ラフグジャブ・アリオンボルド氏は旧ソビエト連邦のスヴェルドロフスク州にある国立ウラル工科大学のSiO(酸化ケイ素)技術学部、アメリカのコロラド大学経済学部をそれぞれ卒業しました。彼は自動車のフロントガラス開発のプロジェクト、「Mon-glassプロジェクト」のリーダーを務めた実績があります。2005年にロックウール断熱材製造プロジェクトを立ち上げ、2007年にモンゴル・バサルト社を設立しました。アリオンボルド氏は酸化ケイ素などの鉱物の溶解および熱処理技術の専門、経済学の専門をもっています。モンゴルの優秀な開発エンジニアです。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。まずモンゴル・バサルト社はモンゴル証券取引所に株式を新規公開(IPO)した企業です。このIPOについて話して頂けますか?

アリオンボルド: 我が社は2018年にモンゴル証券取引所に株式を上場しました。私たちは今回のIPOによって、会社の発展が第2段階に入ったと考えています。モンゴル・バサルト社は、製品を市場に供給しはじめて12年、開発・生産を開始して15年になります。

全ての企業にとって、ビジネス、技術、生産、人材、市場といったカテゴリーで成長するだけでなく、会社の存在価値を、証券取引所を通して評価してもらい、より高みを目指すことは発展への一つの段階だと私は思っています。企業が成長する大きな段階の一つとして、その会社の株式を公開することが挙げられると思います。今回のIPOで、私たちは一つの目標を果たすことができたと自負しています。

証券市場へIPOをしたことによって、数多くの投資家の信頼を勝ち取ることができました。そして投資家たちの信頼に応えられるように、私たちは生産技術の向上、市場におけるシェア拡大、企業ガバナンスの改善、事業活動の透明性を図り、より一層頑張らなければならないと、気持も新たにしました。

中央アジア市場におけるシェアも伸びました。これはIPOによる成果だと思います。2018年5月31日にIPOをして今日までの短期間に、生産能力は20%増加し、製造コストも削減することができました。これらは私たちのビジョン、上場企業となったことが間違いではなかったことを裏付けることだと思います。具体的には、2018年の利益は3.9倍に増加し、売上は2017年比39%増加しました。国に納めた納税額も35%増えました。

J: 今回のIPOで株式の何パーセントを公開しましたか?

アリオンボルド: 全株式の30%を公開し、64億トゥグルグの資金を市場から調達しました。

J: ということは、IPOした当時、会社の時価総額はおよそ200億トゥグルグと評価されていたということですね。その時と比べて現在の会社の時価総額は何倍に増えましたか?

アリオンボルド: 私たちは会社の時価総額について、パートナーたちと長い間交渉してきました。我が社のような技術生産工場を持つ企業の時価総額は、ロシア、中国、欧州連合諸国のそれとは異なります。私たちは今日の市場規模、社会貢献、企業価値などを考慮に入れながら会社の時価総額をパートナーたちと交渉し、合意して算出しました。なぜならば、モンゴルには鉱業価値、不動産価値といった概念はありますが、技術やノウハウといったソフトへの価値については、まだ十分に理解されません。

J: 1年後には配当金を支払う予定ですか?

アリオンボルド: 先ほどいったように、我が社の利益はIPO後に3.9倍にまで増えました。ですからその86%を株主に還元します。1株当たり1トゥグルグとなります。もちろん、今後の会社の利益によっては、配当額も上下することがあると思います。

J: 追加で株式を公開する予定はありますか?

アリオンボルド: 現時点では、株式の追加公開は早過ぎると考えています。それより、私たちは現在の投資の下で品質向上とそれによる成果を上げることを重視しています。

J: バサルト社の業務について話したいと思います。バサルト社の製品はそれまでの輸入製品に代わるものになっていますか?またどこにニーズがありますか?

アリオンボルド: 私たちは主に建築分野、エネルギー分野に製品を供給しています。例えば、我が社が生産している建築用断熱材の市場規模は400億トゥグルグです。そのうちの150〜200億トゥグルグがミネラルウールの市場です。モンゴルの建築業界は成長しています。シャングリラや新国際空港の建設など、大規模プロジェクトが実施されるようになり、建築分野では建築資材の選択が重視されるようになりました。今では建築資材に三つの条件が要求されます。それは省エネ、耐火性、室内空間の快適性の三つです。これを受け、現在、モンゴルの建築分野では我が社が製造するロックウールの需要が高まっています。

J: 私はバサルト社の工場を見学し、とても驚きました。玄武岩(バサルト)を粉末にし、コークスで溶解していました。ここで興味をひいたことは、私たちはコークスを、金属を溶解する原料として外国に販売しています。しかし、バサルト社の工場では、金属を溶解させるよりも高温となる1,550℃で玄武岩を溶解し、ウールを作り出していました。どのような仕組みでウールができるのですか?その技術について話して頂けませんか?

アリオンボルド: 玄武岩は火山岩の一種です。私たちは火山の内部で起きるプロセスを人工的に高炉の中で再現しています。もっと簡単に言えば、綿あめの製法と同じです。まず、バサルト(玄武岩)を粉末にして1,500℃の高炉で溶解し、液体状にします。次にその液体状の溶融物を真空状態で毎分6500〜7000回転する機械で回転させ、その後空気を入れ、6〜8ミクロンの細い綿質状の物質を作り出しています。それを圧縮し、平らにし、乾燥させたものが断熱材となります。形状を加工しサンドイッチパネル、パイプライン断熱材など様々な製品を製造しています。

J: バサルト社は、原料となる玄武岩の鉱床を所有しており、製造工場もあります。この事業の将来性をあなたはどう見ていますか?また、世界ではロックウールをどのように活用していますか?

アリオンボルド: 世界の建築分野では、高層ビルの耐火材として広く使われています。最近では、トマトやキュウリなどの野菜の栽培培地としても使われています。

J: 耐火材ということを少し具体的に説明して頂けますか?

アリオンボルド: 建築物が火事で崩壊する原因は、鉄筋や鉄骨などが熱で柔らかくなるからです。その鉄筋や鉄骨の壁に耐火材となるロックウールを入れることで、火災の熱による鉄筋などの劣化を防ぐのです。モンゴルでは、耐火材としてロックウールを新国際空港ターミナルやシャングリラホテルの建設プロジェクトが始まってから広く使われるようになりました。そもそもロックウールは耐火性に優れており、断熱性や吸音性も兼ね備えた資材です。

J: バサルト社は玄武岩からウールを作り出しています。その他に考えている製品などはありますか?

アリオンボルド: 私たちは今、玄武岩からウールを作り出しています。次に玄武岩から繊維(Fiber)を作り出そうと考えています。世界ではガラス繊維、カーボン繊維、バサルト繊維といった3つの繊維が一般的に広く知られています。この中で近年もっとも活用されているのはバサルト繊維です。電気自動車は軽く、省エネかつ頑固でなければなりません。バサルト繊維はこれらの性質を兼ね備えています。ですから自動車のバンパーなどに広く使われるようになっています。自動車のバンパーの他にも、例えばバドミントンのラケットなどを作ることができます。バサルト繊維の用途は多岐に渡ります。今後その技術で様々な製品を開発して行きたいと考えています。そのために私たちはロシア、ヨーロッパ、中国、日本の企業と技術的なパートナー、また研究開発パートナーとして提携して取り組んでいます。

J: 玄武岩は飾り物やアクセサリーにも使われているようですね。

アリオンボルド: 玄武岩は私たちの生命線とも言える貴重な石です。ですから玄武岩でできた嗅ぎタバコの容器やブレスレットなどを作って身に付けています。世界中で古代から火山は信仰の対象となってきました。特にアジアではエネルギーの石と言われていました。例えば、昔のイギリスの王たちは永遠になると意味を込めて玄武岩で墓標などを作っていたと言われています。

J: ドイツのメルケル首相は、核廃絶を玄武岩と関連付けて話していましたが、これはどういう意味ですか?

アリオンボルド: これは世界各国、とりわけヨーロッパ諸国が温室効果ガスによる地球温暖化を防止する取り組みについての話です。地球温暖化に最も影響を与えているものは電力です。では電力をどのように作っていますか?ほとんどの場合は石炭を燃やして発電しています。また、原子力発電もあります。そして作り出される電力全体の47%を建物に使っています。例えば、エアコンや暖房などに使われています。私たちが日常的に消費している石油や天然ガスは、車よりも建築物の断熱性のない窓のために多く使われています。建物に使われるエネルギーの使用量を減らせば、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減できるということです。ですから、ドイツは建築に玄武岩からできるロックウールを多く使用し、エネルギーを削減しようとしています。そうすれば、核エネルギーも削減できるという意味だと思います。

J: あなたはいつから、玄武岩でウールを作ろうと思いましたか?きっかけは何ですか?

アリオンボルド: まず、これは私の専門分野です。ウラル工科大学をSiOエンジニアとして卒業しました。バサルト、ガラス、セラミックは全て酸化ケイ素です。当時、大学ではガラスや耐火レンガ、セラミック、エナメルの製法を教えていました。私は大学3年の時にミネラルウールの製造工場、4年生の時はガラス製造工場で実習していました。そしてセメント工場建設について卒業論文を書きました。

J: あなたはモンゴル商工会議所の理事会やモンゴル建設業協会の理事会の役員です。モンゴル建設業協会は4月25日に大きなイベントを主催します。これについて話して頂けますか?

アリオンボルド: モンゴル建設業協会は、今年で創立10年になります。建築分野は、エネルギー、熱供給、設計など多岐に渡ります。この協会には建築分野で積極的に事業活動を行う約100社が会員になっています。協会は建築分野が直面している問題、法整備環境、消費者のニーズに応えるためには、どのように発展して行かなければならないかといった議論を多くのイベントで行っています。4月25日のイベントもその1つです。私たちは特に建設・都市計画省や政府へ民間企業の声を届けるためにイベントを開催し、取り組んでいます。

J: 今日、モンゴルの建築分野が直面して最大の問題は何だと思いますか?

アリオンボルド:  建築分野が直面している最大の問題は、人材確保です。建築分野の専門家の専門能力向上は喫緊の課題となっています。モンゴルでは、2000年に中国から建築分野で働く人材を多く入れ、開発を進めていました。しかし現在、モンゴル人の建築専門家の問題は、投資よりも最優先される問題になっています。この問題を解決するためにモンゴルの建築業者は非常に努力しています。また、政府も建築分野の研修、学習センターなどの設置を促進するための政策を打ち出していますが、まだ十分ではありません。

私たちはこの問題を、中等教育段階で行わなければならないと思っています。既に社会人となった人に新たに専門を習得させることは簡単ではありません。例えば、私たちが若い時は、粘土やレンガ、セメントの配合などを計算をしていましたが、今日の建築分野では技術進歩が著しく、より高い知識と能力を求めるようになっています。

J: とても重要なお話を聞きました。多くの人は、販売や市場、価格などの問題を取り上げます。しかし、どれほど技術が進歩しようと、人がいなければ建物は建てられません。あなたはこれから10年後のウランバートルはどうなっていると思いますか?

アリオンボルド: まず、ウランバートルの人口は今よりそれほど増加しないと思います。なぜならば、人々は発展の中で都市に集中しがちです。しかし、都市生活をしてみて快適な生活環境とは何か、ビジネスはどのように営まれているのか、物価とは何か、どんな環境にどんな人が住んでいるのか、どんな教育が必要なのかを分かるようになります。そういう意味では、ウランバートルの人口密度は減少して行くと思います。例えば、人々は都会から郊外に移り住むことを望むようになり、実際そのような傾向が見られます。郊外に建設されているタウンハウスの需要が高まっています。また、建築会社は高層マンションを建てるよりタウンハウスの建設プロジェクトに投資を向けています。さらに韓国、中国の建築投資企業は、ウランバートルから20〜30㎞離れた山の麓にタウンハウスを建設し、インフラ整備も自分たちでするようになっています。

J: あなたが取り扱っている製品は世界中で求められているものです。あなたはいつ国際市場に進出しますか?

アリオンボルド: 近い将来、進出したいと思っています。隣国のロシアと中国もロックウールの大きな生産国です。ロシアは国内市場を保護するために関税を高く設定しています。例えば、ロシアに製品を輸出する場合は25%の税金を払わなければならない。中国の関税は2月までは18〜22%でした。しかし、中国は2月に純ロックウールに対する関税を22%から5%に引き下げました。これは私たちにとって大きな機会となりました。

J: 今日はインタビューに出演して頂き、本当にありがとうございます。あなたの今後のご活躍を期待しています。ありがとうございました。

アリオンボルド: ありがとうございました。

アリオンボルド * ジャルガルサイハン