の基本的な3つの役割は今も昔も変わっていません。それは人体組織の構築と再生、代謝の調節、カロリーの確保です。2000年以降、この3つの役割を国民は自身で担ってきました。これは病気、死亡、身体の発達、生活習慣において問題を引き起こしています。大統領の発案により「食の安全に関する全国会議」が開催されました。これは政府が国民の食に注意を向ける一歩となったと思います。食の安全とは、材料の調達とそれを社会的責任へと変えて行くシステムの運用だと思います。モンゴルのシステムはまだまだ不十分ですので、今日の食の安全は確保されていません。

J: 政府は基準を定め、その基準を守らせる義務があります。モンゴルに食品安全基準というものはありますか?海外から輸入される食品を検査する調査研究機関はありますか?

エルデネフー: 政府は最新の検査機器を備えた研究所を開設しました。また国立社会保健センター、食料・農牧業・軽工業省、規格度量衡庁などを監督していますが、これらの省庁の連携が全く不十分です。彼らの仕事といったら、責任から逃れるために責任転嫁ばかりしています。歴史的にみれば、モンゴルはこれまで3つの食品安全基準を作成しました。まずは料理のレシピを500品目作成しました。その数は1986年に1140まで増え、調理方法も示されました。どんな料理を作るかはその人の自由だと言う人もいますが、政府は調理方法を明示しました。厨房機器の償却や人件費に関して法制化することはよいが、飲食店の活動まで口出しする必要はないという人もいます。

J: 飲食店の料理サービスにおける基準とは何ですか?

エルデネフー: 基準には料理サービスの用語の定義、飲食店の種類が定められています。飲食店の設立条件、種類、国際基準に適しているかどうかが法律で規定されています。今は3つ目の食品衛生基準の作成を完成させなければなりません。食品衛生基準に関して食糧・農牧業・軽工業省は何ら方針を示していません。規格度量衡庁は基準の確定のみを担当しています。だから食品衛生基準作成の予算を持つ省庁はありません。食品衛生基準を誰が作成すべきかと言えば、公共団体やNGO、研究者が率先して行うべきです。

J: 国立社会保健センターはどんな役割を担っていますか?

エルデネフー: 国立社会保健センターはモンゴル人の身体にどんな食品が適しているのか、食品から栄養やカロリーをどのくらい摂取しなければならないかなどの基礎調査を実施しています。

J: 例えば、モンゴルの肥満の児童数は、アジアではインドネシアの次に多くなっています。これについてあなたは個人的にどう思っていますか?

エルデネフー: 数日前に「食品安全全国会議」が開催されました。モンゴルの歯科医師協会が10分のプレゼンテーションをしました。このプレゼンテーションでは、2014年までは肥満や血中コレステロールを脂肪と直接関連付けて説明していました。2014年以降は糖質に関連付けて説明するようになりました。モンゴルの子どもの口内を検診すると健康な歯が1つもありません。これは重大な問題だと発表していました。

J: 人々は糖質と言えば砂糖だと理解しがちです。私たちは砂糖以外にどんな形で糖質を摂っていますか?

エルデネフー: モンゴルでは隠された糖質があり、これは3白と言われる塩・炭水化物・脂肪です。私たちが毎日食べているパンや小麦製品、炭酸飲料、果汁などです。小麦製品やジャガイモには砂糖が入ってなくても澱粉を含んでいるので、体内で糖質に変わります。ジャガイモを完全に柔らかくなるまで茹でると成分が変化し糖質が多くなるため、中国人は芯が残っているくらいにして食べています。

J: イタリア人もパスタを芯が少し残るくらいに茹でて食べています。パスタを少し硬めに茹で食べるので消化に時間がかかり、従って血管に入る糖質が少ない。だからイタリア人は太らないと言われます。

エルデネフー: ブロッコリーを3〜4分茹でるとマグネシウムイオンが残り、それが酸化作用によって人体にとって良い形へ変化します。調理する際に食材を茹で過ぎると主成分が失われることになります。グリーンピースやピーマンなどの緑黄色野菜も同じです。ピーマンなどをやや芯が残っている状態で食べると体に良いとされます。このことを知らないので茹で過ぎたものを食べることが多くあります。これは食育と直接関係していると思います。

J: 身体に良いと思って買った食材を間違った方法で調理すると全く効果がなく、血糖値を上げるだけですね。

エルデネフー: 食の安全について大局を見る前に各家庭での食品の取り扱いを見るべきです。現代社会に伝統的な食品加工がどのくらい適しているのかを考察し、新しい知識と情報を信頼できるソースから収集して行かなければなりません。

J: 乳児の離乳食は何歳からが適切ですか?

エルデネフー: 生後6ヵ月まで母乳を飲んで育っている子どもを乳児と言います。6ヵ月が過ぎたら離乳食を食べるようになり、子どもの栄養摂取は成長に大きく影響します。子どもの代謝は成人よりも早いので、カルシウムやタンパク質を大量に摂取することが重要です。

J: 料理の宅配サービスで注意すべきことは何ですか?

エルデネフー: モンゴルでは宅配サービスに関する法整備が不十分です。政策支援もありません。例えば、アジアの他の国ではストリートフードの要件が具体的に整備されています。モンゴルではストリートフードに関する許可はありません。数年前に第3地区にある男性が移動販売のコーヒーショップを始めましたが許可されず閉めざるをえないことがありました。しかし、移動販売を許可しないのであれば、今ソウルストリートの歩行者天国にどうしてあんなに移動販売の車が並んでいるのかが不思議です。もちろん誰がどこで何をするかは個人の自由です。しかし、政府が行うべきことはストリートフード店を管理することです。政府は食品衛生基準、厨房設備条件、飲食店を開店する場所、販売する製品、そこで働く雇用条件などを具体的に規定すれば、ストリートフードはあっても良いとおもいます。このような矛盾があるから正義が成立しません。

J: あなたは当初、ベーカリービジネスをしていました。あなたの父親はウグォージベーカリー工場のパン職人でした。親の職業を子どもが引き継ぐことは非常に興味深いです。

エルデネフー: これについては家庭内の食育、文化、伝統などと関連付けて説明したいと思います。私はパン職人の子として育ちました。私が子どもの頃、父から「揚げパンを作る時はドアを閉めておくように。風が入って揚げパンの形が崩れるから」とよく言われました。当時は不思議に思っていましたが、今は科学的な側面からみてその理由がわかります。例えば、小麦を使った製品を作る場合、前日に小麦を暖かいところに置いていました。今では冷たいまま使うようになっています。

J: 社会主義時代に育った私たちにとって、揚げパンはとても美味しいものでした。揚げパンをどのように作れば身体に良いですか?

エルデネフー: 揚げパンを作るためには小麦や油、砂糖などを適切に保管しなければなりません。小麦粉に加える水は硬質の水道水ではなく、1日置いた軟水でなければなりません。昔は揚げパンをラードで揚げていましたが、今では高品質な油で揚げます。最近では1回使った油を2、3回使っても良いでしょう。それ以上に使えば身体に悪影響を及ぼす硬質油が発生します。つまり車のオイル交換と同じです。ラードは3回、サラダ油なら1回のみ使用するのが好ましいとされます。しかし、この回数は何を揚げたかにもよります。

J: 揚げパンは何日保管できますか?

エルデネフー: 部屋の温度にもよりますが、長くても1週間です。パンや小麦製品を冷蔵庫に保管することによって湿度が高くなり、小麦の澱粉の質が悪くなります。だから冷蔵庫で保管してはいけません。

J: あなたが取り組んでいる活動はモンゴル人の健康や食育にとても良い影響を与えていると思います。あなたはデファクトインタビューに出演した初の料理人です。ありがとうございました。

エルデネフー * ジャルガルサイハン